第二十話 魔導競技体育大会③
◇◇
シャーリーの止まらないアナウンスは続いている。
『――さぁさぁ競技開始のお時間を迎えました。昨年迄は魔導射撃がメインの種目でクライマックスは馬上槍試合というのが定番でした。今回は私とリア執政官にて種目を刷新致しました。これには語るも涙、話せば長くなる……』
「ふふ、良いわねー、チープな音楽と変なアナウンス。運動会っぽいわ!」
クルッと振り向き皆の前で仁王立ち。
「お前らー、準備はできてるかー!」
「おーぉ」
もう返す者も居ない赤チーム。
「何回目だよ、気合い入れるの……」
「何回でもやるのっ! さぁ、徒競走は出るの誰?」
「オレだ」「出るよ」「はいよ」
ラルスがまずスッと前に出た。
他に結構な人数が後に続く。
「あっ、がんばってねー! ラルスはリレーも出るよね?」
「ああ、俺、走るの速いんだ。魔導有りでも無しでも負ける気はしないよ」
静かに自信満々なラルスを見て、こちらが少し武者震いしてしまう。
「ひゃー、かっこいいー! みんなも速いの? すごーい」
満更でもなく照れるラルス。他のメンバーは妹にでも褒められたみたいで嬉しそう。
勝ってくれるなら何でも良いわ!
「うふふ、徒競走はわたしも走者でがんばるわよ。リレーでは応援をがんばるわ。期待してて!」
「お前の
すると赤チームの一部女子生徒が少し心配そうに背後から声をかけてきた。
「リアちゃん……大丈夫? なんか……あれは……ちょっとヤバいくない?」
「だいじょーぶ! 可愛いんだから、ふふ、みんなも頑張ってね!」
気にせず一人で『えいえいおー』とやってお見送り。皆さん胸を張ってスタート位置まで歩いていく。そこには他チームの精鋭達も男女問わず集まっていた。
あれ? シャルロット先輩が呼んでいる……。
「あっ、わたしもだった!」
スタート地点までまずダッシュすることになった。
◇◇
徒競走は短距離の直線を並んで走り、一番早い走者を決める種目だ。
「魔導無しに走るなんて久し振りよ」
「そうね。お爺ちゃんみたいな武術の先生が『気合いじゃ』とか言ってやらせる感じ」
「ホント、魔導無しってキツイわよねー」
どうもこの世界では魔導の身体制御の技術が進んでいるので、ただ走るというのは珍しいらしい。なので誰が足が速いかは想像出来ない、と皆が言っていた。
各チームから四名ほどがスタートラインに並ぶ。今年の体育大会で初の競技なので各チームの代表格が揃い踏み。ラルスとイーリアスも参加だ。
ちなみにヨーナスは疲れる種目には一切出るつもりは無いらしい。
「ラルス! 負けねーぜ!」
「望むところだ、イーリアス」
ふふ、青春っぽいわねー。しかし……シャーリーのアナウンス。まだまだ途切れないわね。
シャーリーは解説席みたいな場所に陣取り、殆ど原稿を見ずにテンション高く喋り続けている。
『――えーっ、この記念すべき本日の最初の競技種目は徒競走! ただ走るだけというシンプルな競技。だからこそ、選手の純粋な体力が競われます。それでは選手紹介から……えっ、既に押してる? エルヴィンくん、ほんと? では各自の選手の紹介はタイミングを見計らって致します。では、スタートラインに着いて下さい』
「押してるって……どれだけ喋るつもりなんだ……」
アナウンスを聞いていた一部の生徒からは驚きの声が漏れる。シャーリーの横では実行委員の二年生、エルヴィンが分厚い台本と時計を見比べながらシャーリーに指示している。
あらっ、エルヴィンくんだ。サールと同郷の子よね。ふふ、実行委員かー。サールからは地味な暴れん坊で手が付けられない超武闘派って聞いていたけど、この子も裏方が好きなのね。
そういえば、以前庭の隅の方でこの二人を見かけた時、サールが仁王立ちでこの子を……正座させてたのよね。それで、わたしに気付くとサールが慌ててエルヴィンくんを立たせて土下座し始めたのよね……何だったのかしら?
「エルヴィン、みっともない事を私にさせないでぇー」ですって。
何か劇の練習でもしてたのかな……ふふふ。サールもいつもと雰囲気が全然違ったから、もしかして痴話喧嘩なの? 二人は恋人同士なの? って聞いてみたら二人とも凄い顔してたなぁ。だから違うみたいだけど、仲は良さそうよ!
エルヴィンくん、シャーリーは任せたわ!
皆がスタート位置に着き、スタートの号砲を待つ。
ラルスだけはスパイクもスターティングブロックも無しにクラウチングスタートの態勢ね。あっ、あれは勿論、わたしからの
『――位置について……よーい……どーん!』
号砲は無いの。魔導禁止エリアで良い方法が無かったから、シャーリーが小学生の運動会みたいにスタートの合図をするのよ。
『――おーっと、イーリアス速い! ってあらら? ラルス……速すぎよ。一着はラルス、二着はイーリアス…、三着は……』
五十メートルほどの距離で五メートルは差がついている。流石ね、息も切れずに一着の旗を受け取ってるわ。
ラルスがボディービルダーみたいなポーズを取る。あれもわたしのアドバイス。
絶対に「筋肉は裏切らない」とか言ってるわよ。
『――では次の組みー。次は女子ですよ。男女が交互にスタートしますからね。では、選手紹介から。一番から青チーム三年アレクシア! 魔女っぽい出立ちだけど実は運動大好き三姉妹の真ん中……えっ、押してる? もー……』
女子の部も各チームの足の速い生徒達が勢揃い。赤チームはわたしとシャルロット先輩。青チームは通称『スリーA』のアリス、アレクシア、アリアーネの三姉妹先輩。黄チームからはサーガ先輩が出場よ。
「私が勝つわよ!」
サーガ先輩は腕を組んで仁王立ち。
しかし、シャルロット先輩はスリーA先輩と雑談中。
「そうなのよねー。何か男子の挙動が全体的に変なのよね」
「そうそう。すごく視線を感じるの」
「で、こちらが見ると、みんな目を背けるし……」
「ところで、なんで青チームの男子、正座して待ってるの?」
「あの子達、ホントに演技かなぁ……」
「リアちゃーん、この服、着心地良いし可愛いけど、どうなの?」
ありゃ、発育の良いお姉様方は視線が気になるのかな? しかし……うーむ、羨ましいのう。じっと皆の発育具合を確認。続いて自分の身体を確認。
何も答えず、ふんっ、と鼻息荒くガッツポーズする。
よしっ! 負けるなリア。わたしには、まだ五年あるわ!
「おいっ、シャルロット! 私の勝利宣言に反応は無いのか!」
「あっ、ごめーん。サーガ、負けないわよ!」
サーガ先輩、シャルロット先輩に無視されて耐えられなくなったみたい。
そういえば誰か言ってた。
シャルロットは同級生で何かと一緒にいるサーガを親友と思っている。だから、大袈裟にライバル視されてもあまり本気で取り組まない、ですって。
「それより、今日終わったらさぁ、美味しいケーキ屋さん見つけたから一緒に行かない? ベリーソースたっぷりのパンケーキ! どう、時間ある?」
「えーっ、行く行く! シャルの舌はしっかりしてるから外れないもんね! わー、楽しくなってきた。よーし、負けないわよー!」
「ふふーん、こっちも負けないよー!」
二人だけの会話だと、普通の女の子同士のキャピキャピした会話になってるわね。
「さぁ、リア! 最初の種目よ、気合い入れましょう」
「シャルロットー! お前には負けんぞー! 全員、気合い入れろー!」
シャルロット先輩はまだしもサーガ先輩のギャルっぽい台詞は正直引くわね……。二人の変わりように周りの出場選手も引いている。
「良かった、サーガ様、戻って来た。恐ろしい……流石はシャルロット先輩。
黄色チームの女の子達はいつもの高飛車サーガ先輩に戻って胸を撫で下ろしてる。
『――それでは、位置について……』
あっ、次わたしだった。
シャルロット先輩の横に並ぶ。ラルスに教えておいてアレだけど、普通のスタンディングスタートよ。
『――よーい、どーん!』
シャーリーの掛け声で全力疾走!
でも、グンっと三人が前に出る。スリーA先輩、はやーい!
そのままゴール。一番から三番までは青チームが独占。次は赤チームのシャルロット先輩。
わたしは五着。頑張った方よね……と自分で自分を褒めていると、まだ歓声が響いていた。
「サーガ様! がんばってー!」
皆が走り終わってるのにサーガ先輩、まだ走ってるじゃん。身体の魔導制御が抜群に上手いから、魔導制御ありなら騎馬より速く駆けられるけど、無しだとまともに走れないって噂、ホントだったのね。
クタクタになりながらゴールテープを切る先輩。
「はぁ……はぁ……流石はライバルね! はぁ……はぁ……シャルロット」
やっと走り終わり、九位の旗を杖代わりに息も絶え絶えだ。
「サーガ、前より速いんじゃない? 体力ついて来たわね!」
「はぁ、はぁ、ありが……とう、はぁ……」
そのまま座り込んでしまう。でも周りの黄色チームの女の子達はサーガ先輩を褒め称えている。
「サーガ様、走るのが苦手なのに参加するその高貴な精神、尊敬いたしますわ!」
「偉いわ! 黄色チームの女の子達、サーガ先輩を褒めるのを諦めないのね」
黄色チームはサーガの健闘を、周りの生徒は黄色チームの一致団結っぷりを褒め称えている。
「いや、苦手なら出るなよ……」
イーリアスは片手を顔にやって呆れていた。
そんな中でもシャーリーがアナウンスを読み上げると、どんどん皆が走り出す。
『――よーい……どーん!』
「きゃー! 魔導無しで走るの久しぶりすぎー」
「やったー! 私速ーい!」
走るだけの種目なので結構な数の生徒が参加していた。流れ作業的に次々と走る生徒達。
『――よーい……どーん!』
「あはは、私、遅ーい、あはは」
「この服、動き易いわね。なんかもっと体動かしたくなってきた!」
テンション高くなる女子生徒の揺れる胸に釘付けの男子生徒の視線。それを見て怒るシャルロット先輩や呆れるスリーA先輩。それでもアナウンスを止めない一番楽しそうなシャーリー。サイコーの体育大会よ!
ちなみに文官志望の生徒は自由参加だ。出たい種目があればチームに参加しても良い。嫌なら見学でも良い、としたわ。
だから、ロッテやメラニーは見学席で飲み物を飲みながら優雅に見学中。ノーラとカーナはリアと応援にだけ参加するらしい。サールは……迷子中ね。
◇◇
午前中は魔導射撃、綱引き、そして剣技の模擬戦などが行われた……って、そう剣技よ。一対一で模造刀で斬り合うの。
「はいはいはーい! わたし、飛び入りで出るー! 出るのー!」
全力で駄々をこねたんだけど、ダメだったわ。シャルロットもラルスもカーリンからしっかり聞かされていたらしいの。剣を人前で握ったら
泣きながらゴネたから二人とも辛そうだったけど、わたしはもっと辛いのよー!
あぁ、『見知らぬ天才剣士』の華麗な登場がぁ!
◇◇
「リア……そう怒るなよ」
「そうよ、リアちゃん。カーリンさんも恨んじゃダメよ。あなたの為を思ってのことなんだから」
現在絶賛プンスカ中のリアちゃんです!
ダメなこと位、分かってますよ。お二人には感謝です! でも悔しくて悔しくて……という訳で腹立ち紛れに現在の得点状況をおさらいします。
得点的にはスピード競技と魔導競技で得点を積み重ねた青チームが一位で、赤チームと黄チームは似たり寄ったりです。でも、剣技の模擬戦では流石のイーリアスが優勝したので青、黄、赤の順番となりました。
では、生徒の皆さんの意見を聞いてみましょう。
「ここでインタビューでーす。どうですか?」
「青チーム強えーな。スリーA先輩があんなに足速いとはな……」
「あぁ、思わず(主に上半身に)見入ってしまうし……」
はい、この意見は省略、しょーりゃくー!
「それに青の男子ども、なんか謎の結束力があるしな」
「剣技は流石のイーリアスだったし……綱引きはラルスのお陰で圧勝だったけど、青に追いつけるか……」
はい、赤チームの皆さんの意見でしたー。
青チームはヨーナスがリーダーなので魔導だけだと思っていたら、スリーA先輩のお陰でバランス良く強いチームになってるわね。
遠くに見える青チームのヨーナスは無駄に豪華な椅子にふんぞり返って満足そうだ。
体育大会、楽しんでくれてるなら嬉しいわ!
『――はい、みなさーん、徒競走は終わりでーす。次の種目は……えーっと何だったかしら……』
『――リレーです』
『――あっ、ありがとー!』
しかし、アナウンスは止まらないわね。休んでるのかしら。心なしか声が掠れて気もするわ。
『――次は午前中最後の種目、チーム対抗リレーです。選手はスタート位置について下さい。ほらっ、早く! 選手紹介する時間が……』
『――シャーリー先輩。時間が無いので早くスタートの準備を……』
『――ほらーっ! また紹介できない! 折角のインタビュー原稿がどんどん飛ばされるー』
『――シャーリー先輩、スタートの準備をお願いします』
淡々としたエルヴィンと慌てふためくシャーリー。お似合いのペアね。
シャーリーのアナウンスが次の種目の開始を伝えていた。
「そっか、リレーだ。じゃあ、応援団長はスペシャル応援の準備してくる! 先輩、行きますよー」
「大丈夫かなぁ……」
「カワイイから大丈夫!」
五名ほどの赤チームの女子生徒を引き連れて、校舎の一室に向かった。そこには、真っ赤な
「さぁ、みんな。覚悟は良い?」
最後の確認をすると、全員がコクリと頷いた。
◇◇
戦闘服に着替えたわたし達は少し緊張していた。
布少なっ!
いえ、鏡に写る姿は自分で言うのも何だけど可愛いわよ。カーナも先輩方も可愛い!
でも、前世では
「だからこそ……」
声出ちゃった。そう、だからこそ、この世界でははっちゃけたいのよー!
ドアの隙間からそっと覗く六人。
「あっ、ラルス達だ!」
リレー選手同士でグータッチとかしてる。ふふふ、男の子って感じね! ここでシャーリーのアナウンスが聞こえてきた。よーし、タイミングはバッチリよ。
「――えーっ……あっ、アレね……ここからはリア執政官と有志の皆様によるスペシャル応援をお楽しみ下さい。準備が出来次第始まります。今しばらくお待ちください」
すると、ノーラがオーケストラの音合わせを始めた。
「よしっ、行きましょう。ラルス達の前でダンスすれば緊張しなくて済むわ!」
五人に微笑みながら伝えると、皆が頷いてくれた。
「良いわね。リア! ラルス達をまずビックリさせよう」
「そ、そうね。カーナちゃんやリアちゃんの言う通り……よね」
「私、覚悟決めたわ! アデル、行くわよ!」
「うん……わ、分かったわ!」
「じゃあ、行きましょう!」
バタンと勢い良くドアを開けて六人が飛び出すと少しの注目と小さなザワッとした声が聴こえる。ノーラに
プレリュードに乗せて六人で円陣を組んで気合をもう一度入れる。
「レディー……」
「ゴーー!」
わたし達の掛け声を合図に曲調が変わる。
それダッシュよ。
カーナは満面の笑み。楽しくて仕方がないらしい。お姉様方はちょっと恥ずかしそう。でもしっかり伝えた。
「わたし達が恥ずかしがったら百パーセントエロい目で見られるわ。だから自信満々にしていなきゃダメ!」
そう、だからミニスカートが翻っても気にしない。だから、恥ずかしかったら叫ぶのよ!
「ファーイト!」
「GOGO!」
「レッツゴー!」
お姉様方も吹っ切れたみたい。笑いながら、ジャンプしながら、回りながら、グラウンドを目指す。事前に決めた立ち位置に立つと、ノーラの指揮でオーケストラが短く音を纏めて『ジャンッ!』と鳴らす。
それと同時にわたしとカーナの前列、お姉様方四人の後列で並び各自がポーズを決めて静止する。
体操服よりピタッとしたタンクトップにミニスカート。チームカラーの赤色がイメージカラー。ミニスカートが翻っても安心なように赤いスパッツを装備。
これは完璧じゃない?
ドラムロールが鳴り響き徐々に大きくなることで観客の期待が否が応でも高まっていく。
再度『ジャンッ!』と鳴らすのを合図にわたしが口上を述べる。
「皆さん、体育大会への参加、ありがとうございます。それでは執行官と有志の皆様で、スペシャル応援を披露させていただきます!」
ミニスカートのポケットからポンポンを出すともう一度ポーズを決める。さぁ、ノーラ、タイミングは任せたよ。
少しだけ間を空けて、高速テンポの音楽が鳴り響く。これはわたしが好きな曲をノーラに耳コピーして貰った。あの子、歌唱、絵画、演奏以外は何でもできるのよ!
「イエス、レッツゴーー!」
曲に合わせて一斉にダンス開始。
お揃いの大きな赤いリボンをお揃いのポニーテールに付けて、黄色いポンポンを全員で振り回す
「ヘイ、ヘイ、赤チーム、GO! GO!」
ふふ、どうよ、可愛いでしょ!
わたしチアのユニフォームに憧れてたの。さぁ、応援しまくるわよ!
音楽に合わせてステップを踏むと大きなリボンが揺れ動く。ポンポンを振り回して「Year!」と全員で叫ぶ。
どうよどうよ、学校帰りに湖畔で練習したのよ!
嬉しい誤算はラルス達が一番近くに居ること。少し照れるけど凄く安心。でも、じっと見つめてくるのね。見過ぎじゃない? じゃあ反撃にウインクしてあげる。
『パチっ!』
ほら、クリティカルヒット! あはは、ラルス撃退〜。
少しの間言葉を失っていた生徒達。ラルス達の場所がが観客最前列と判断したのか一斉にダッシュで移動しできたわよ!
えっ、怖い!
あっ、でも、わたし達の前に整列してくれた。すぐにリズムに乗せて身体を揺らしながら一緒に騒ぎ始めてくれた!
流石は少し早めのテンポの明るい曲。
ふふふ、前世でオタクの幼馴染が、言っていた。『もし、異世界に転生したら選曲は明るくポップで速いリズムの曲にしろと。過去や未来に行ったり来たりする
多分無理だけど、帰ったらいっぱい褒めてやろっと!
観客の女子生徒も一緒に身体を動かしてくれたので、恥ずかしがっていた後列の四人も楽しそうに踊り出してくれた。
「赤チーム、Year!」
「Year!」
「黄色チーム、Year!」
「Year!」
「青チーム、Year!」
「Year!」
男子生徒の殆どは目が釘付けになって、わたし達に夢中。横で女子生徒がガンガン踊っていても、わたし達に夢中。心なしか後列ばかり見られている感じが……。
あっ、横で踊る女の子をじっと見つめる子もいるわ。ふふふ、好きな子なのかな?
「か、可愛い……」
「ステキ……だけど……ちょっと……」
そうよ! カワイイのよ!
踊り出さない女子生徒もウズウズしてる感じよ。
「いえーい、楽しい!」
「黄色チーム、ファイトー!」
よしよし、盛り上がりは最高潮よ!
そう確信した時、視界の端に学園講師が数名走ってくるのが見えた。
やばいっ!
最初に思ったのは『怒られるー!』だった。
「ピピーッ!」
笛を吹き始めると音楽が停止する。
あっ、ノーラも注意されてる。
ん? わたしにイエローカードなの?
「衣装が貴族院の規程から外れています。風紀を乱す可能性がありますので中止を勧告します」
男子生徒は凄いブーイング。心の叫びね。
「でも、カワイイのにーっ。エッチにならないように配慮したわよ!」
「これは
えっ…………わたし以外? 周りを見回すが誰も目を合わせてくれない。
「あの……わたしは良いの?」
「ん? 貴女は……えーっと……健康的だから大丈夫よ」
何それ? ちょっと不満!
「私も扇情的?」
あっ、カーナが手を挙げて質問してる。
えっ、カーナは……
教員数名が数メートル下がって協議を始めたわよ。ドキドキ。
静かに様子を伺っていると、一人が戻ってきたわ。
「ギリで扇情的と判断します」
「よーしっ!」
カーナはガッツポーズ。良いなぁ。
「大きさか……」
誰かが小さく呟いた。
すると沢山の視線がわたし達の上半身を見比べ始めた。アデル達はさっと胸の辺りを腕で隠す。
「何っ? なんか失礼な視線を感じるっ!」
仁王立ちでみんなを睨みつけるが、誰もわたしを見ていない。
見てなさい! 五年、いや、三年よ! わたしも必ず
五人は着替えさせられる為に教員に連行されていった。手を振りながら走り去るカーナをお見送り。
わたしだけぽつんと残されちゃった。
「良くやった!」
「リア、お前、出来る子だと思ってた」
「オレはお前に投票したことを誇りに思うよ!」
「ありがとう、ありがとう……」
あれ? 何故か男子生徒がわたしを褒め称えてくれるわ。ふふふ、じゃあ結果オーライね。
「可愛さが認められたならオッケーよ!」
自チームの控えテントに戻って水分補給していると、大人しめの女の子達が、周りに集まって来た。
「わー、カワイイね」
「ちょっと見せて! 恥ずかしくてグラウンドの方には行けなくて……」
「はい、どうぞどうぞ、よく見てくださーい! 自慢の逸品ですよー。午後もこのまま競技も応援も頑張るわよー!」
「きゃー! カワイイー!」
会話を聞いていたシャルロットが少し心配そうに尋ねてきた。
「リアちゃん、その格好のまま競技に出るの?」
「うん。応援もするからね!」
あら? 大丈夫かなって顔してる。
「うーん、妹が川で水遊びしてる時と同じか……よしっ、確かにカワイイから私が守る!」
ちっさい子扱いは少し不満だけど、まぁ良いか!
「はい、ヨロシクお願いします!」
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