第十九話 魔導競技体育大会②
◇◇◇ 帝国歴 二百九十一年 十月吉日
『――さぁさぁ、やって参りました。毎年恒例の魔導競技会ですが本年から『秋の魔導競技体育大会』と名前を変えて開催されます。晴天にも恵まれて……』
テンション高めのシャーリーのアナウンスが魔導を使ったスピーカーから大音量で響く。
シャーリー、凄い張り切ってるな……。何かみっちり原稿作ってたもんな。よしっ! テンションがおかしくなってる親友の声も心地良いわ。
『――えーっ……創立百八十年を迎えたこの貴族院の行事として毎年十月に行われます。運動や武術の成績をベースに学年混合で均等な三チームに分けられ……』
しかし、アナウンス……途切れないわね。
アナウンスに聞き入っているとクラスメイトが近づいて来た。
「おはよー、リア。別のチームだね、負けないよー!」
「ふふふ、ギッタンバッコンにしてあげるわ」
「何かお婆ちゃんみたいな言い方ね。ふふ、じゃあまたね。衣装可愛いわ」
「ありがとう!」
衣装も褒めてもらえたし、さて、控えのテントに戻るか……アナウンスも止まらないし。
『――えっと……リーダーは二年生、サブリーダーは三年生が担当します。あー、どのリーダーに当たっても恨みっこ無し! 皆様の努力で優勝に導きましょう。それではチームのご紹介……』
ふふ、シャーリー頑張って! わたしも頑張るわ。
◇◇◇ 赤チーム
「お前らー! 準備はできてるかぁ!」
赤チームの
「ぉぉーぉ」
あれ? 周りは見るからにやる気がなさそう。シャーリーのアナウンスの方が大きく聞こえそう。
男子はダラダラと訓練場の一画に作られた控えのエリアでカードゲームをしたりしている。女子達は固まってお喋り中だ。
「気合い入れなさいよっ!」
「所詮授業だぜ。」
「しかも成績には反映されない。これでやる気出せって言ってもなぁ」
カードゲームに参加していない男子は寝転がり始める。
「ちょっとね……皆と同じ服装とか、何か照れるのよね」
「そうそう、思ったより、ピタッとしてて……」
女子達は姿勢良くテントの中で固まってなるべく男子生徒からの視線を避けようとしている。今回新たに支給された運動着が少しお気に召さないらしい。
「お揃いの体操服、可愛くない? もっと喜んでよね!」
実は
何とか体育の授業で着ていたジャージを再現出来たのに。半袖の運動着と長袖の上着で下は膝丈のハーフパンツ。チーム毎に三色のバリエーション。この肌触り、伸縮性、こだわりのゼッケン!
うん、やっぱりまずまずの出来のはずよ!
「ほらほらー、動き易いしオシャレなのよ!」
基本は白色で、オシャレにラインの数で学年。色でチームを表している。リアの場合は赤色の二本線が斜めに引かれている。
モデル風ポーズを決めてアピール! ゼッケンと長めのハチマキもしているので、現代なら運動会と一目で分かる出立よ。
「凄く可愛いけど……ねぇ」
「いつもは身体のラインが出ないから……ちょっと視線がね……」
女子達全員で男子達を睨む。
すぐに散らばる男子の視線。
そうなのよね……男子達からは概ね好評なの。
握手を沢山の男子から求められたの。でもエロ目線はやめて欲しいわ!
確かに皆さんのいつもの格好って自国の騎士団の練習着なのよね。パンツ姿やスカートに分厚いドロワーズとかバリエーションに飛んでるから体型がバレ辛かったのよね。
じっと自分の絶壁を見る。
軽く絶望に襲われるが、まだ十一歳、ガンバレと自分を応援する。
「リアのぺたんこは置いといて……みんな結構大きいな……」
「あぁ、知らなかった。着痩せ、と言うやつか? 細いんだけど出るとこは出てて……」
「うちのチームだとアデル先輩が一番で、二番はルイーズ先輩かな……」
「やはり、センパイ達の大きさスゴイっす。同級の奴らなんてリアより少し大きいだけ……」
男子達の視線と学年入り混じってのコソコソ話から漏れる名前と順位。名前が聞こえてきたアデルとルイーズは少し恥ずかしそうに胸を押さえている。
セクハラは絶対NGよ。
「そんなこと言っては――」
「――あんた達! そんな事ばかり言ってるなら、全員その股の間に付いてるモノを並べて長さのコンテストするわよっ!」
チームのサブリーダー、シャルロットがテントに入るや否や仁王立ちで威圧している。シャルロットはシャーリーと同じ最上級生で武術訓練でも男子達をバッタバッタと薙ぎ倒す事で有名だ。
いえーい! わたしじゃ効き目無いけどシャルロット先輩は怖いわよ。
股間を抑えて後ろを向いちゃってるわよ、おほほ。
さぁ、並んでわたしも仁王立ちよ……って、ぐぬぬ、わたしの目算では三番目の大きさがシャルロットね。
「どうした……?」
ここでリーダーのラルスが登場した。
「あっ、ラルスさん!」
男子達が一斉に緊張し始める。どうも、ラルスは無口なので『硬派で怖い』イメージが定着している。
喋ると違うんだけどね。
「ラルス、こいつら女子の胸ばかり見てるんだ。説教してやってくれ」
シャルロットがニヤニヤ告げ口すると、更に緊張する男子達。ラルスは無言で男子を睨んでいる。
「す、す、すみません、アニキ!」
「もう女子を揶揄いません」
「エロい目で見ないよう頑張ります!」
ラルスの視線に耐えられない男子生徒が次々と土下座し始める。正に王者の風格。
これには女子生徒の溜飲も下がりっぱなし。
「さすがラルス君!」
「ラルス様、渋いですわ」
無駄に評価が上がっていく。
ふふふ、セクハラも無くなれば、もっと楽しくなる。服だって身体を動かしたら評価も変わる。
だってこんなに可愛いんだから!
「さぁ、競技が始まるわよ!」
◆◆◆ 青チーム
青チームのテントの中で、体操着を着た数名の女子がクネクネ踊っている。
「ヨーナス様、この衣装はどうですか?」
「はい、可愛いですよ」
「キャー」
他の女子がヨーナスの横に来て皿の上のサンドイッチを渡している。背後には飲み物を持った子も控えている。
「ヨーナス様、こちらのサンドイッチ手作りしてきましたの、よろしかったら朝ごはんにどうぞ」
「はい、後で頂きますよ。可愛い子の作るサンドイッチはさぞ美味しいでしょうね」
「キャー」
大きな団扇をゆったりと仰いで微風をヨーナスにあてている。テントの中なのに日傘を持った女子も居た。
「ヨーナス様、お暑く無いですか? 日焼けなどしませんように、ご注意くださいませ。仰ぐ速さはこの位でよろしいですか?」
そもそも、ヨーナスの周りにはチームの女子達が取り囲んでいた。
「はい、ありがとう。座り心地も良いよ。皆さんの膝枕には負けると思いますけど」
「キャーー!」
名家の生まれに驕らない紳士な態度。そして端正な顔立ち。ヨーナスは貴族院の中でアイドル的なポジションを築いていた。そんなアイドルが同じチームにいるのを良い事に、何とかお近づきになる為、接待しまくっていた。
「皆さん、ありがとう。可愛い子達から親切にされて、今日は天にも昇る気持ちですよ」
「キャーーーー!」
ヨーナスの口からはナチュラルに甘い言葉が出てくるので、女の子達の接待も止まらないし、黄色い悲鳴は鳴り止まなかった。
◇◇
という訳で、このチームの他の男子達は、隅っこに追いやられていたのだが、妙に嬉しそうに正座して並んでいる。
「さぁ、お前らも楽しいだろ? ほら、お行儀良くしていたら、後で御褒美をくれてやるよ」
妖艶な美女が一人の男子の顎を指で撫でている。もう一人の美女は隣の男子の頭を撫でている。その背後には更にもう一人、同じ顔の美女がモデルのように立っていた。長身でグラマーな三人が、一回り小さな体操着を着ている。へそチラもしていてセクシーだ。
一人が艶やかな声で叫ぶ。
「うふふん。あぁ、私達はこの学園に住む『三人の魔女』。さぁ、私達に
これは、ヨーナスと戯れる女子達に嫌気がさした他の男女メンバーが何となくノリで始めた演技だ。思ったより男子側がノリノリだ。
「……もう止めましょう。恥ずかしいわ」
「そうよ。『三人の魔女』とか意味分かんない」
「私だってもう嫌よ。ヨーナス君のファンクラブと絡むのが面倒だから貴方達と遊んでいるだけよ?」
最上級生の美人三つ子姉妹で有名なアリス、アレクシア、アリアーネの三人も少し呆れ気味だ。少し小さめの体操服は男子生徒全員から『どうしてもこれを着てくれ』と土下座で懇願されたので、人の良い三人は恥ずかしながら着てくれていた。
「はぁはぁ、もう少し続けようよ」
「はぁはぁ、何か新しい扉が開きそうなんだ」
「はぁはぁ……」
「ちょっと、ホントに演技なの?」
三人は心配そう。
身体を動かすことが大好きな三姉妹、変なことに巻き込まれて困り顔。
「私達、今日を楽しみにしてたんだから、はぁはぁしてないで!」
◆◆◆ 黄チーム
イーリアスが椅子に踏ん反り返っている。偉そうにしていると言うより、椅子を確保しているだけで、周りもそれぞれダラけていた。
「イーリアス、昼飯どーする?」
「あー、途中で抜け出して街に食べに行くか」
「そーだな。かったるいし、行くか。どーする? バーガーでも食うか?」
「まぁそんな感じか。それにしても……」
駄弁りながらチラチラと女子達を眺める。
イーリアスも名家の出とはいえ思春期の少年。少しだけ顔を赤く染めながら恥ずかしそうな女子生徒の体操服姿をチラチラ横目で眺めていた。
ニヤニヤしていると、後輩の男子が手紙を持ってきた。
「さっき、ゴツいおじさんからイーリアス先輩にって……」
若干の悪い予感。手紙を受け取り中を見る。
「……げっ!」
慌てて外を見回す。遠くに腕を組んだ男が見えた。鋭い視線をイーリアスに向けている。
「親父……『負けたらどうなるかは分かるな』じゃねーよ」
小声で文句を言いながら頭を抱えていると一人の女子生徒が横から話し掛けてきた。
「イーリアス君、あなたは黄色チームのリーダーよね」
「んー? そうだけど、何か用?」
不機嫌な美人という感じだが、何故か自信満々で腕を組んでいる。
「このチームで優勝したいんだけど」
「はぁ?」
「というか、赤チームに勝ちたいんだけど」
「はぁ……」
「じゃあ、よろしくね」
立ち去ろうとする女子生徒。
「待てよ! ってサブリーダー、突然に何やる気出してんだよ!」
腕を組み直し、苛立ちを隠す気もないらしい。
「あの女が赤チームのサブリーダーをやってるらしいじゃない?」
「あの女? って赤のサブリーダーは……フランム王国のシャルロット先輩か?」
「そうよ! 私の永遠のライバルよ。アイツが私と同じサブリーダーの任に就いたのなら、私は赤チームに負ける訳にはいかないわ!」
いつの間にか他の女子生徒達も赤チームのサブリーダーを務めるサーガの後ろで全員腕を組んでいる。
「そうよ! サーガお姉様へ勝利を!」
「サーガお姉様には勝利がお似合いですもの」
「打倒シャルロットをサーガ先輩に捧げましょう!」
サーガはアイスバーグ共和国出身の皇位継承権持ちだ。氷の国のイメージ通りのクール高飛車キャラで、女子人気は高い。
「お前……いつの間に洗脳したんだ?」
「洗脳? 私のカリスマに皆が賛同して下さっただけよ」
バサっと長い見事な金髪をかきあげながらテントの反対側へ移動していく。
「……自分で言うかよ。でも、すげーな。騎士団を率いるには必要な能力……って事か」
同じチームの女子生徒を従えて颯爽と立ち去るサーガが少し羨ましくなる。
卒業すれば自国の騎士団に入団するのは同じ。
同盟国とは言え女に負けるのは癪。その上で
「親父の鼻を明かせるチャンスか……」
「イーリアス、なんか言ったか?」
クルッと振り向いて男どもに近付いて肩を掴んだ。
「おいっ! オレ達もやるぞ!」
「えー、急に張り切るなよ……」
「サーガ先輩に当てられたのもあるけどよ、ラルスを叩き潰すチャンスだからな! 偶には下剋上だぜ!」
男子達が周りの顔を見合わせる。
すると、徐々にニヤニヤし始めた。
「分かった! オレ達もお前の下剋上に付き合うぜ、そっちの方が面白いからな、ははっ!」
「サーガの因縁にも手助けしてやるか」
「おおっ、センパイもやる気っすねー!」
イーリアスは上級生にも声をかけてチームを盛り上げると、女子も集めてチーム全員で気合いを入れることにした。
「サーガ先輩のライバル粉砕と、オレの下剋上に……お前らー! 力を貸してくれーっ!」
「おーっ!」
「ラルス……」イーリアスと男子が叫ぶ。
「シャルロット……」サーガと女子が叫ぶ。
「絶対にたおーーすっ!」
全員で叫び、黄色チームも盛り上がりは最高潮になった。
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