第4話 夢の学園に行きます! ※一部タンジェ視点
あれから1週間経ち、僕はタンジェと共に学園に向かう準備をしていた。
「カイト忘れ物はないか? ちゃんと荷物は持ったか?」
僕の学園編入学に父もそわそわとしている。日付が近づくとずっとこの調子だ
「父さん、もうそれ聞くの5回目だよ?」
「だってな? カイトが居なくなると寂しいんだぞ。なあ、ユーリ?」
「私もカイトがいないと生きていけないわ」
両親二人とも心配性過ぎて拗らせる手前に……いや、もう遅いだろう。兄が入学する時はあっけらかんとしていたのに……。
ここは可愛い息子を演じるしかない。そう思った僕は二人の手を握る。
「僕はいつも大好きな母さんと父さんのことを考えてるよ」
「カイトー!」
両親は泣きながら僕に熱い抱擁をしていた。17歳までの記憶があり、何年もこの両親と接していれば、親の扱いなんて簡単なもんさ。
「おいおい、俺の時とは違わないか? それよりカイト時間だぞ」
やはりタンジェも僕と同じことを思っていたのだろう。タンジェは僕の手を握り、自身の元に引っ張った。
「あー、俺のカイトをお前は奪う気か」
「そうよ! 私達のカイトを!」
「いやいや、俺もあんたらの息子だからな。カイトは今日から俺とずっと一緒だな!」
両親に見えるように抱きつくタンジェに自然と笑みが溢れる。
「ちくしょー! 絶対守れよ!」
「タンジェ、カイトを頼むわね」
「任せておけ!」
モブに転生するのをお願いしたが、恵まれた家族に出会えてよかったと心から感じる。
朝から熱い家族愛劇場は終わり、タンジェとともに馬車に乗って学園がある王都へ向かった。
♢
「母さんも父さんも大袈裟だよね?」
「いやいや、カイト? 自分の姿を見たことあるのか?」
「んー、肌が白くて……ほっそりとした幽霊みたいなモブ!」
「いや、モブが何かは俺にはわからんが決して幽霊みたいではないぞ?」
「それは家族だからそう見えてるだけ――」
カイトは昔から自分のことをモブと呼ぶことがあった。モブという存在はわからないが、自分のことを目立たないと思っているのだ。
――トントン!
「目的地に着きました」
話の途中だったが御者が戸を叩き、到着を知らせにきた。
馬車から降りると王都の大きさにカイトは驚いていた。そんな姿も愛おしいと思えるほど、俺はカイトを愛している。
「迷子になるといけないから手を繋いで!」
「はーい!」
俺は手を出すとカイトはしっかりと握る。同級生が見たら、兄弟で手を繋いで何をやっているんだと言われるかもしれないが、これも変な奴らが寄ってこないための作戦だ。
貴族でもないマーブル商会は王都に馬車を置き、学園まで歩く必要性がある。そのため、貴族ではないが、お金を持っている平民や貴族でも男爵レベルは同じく学園まで歩いている。
いつも通る道なのに、カイトがいるだけで新鮮な気がした。
カイトにとっては両親が過保護なため遠出は禁止されていた。そのため、王都の中が真新しいものばかりでウキウキしているのだろう。
「兄さん! すごいよ! 人がたくさんいる」
若干不安定な足場だったが、カイトはスキップという、変わった歩き方をしながら学園の寮に向かっていた。
カイトが言うには嬉しい時には、スキップをするといいと聞いている。
しばらく歩くと大きな門が目の前に現れる。そこを潜ると、大きな校舎と寮が併設されている。
「兄さん! 兄さん!」
「カイト落ち着け! これから毎日通うんだろ」
カイトの存在に学園中の人達が気づき出した。至る所でコソコソと話している声が聞こえていた。
「ついモブなのを忘れていたよ」
カイトは何か呟いていたが、俺には聞こえなかった。
カイトの容姿は周りが注目するほど優れている。この世界でも珍しく年齢に対しては小さめで、ミルクティー色の髪色に黄色の瞳だ。光に当たると髪色はわずかに輝くほど、色素は薄めで透き通っていた。
基本的にカイトの年齢になれば、体は大きくなるし色素も濃い人が多い。
そんなカイトが他の人の視界に入らないように体で必死に隠す。
「寮はどこなの? 早く行こうよ!」
そんな俺の気も知らず、カイトは手を握りまだかまだかと待っている。
「はぁー、可愛すぎるわ」
この愛おしい弟を独り占めしようとするが、この学園でも難しいだろう。
すでに地位の高い貴族達が目をつけている。
これからの学園生活、俺は死ぬ気でカイトを守ることを誓った。
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