四人称小説『桃太郎』
みなもとあるた
四人称小説『桃太郎』
むかしむかしあるところにおじいさんとおばあさんが居ると知った読者は、「おじいさんとおばあさんなら別にどこにでもいるし珍しくないよな」と思いました。
おじいさんは山へ芝刈りに行くと知った読者は、「芝刈りってなんのために?芝を整えるより野菜とか育てたほうがいいんじゃないの?」と思いました。
おばあさんは川へ洗濯に行くと知った読者は、「まあ昔なら水道とかもないし、洗濯は川でするしかないよね」と思いました。
おばあさんが川で洗濯をしていると大きな桃が流れてきたと聞いた読者は、「は?」と思いました。
「なんと大きな桃でしょうか」と驚いたおばあさんがその桃を背中に担いで家に帰ったと聞いた読者は、「え?突然桃が登場したことに対する説明は特にないの?そういう世界観?」と思いました。
おばあさんがその桃を食べようとして包丁で切ったと聞いた読者は、「得体のしれない桃を食べるとかちょっと怖くない?農薬とか大丈夫?」と思いました。
切った桃から大きな赤ん坊が出てきたと聞いた読者は、「え?赤ん坊??急展開すぎでは??一体何を見せられてるんだ?」と思いました。
おじいさんとおばあさんはとても驚きましたが、赤ちゃんが生まれたことをとても喜んだと知った読者は、「百歩譲って赤ちゃんが生まれたのはいいとして、そもそもなんでこの赤ちゃんは包丁で切れなかったの?伏線?この赤ちゃんってもしかして人間じゃないんじゃないの?」と思いました。
おじいさんとおばあさんがこの赤ちゃんを桃太郎と名付けたと知った読者は、「そんな安直な名前じゃなくてもっといい名前つけてあげろよ…」と思いました。
桃太郎はあっと言う間に大きくなり、立派な優しい男の子になったと聞いた読者は、「やっぱり成長が早いのも何かの伏線なのでは?桃太郎人間じゃない説あるか?」と思いました。
ある日、桃太郎が鬼退治に行くことになったと聞いた読者は、「あ、この世界って鬼とかが存在する世界観なのか。じゃあ桃から人間が生まれてもそこまで変ではないか…待てよ、桃太郎が包丁で怪我しなかったのとか成長が早いのとかって、まさか桃太郎の種族が実は鬼だったっていう伏線では?」と思いました。
鬼退治に行く桃太郎のため、おばあさんがとてもおいしい日本一のきびだんごを作ったと聞いた読者は、「きび is 何」と思いました。
桃太郎はきびだんごを腰の袋に入れてさっそく鬼ケ島に向けて旅立ったと聞いた読者は、「え?きびだんごってもしかして武器かなんか?毒のある植物から作った団子で鬼を中毒にさせるってこと?危険な鬼退治にわざわざ持っていくってことは、きびだんごってめちゃくちゃ強力な毒物なんじゃないの?」と思いました。
旅の途中、桃太郎に出会った犬が「桃太郎さん、袋の中に何が入っているんだい」と尋ねたと聞いた読者は、「まあ鬼がいる世界なら犬もしゃべるか」と思いました。
犬は桃太郎の袋に入っていた団子を一つもらって家来になったと聞いた読者は、「あ、それ毒じゃないんだ!じゃあ桃太郎はただの食料を持って鬼退治に向かってるってこと?無謀では?」と思いました。
旅の途中、桃太郎に出会った猿が「桃太郎さん、袋の中に何が入っているんだい」と尋ねたと聞いた読者は、「リアクションが犬と同じじゃん」と思いました。
猿は桃太郎の袋に入っていた団子を一つもらって家来になったと聞いた読者は、「もしかしてきびだんごって当時の価値観ではすさまじい高級品だったのでは?そうじゃなきゃ団子一つで家来になんてならないよね」と思いました。
旅の途中、桃太郎に出会ったキジが「桃太郎さん、袋の中に何が入っているんだい」と尋ねたと聞いた読者は、「もうリアクションがテンプレ化してるなこれ。ってかキジって仲間にしてもあんま強くなくない?」と思いました。
キジは桃太郎の袋に入っていた団子を一つもらって家来になったと聞いた読者は、「この流れで次は熊みたいに強い動物が仲間になるんじゃない?鬼退治に行くわけだし」と思いました。
しばらく行くと鬼ケ島が見えてきたと聞いた読者は、「いや結局この仲間だけで鬼退治行ったんかい!」と思いました。
「あれが鬼ケ島に違いない」と犬が吠えたと聞いた読者は、「お前さっきは吠えないで普通にしゃべってたじゃん」と思いました。
鬼ケ島に着いた桃太郎たちが悪い鬼たちをこらしめ、人々から奪った財宝を取り返したと聞いた読者は、「意外と戦闘描写はあっさりなんだな」と思いました。
桃太郎はお城の金や銀や織物や、荷車一杯の宝物を手に入れましたと聞いた読者は、「なるほど、これで鬼から取り返した財宝を人々に返してみんなに感謝されるわけだな」と思いました。
こうして、桃太郎はおじいさんとおばあさんの待つ家に帰り、みんなで幸せにくらしたと聞いた読者は、「いや人々に財宝返せよ!」と思いました。
四人称小説『桃太郎』 みなもとあるた @minamoto_aruta
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