全てが赤色に染まって

第三十九話 全てが赤色に染まって①

◇◇


 二件目、三件目と粛々と進めたが、四件目は建物ごと焼くことになった。魔素が濃すぎて遺体を運ぶとかそういう問題ではなかった。

 五件目は教会直属の組織『教会特別救護隊』が活動する大きな拠点だった。四件目と同様に霊安室ごと燃やすしかない、というファーリンの見解に彼等は真っ向から反対していた。

 それを納めるために、修道士や救護隊と仲の良い騎士が合流することになり木陰で待ちぼうけとなっていた。


「ホントに時間の無駄よ。私達の選択は全てに優先されるわ。それを知らないのかしら?」

「へー、特別救護隊よりも、なんだ……」

「そうよ。死体については私達の権限が一番強いの。まぁ生きた患者に対しては彼等がスペシャリストね。ちなみに普通の街の人達については騎士団を通すのが一番スムーズよ」

「知らないことだらけ……」

「ふふ、そりゃそうよ!」


 駄弁りながら貰った果物や軽食を食べていると後ろから少し懐かしい声が聞こえてきた。


「あれっ? まさかとは思ったけどホントにリアちゃんなの?」


 パッと振り向くとシャルロット先輩が立っていた。

 髪の毛は無造作に纏められており全体的に埃っぽい出立ちだったが、『強く美しい女騎士』の見本のような姿に成長していた。


「あーっ! シャルロット先輩、お久しぶりです!」

「久しぶり、リアちゃん。また会えて嬉しいわ」

「わたしも嬉しいです! てっきり王宮勤めだと思ってたので今回は会えないと思ってました」

「んー……」


 あれ? 少し困り顔よ。また変なこと言っちゃった?


「フランム王国の国家騎士団『焔翼えんよく』には地方で実績を積まないと入れないわ。リアちゃんやラルスみたいなのは特別よ」

「ふへー……閃光は貴族院を卒業したら直ぐに入団だから……」

「貴女達の方が珍しいのよ。ふふふ、因みに焔翼は実力至上主義で有名よ」


 うーむ、女子高生って年齢なんだけど……雰囲気がホントに大人っぽいわ。それにスタイルも良いし。

 発育具合を見比べてみると、正しく『理想vsペタンコ』。


「よ、四年で本当に育つのか……」


 無駄な不安に襲われたところでファーリンがつついてくる。ふふん、ファーリンなら勝てそうだな、とニンマリする。


「何か失礼な視線……じゃなくてリア! 此方の方は?」

「シャルロット先輩よ。わたしの一個上! 貴族院ではお世話になったの」


 少し固まっているファーリン。少し珍しいわね。こういう時は何考えてるのかな?


「やっぱり……この子、本物の『フランムのプリンセス』よ……チャーンス……」


 小声だけど心の声がダダ漏れよ。玉の輿チャンスを目の前にして緊張してるのか。

 んふふ、ファーリンも頑張ってるわね!


「百七十八期卒業のファーリンです。私は文官クラスだったから接点は無かった……かな」

「そうですね。魔導競技会に文官クラスが出られるようになったのはリアちゃん達からですもの。私は百七十九期卒業です」

「貴女の噂は文官クラスにも流れてきてましたよ。憧れている子も少なくなかったと思います」

「ふふ、上級生の皆さんも……それは光栄です」


 満更でもないシャルロットを見てファーリンの目が輝く。パッと手を握りニッコリ微笑むファーリン。


「リア共々仲良くして下さいね!」

「あっ、はい……よ、よろしくお願いしますね」


 圧が凄いわ。ファーリンの本気、初めて見た。


「さぁ、早速お仕事しましょう!」


 シャルロットが間に入るとあっさりと霊安室を諦めてくれた。救護隊の中での派閥争いで影響力を見せたかったんだろう、と呆れながら教えてくれた。

 という訳で、遺体を運び出す手間がない分、予定の時刻より早く終わることとなった。


 騎士団事務所に戻ったところで宿に向かうため馬に荷物を括り付けているとシャルロットが数名の騎士を引き連れてやって来た。


「お二人さん、まだ明るいし少し手伝ってくれない?」

「シャルロット! 分かった、何を手伝えば良い?」


 ファーリンのやる気がスゴイ。まるで尻尾をプンプン振っている仔犬のようよ。

 というわけで、秘密の食べ歩きプランがたった今、海の藻屑になったわ。ぐすん。


◇◇


 お茶汲みのお手伝いさんが会議室から出て行くのを全員で見守る。扉が閉まるや否やシャルロットが口を開いた。


「ここ最近、フランムでは変な感染が多いらしいの。ここハインラインも最近感染が多くてね……」


 第一隊も調査してるもんね。


「それでね、一箇所だけ感染源が分からないのよ……だから、貴女達の鎧の力を借りたいと思って」


 謎の感染がここ数日拡がっているらしい。どれだけ調査しても感染源が皆目見当がつかないらしい。

 そこで感染源が分かると噂の『閃光騎士団の鎧』を使って一緒に調査して欲しいとのことだった。


 ちなみに紋章に備わる魔導は単に感染者に近づくと反応する、という事になっている。『魔素』の存在もこの世界の秘密の一つだ。


「感染者の死体が何処かにあると予想しているわ。でも……何処にあるか分からないのよ。その鎧があれば直ぐに解決できそうじゃない?」

「そうね。期待に沿えると思うわ。感染の多い地区から洗いましょう」

「ありがとう。目星は付けてあるわ。二区の教会の周りが怪しいの。聖なる教会に死体があるとは言わないけど、近くにはありそうよ」


 ファーリンとシャルロット……思ったより似合いのペアだな。シャルロット先輩が一個上のファーリンを頼ってる感じが初々しい。


 しょうがない。ファーリンの『玉の輿チャンス』の為にだ。もう一仕事リアちゃんも頑張ってあげよう!

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