第十四話 これはただの予感④
◆◆◆ 少し時間を戻して
リアが入っていく少し前の来客室。
「それでは、勉学に励んで成績が上がる事を祈っていますね」
和かに声を掛けて扉をそっと閉めた。
メラニーの怯え切った表情を思い出してほくそ笑む。間違いなくメラニーは選挙運動から
「よしよし。切り離し成功だな。次にやり易いのはサールか? ユーリア共和国出身……帝国内では後ろ盾も――」
機嫌良く次のプランを呟きながら歩いていると、曲がり角にラルスが居た。
「――ラルス。調子はどうで……」
瞬時に話題を変えるヨーナス。
挨拶し始めたところで胸ぐらを掴まれ壁に押し付けられる。ヨーナスも武術全般は優秀だが、反応することすらできない速度だった。
「酷く悪いよ、ヨーナス。お前と俺では正々堂々の意味が違うらしいな?」
ヨーナスが最初に想像したのは『密告』。しかし早過ぎる……次に思いついたのが、『ラルスに最初から怪しまれていた』ということだった。
「ここ数日楽しそうだったからな。悪巧みをしている時ほど楽しそうにしている」
ラルスに行動を予測されていたことに少し感心する。『純朴な少年』といったイメージが気に入らなかったが、やはり我が主人になる男は違ったか、などと関係ないことを考えていた。
それを見透かされたのか、腕に力を込めるラルス。
「ぐっ……い、いやぁ、まず味方から騙せ、と言うじゃ無いですか」
和かさを崩さずラルスに伝えてみる。
「二択だ。選挙戦が終わるまで大人しくしているか、ベッドの上で寝ているか」
ラルスは胸ぐらを掴んだ手へ更に力を込める。
「くっ……分かりました。交渉で選挙を降りて貰う様に促すのは止めておきます」
この日、選挙管理委員会を通して個人への過度な干渉は禁止、と改めて通達があった。
◇◇◇ 帝国歴 二百九十一年 三月
貴族院内の廊下
陰鬱な空気が晴れていくのを感じられた。ラルスの取り巻き達も威圧的な態度を取るのをやめてくれた。聞いた話ではラルスがヨーナスを取っちめたんですって。
ちょっと惚れそうになっちゃうわよねー!
と、いうわけで安心してシャーリーもリア陣営に応援演説で参加してくれた。
「……リアを執政官に当選させてやって下さい! よろしくお願いします」
「シャーリー先輩! 一緒に頑張りましょう」
二人して木箱に乗って演説よ。シャーリーの方を向いてガッツポーズ。あれ、なんか不満そう。
「リア、その
「えーっ、そうなの? じゃあ
「こらーっ、変わってない! 何でも逆にするなんて、演劇やってる若い役者達みたいよ!」
観客から笑いが漏れる。
「ははは、良いぞー、ちびっ子達ー!」
シャーリーが観客に叫び返す。
「私はちびっ子じゃなーい!」
「皆さん、次期委員長の『ちびっ子パイセン』もよろしくお願いしますね!」
「一番ダメー! せめてシャーリー先輩に戻してー」
「ははは」「いいぞー、ちびっ子二人組!」
ふふふ、こういうのは盛り上がれば勝ちよ!
横の赤い顔して怒ってる
◆◆ ポスター貼り
「さぁ、私の描いたポスターを貼りましょう!」
珍しくルンルンでノーラが張り切っている。カーナとサールも手伝ってくれている。
「ありがとね、ノーラ。わたし、どうにもポスターとか苦手でさぁ。それにしても……」
(凄いセンスよ。コレは……『下手っぴ』か『天才』か、どっちなの?)
どう答えたら良いか悩んでいるとサーラが少し興奮しながらボソリと呟いた。
「ノーラの絵、好きよ。何かゾワゾワっとするから」
(先にサールが褒めて……? 褒めてる……よね。貶してないわよね?)
サールの顔を見ると、フンフン鼻息が荒い。興奮してノーラの両手を握っている。思わぬファンの出現にノーラも嬉しそう。
「感激しちゃった……」
「サール、ありがとう!」
「そうね……前衛的よね。このタッチ凄いわ」
何か凄い絵に見えてきたわ。
「カーナもありがとう!」
珍しく口数が少ないカーナの苦しい褒め言葉にも嬉しそう。
(それにしてもノーラ……芸術や芸事が大好きみたいだけど歌も楽器も絵を描く事も、全て致命的に
ニコニコのノーラを眺めていると鼻歌を歌い始めた。もちろん音程は思いっきり外れている。
(才色兼備の権化みたいなクセにね! だから私達、貴女のことが大好きなのよ!)
「じゃあ、ポスターを貼りましょう!」
「照れるけど、リア、カーナ、サール! 貼っちゃって!」
「「「アイアイサー」」」
どうにも分かりづらいデザインに抽象画的なデッサン、向日葵が得意な画家みたいな色使いのポスターがそこらじゅうに貼られた。
◆◆ 合同最終演説の前日
夕暮れ時の応接室、ノーラが扉を開けると一人の女子生徒が待っていた。
「明日はよろしくお願いします」
ノーラには分かっていた。この女が将来、同世代では最大のライバルになることを。
(それでも明日のデビューには欠かせない
「本気で歌わせて貰うわ。
「ふふ、そんなにやる気になってくれるとは思いませんでした」
「ノーラ、貴女に協力するのは私にメリットがあるからよ。卒業前にこんな嬉しい事は無いわ」
立ち上がり舞台女優のようにクルクルと回りながら朗々と発声している。その様を眺めて作戦の成功を確信するとともに、強敵でいることを思い知らされたノーラ。
「では、手筈通りにお願いいたしますね、
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