十歳と十一歳
第九話 十歳と十一歳①
◇◇
入学式のちょっとした騒動で、それなりに有名になってしまったのか、結構歩いてると色んな人が声を掛けてくれるの。半年もしたら心配していた友達も沢山できて、前世と同じように親しい四、五人のグループで行動することが多くなったわ。
「おはよー、リア……」
「おはよう。カーナ、朝から暗いじゃない?」
同性で最初に仲が良くなったのはカーナだ。フランム王国出身で、やたら明るく何にでも積極的。最初に仲良くなってくれた。
「次の歴史の授業『魔剣戦争後の帝国の成り立ち』なんだけど……どーしよう、隣クラスの噂によると小テストもあるらしいのよ」
「ふふん、しょーがないなぁ。ちゃらららーん、『
「リア、何、変な声出してんの?」
「ひみつ道具を出す時はお約束なの! はい、これ見てがんばってね」
「やったー、リアのノート、分かりやすいから好きよ! お礼に頭撫でてあげる」
頭を撫でられながら、やっぱりお約束はまだまだ周知されてないわねー、と無茶なことを考える。それにしても……この
「うーん、五大国の地理……何でアイスバーグ共和国が温暖で特産品が南国フルーツなのよ……かき氷じゃないの?」
歴史に地理に魔導の知識、正直辛いんですけどー。昔から年表見るとポワポワしちゃうし、地図見ると動物が浮かんでくるし……もう、リアちゃん苦手すぎよ。
「リア、朝から頑張り過ぎよ……って、それ来週学ぶ章じゃない?」
「んーー、覚えられない……えっ、来週? そりゃそうよ。予習だから」
「流石ねー。この頑張り屋さん!」
「普通よ!」
そう、自信満々で予習はおろか復習も一切しないのよ。と言うよりテスト勉強自体をしないの。そして、それはカーナだけじゃないの。皆さん同じなのよ。
「あら、いつも早いのね、リア、おはよう」
「ふふふ、おはよう。リアはお勉強が大好きなのよ!」
「ノーラもカーナもおはよう。別に勉強は好きじゃないわよ!」
わたしなんかテストがある度に深夜まで詰め込みして、
「あっ、そうだ。カーナ! 人のノート貸してお金儲けしないでね!」
「うぐっ、バレてたか……」
「お金儲けはダメ。『
「はいはい。リアちゃんは学年主席なだけあって厳しいわね……」
そう。何とわたし……学年主席で表彰されたのよ。
まぁ、この世界では皆さん初めての学校。学生歴十一年のわたしには学生初心者の皆さんでは太刀打ちできないわよね。ふふん!
「流石よねー。あ、一限目は武術訓練だった」
「うーー、死にそうよ。あっ、リアおはよう」
「ロッテ、おはよう。朝から身体が動かせるのは羨ましいわ。いってらっしゃい」
今はもう諦めたけど……初めて武術訓練の授業に向かった時の衝撃ったら。わたしだけ立ち入り禁止だったの。ナイアルス公国の出身の女子生徒は本国発行の特別な証明書が無いと見学も許可されないって。
「朝から棒で殴り合いよ! あー、リアに変わってあげたい」
わたしさぁ、国では素振りもまともに出来なかったから、貴族院行きは凄く期待してたのよ。異世界転生者っぽく『あの女、剣術は初めてと聞いたのに、何だあの達人の様な打ち込みわっ!』とか驚かせる華麗なプランがぁー!
「わたしも心底そう思うわ……」
この仕打ち! 許すまーじー。
本国にクレームの手紙を書いたり、身の回りのお世話で一緒に来てくれてるカーリンにぶーぶー文句を言ったけど、結局『武術訓練をした者は閃光騎士団の入団資格がなくなるが良いか?』ですって。リアちゃんの夢を壊すのもイヤだから……泣く泣く諦めたわよ。
仕方無いから『墨斬丸』を懐に入れて剣士気分を味わってるの。時々、何で厨二みたいな事をしてるか悲しくなるのよ。ぐすん。
あっ、そうだ。掲示板に書いてあったこと確認しなきゃ!
「ねえ、掲示板見たけど、もうすぐ運動会あるよね?」
「えっ、魔導競技会の事? リアは欠席よ。武術訓練に出てない文官クラスは参加できない、って講師の方が言っていたわ」
「えっ! な、何それ? わたし運動会に参加できないのー?」
取り敢えず、カーナに詰め寄る。
「落ち着いて、落ち着いて。どうどう」
「馬かっ!」
ツッコミは速いぞ。
そんなやり取りしていると他の子も集まって来た。
「ば、バカな……部活対抗リレーで陸上部を追い抜く茶道部の様に活躍するプランが……」
「リアの言ってる事一つも分かんないけど……武術系の授業を受けている事が魔導競技会の参加の条件よ」
「魔導射撃がメインだから危ないもんね」
「馬上槍試合とかね、危ないよね」
「なんと! 面白そう! なのに、ダメなの?」
膝から崩れ落ちるリア。
運動会、文化祭、遠足に修学旅行……一つでも出られないなんて、何て大きな損失……こんなの、こんなの……。
「納得できないわ!
こういう時は前世のオタクの幼馴染の影響で大層な演説口調になっちゃうの。
「生徒の自主性を尊ぶとか言うけど、過去の因習に囚われた古き学園なぞ打ち壊してくれる!」
過激になってきた。
「改革だ、この学園には改革が必要だ!」
「リア、選挙出るの?」
「選挙……?」
友達の一人が話に途中から参加してきた。
「あっ……違った? 改革とか選挙っぽい事話してたから」
「んー? あっ、生徒会の選挙だっけ?」
「? 院生協議会よ。ウチらが狙うとしたら執政官よね。慣例で二年生が担うわ。リアもやる? ふふ」
あぁ、カーリンやエメリーがやった役職ね。今年はあの、ちびっ子の先輩か……。
目を瞑り、腕を組んで考え込むリア。
「執政官になったら校則も変えられるよね……」
「えっ? まさか……」
カッと目を開け、ガタンと椅子を倒し立ち上がると右拳を天に向けて叫んだ。
「立候補するわ! 改革よ!」
すると、周りの女子生徒数名も顔を見合わせて頷き合う。
「焚き付けた責任もあるわよね。分かった! リア、やるわよ?」
「私も興味あるし、手伝うわ。よーし、文官クラスから執政官を排出よ!」
「……やるよ」
「カーナ、ロッテ、サール、嬉しい!」
ロッテは本が好きでいつもテラスで本を読むわたしが羨ましくて仕方がない。武術は全くダメで、涙を溜めて訓練場に向かう毎日だった。毎回わたしが本気で羨ましそうにしているので、少しだけ訓練場への足取りが軽くなったらしい。
横のサールは基本ぼーっとしている子で貴族院の中でも偶に迷子になっている。それを気にする事もなく、迷ったら迷ったで木々を見たり鳥の声を聴いて過ごす毎日で、よく怒られていた。流石に心配になり仲間に引き込んだ。
「ちょっと、あなた達、本気?」
ノーラは、『本気? 大丈夫?』という顔をしている。その横のメラニーはただただ不安そう。
「だって、文官クラスから執政官や委員長になった人は今迄で一人しかいないのよ? それも……」
「そう! 『カーリン様』よ! 初代執政官……あの方もナイアルス公国出ですわ」
ロッテが祈るように手を組み、顔を見上げながらカーリンの名を出した。
ほほう。カーリン『様』かぁ。身内の評価が高いのは鼻が高いわ! その内会わせてあげよっと。
「ふふ、カーリンに続くのね。よーし、選挙は初めてよ。みんな、協力してね」
まだ協力を申し出ていない二人を含めて笑顔で皆を見回す。
「しょうがないか……分かったわ。裏方で少しは動いてあげる。私は表舞台には出ないからね。メラニーはどうするの?」
「あ、えーっと……リアが頑張るなら……うん、応援する」
ノーラもメラニーも協力を申し出てくれた。
そう。あの歌の上手いメラニーも同じクラスだった為、直ぐに友達になることができた。ついでにメラニーと同郷のノーラとも直ぐに仲良くなった。
メラニーは真っ白な顔にそばかすが散らばる地味な女の子。逆にノーラは如何にも上級貴族の子女という感じ。二人が仲が良いのが不思議な感じ。
だけど、二人とも性格も全く違って一緒に居ると楽しいのよ!
「ありがとう! これで百人力よ! ふふふ、選挙戦、勝つわよ!」
「おーっ! ……って何すれば良いの?」
「知らない」
無言でわたしを見つめても、何も出てこないわよ。とりあえずあニコニコしながら周りを眺めることにした。すると、呆れるようにロッテが教えてくれた。
「二月に選挙管理委員会から立候補の申込みが始まるの。そこに立候補届を提出したら、一ヶ月間で選挙運動するのよ」
「ロッテ詳しい! そんなに詳しいのは、実は選挙出たいから?」
「違う違う。私ね、カーリン様の演劇『執政官として』のファンなの。でも、自分で出るのは恥ずかしいからリアが選挙に出てくれるならすっごく応援するよ」
仲間もできた。やることも分かった。後はわたしの決意一つか。
プルプルと武者震いしながら皆んなに声を掛ける。
「ありがとう! よーし、発表があったら一番乗りで立候補するよ!」
「がんばりましょう」
「そうね、がんばりましょう」
皆が同意してくれた。
運動会、待ってろよっ! 校則変えて来年は参加してやるぜ!
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