第二十八話 お受けします②
◇◇
数日後のいつものテラスに一人。
久々にゆっくりと紅茶を飲みながら紅葉に染まる木々を眺める。
すると武術訓練の授業が終わったのか同級生達がわたしの周りに集まってくる。
「もうキスとかした? 今日は白状しなさい!」
「ねーねー、ラルスってどうなの? 優しい?」
「今日はデートするの? ふふ、一緒に行って良い?」
皆が好き勝手に質問してくる。まぁ、わたしは勝ち誇った顔でそれに答えるんだけどね。こんなやり取りが告白されてからは毎日続いていてるのよ。
「もー、落ち着いてよー。ふふふ、最近デートする暇も無いのよねー」
「キャー!」黄色い悲鳴が飛ぶ。
「まさか、あのラルスとリアがくっつくとはね」
「私達の可愛い妹分のリアが、あの『帝国トリオ』の筋肉オバケと、だものねー」
「ほらっ、早くヨーナス様を紹介しなさいよ」
ふふ、部活終わりの部室を思い出す。もっとも前世のわたしは取り囲んで質問する側の経験しか無いんだけどね。彼氏が出来た子が羨ましかったもん!
するとラルスがいつもの二人とテラスに姿を見せた。
「あっ、噂の彼氏よっ!」
「ラルス! ほらっ、愛しのリアはここよ。ふふふ」
「ほらほら、そこで固まってないで早く隣に座りなさい」
「あら、ヨーナス様はこちらにお座りになってください。ほらっイーリアスもこっちに座って」
ラルスに向かって手を振るが、いつもの通り固まっている。
「……」
恋人と姦しい女の子達を見て固まるラルス。ここ数日は女の子達から質問攻めに遭っていた。そのやり取りの中で周りの印象は『名家の硬派』から『照れ屋の筋肉オバケ』へ変わっていた。
「皆さんご機嫌よう。お手柔らかにお願いしますよ。ラルスは女の子との会話が苦手なので」
ニコニコしているヨーナスはいつの間にやら学年のアイドルから学園のアイドル的ポジションに格上げされていた。
「またお茶会やってんのかよ。面倒くせー、ラルスだけ置いてこうぜ」
イーリアスは思ったより熱血な事がバレてから、冷酷なイメージは払拭されつつあるが、ラルスと同様に若干雑な扱われ方をされていた。
クルッと反転するラルス。
「またな……」
そそくさとその場から逃げ出していった。
「あーんっ、逃げられちゃった」
周りの子達が不満そうにブーイングを飛ばす。
そうなのよね。心配するなら二人きりにして欲しいわ。恥ずいから言わないけど……。
と言う感じで、恋人が出来たものの登下校で手を繋ぐとか、教会の裏でキスをするとか、そういうのが無いままに時間が過ぎていった。
「あ、そろそろ休み時間終わっちゃう! もー、連続で武術訓練とか、ふざけてるよねー」
口々に文句を言いながら自分のティーカップを片付け始めるクラスメイト達。
「いってらっしゃーい」
ティーカップ片手に余裕のわたし。この境遇にも慣れてきたわ。
「この時ばかりは出身国を恨むわ。私、文官志望なんだけどね……」
「ふふ、武術は身体と精神を鍛えるわ。絶対に役に立つからがんばってね」
「リア……あなたに言われたくないわよ?」
「あははは」
皆で笑い合うと、姦しい少女達は去っていった。
はー、ラルスと会う時間よりシャーリーとのお茶会の方が絶対に多いわよね……。
まぁ、逆に恋焦がれる気持ちがどんどん増す感じがなんとも素敵なんですけど。
冷えた両手を自分の頬にあてて、火照る体温を感じてみる。
わたし、こんなに『恋する乙女』になれるんだ、と自分で感心してしまう。
冬支度を始める木々の落葉する様を眺める。
騒がしいのも好き。でも、最近は物思いに一人耽るのも好き。本当は横にラルスがいて欲しい。そう考えるだけで、また頬の火照りが強くなる。
ふふふ、絶対に言わないけど、シャーリーには心から感謝するわ。
あっ、シャーリーが手を振りながら近づいて来る。じゃあ、お茶会第二部でも開催しましょう!
第二章 End
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こうして貴族院での生活は穏やかに過ぎていったのでした。
それでは
リアに大きな影響を与えた貴族院を卒業すると、苛烈な運命が顔をのぞかせ始めます。『世界の闇』を知り、『世界の悪』とも邂逅し、そして故郷が危機に直面します。
それでは
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