幼なじみはオシオキしたい。 〜幼なじみ姉妹が僕に仕掛ける、ちょっと不思議でえっちな罰ゲーム〜

マクスウェルの仔猫

第1話 材料、なーんだ?


「ふう。これで買い出し分は、ひと通り揃った?」


 僕と同じように両手に荷物を抱えて隣を歩く女子、幸田知佳こうだちかに声をかける。


「あー、っとね。そうだね、揃った。荷物重い、持って」

「幸田。持ってやりたいのはやまやまだが、この両手を見てくれ。空きスロットなど、どこにもないだろ?」


 両手の荷物を少し持ち上げた僕は、肩をすくめる。


「何よ空きスロットって……まった訳のわかんない事を。あーあ、残念なイケメンじゃなくて山村君とか八つ橋君みたいなパリピなイケメンと買い出しに来たかったな」


 サークル内での女子からの扱いはいつもこんなもんだが、露骨すぎる物言いに大きく息を吸い、吐き出す。


 うん、平常心に戻った。

 両手の荷物を地面に下ろし、手を差し出す。


「本人の前でそれか。イケメンでもパリピでもなくてごめんな?少しこっちの袋にボール缶とか移そうか?」

「えー、全部持ってよ!それかタクろうよ、もう!」

「持ってきた予算はギリギリだろ?」

「あたしお金無いから、有本出してよ!」


 さっき最後の買い物した時に落としたお前の財布の中から、福沢さんがいっぱい見えたんだけど、な!


 ●


「あーあ。大学まで結局僕持ちでタクシーに乗って、部室で幸田達に散々に言われて。帰りにスーパーで買い込もうと思ってたのに……」


 買い出しと精神的疲労で、ヘロヘロだ。


 ま、しょうがないのだろう。


 生真面目すぎる、付き合いが悪い、本オタクと言われ続けて、いまだにうまい事直せない自分も悪いんだから。


 どんっ!


 な、なんだ?!

 背中から衝撃が来て、ふらつきながら振り返った。


「優也お兄ちゃんだ!やったぁ!一緒に帰ろ!」


 幼なじみの、ほのかだった。

 

 む、これはいけない。

 その頭に軽く手を乗せて、兄貴ぶってみた。


「ほのか、か。人に体当りしたら危ないだろ?」

「えー?体なまったんじゃないのー?我が高校テニス部の、元部長さん!」

「それとは話が別。口から心臓が飛び出しかねないゆえ、お戯れはおやめ下さいませ、お嬢様」

「ふおおお!ご飯三杯行けちゃうよ、その台詞!」


 お遊びで言った召使い風に、ほのかが喜んでいる。

 お前、こういうのが好きだったのか。


 僕がモサモサ頭に乗せた手を引っつかんで、きゃあきゃあと右に左に振り回すほのか。


 妹のかずらと違って、可愛らしい顔を隠し続けている。

 モサモサ頭と、厚ぼったい牛乳瓶眼鏡で。


 もったいないなぁ、と思う反面、昔と変わらない雰囲気と態度で接してくれるほのかを見ると、心が安らぐ。


 ほのかと葛、幼なじみのこの子達がいまだにこんなに懐いてくれるのが不思議でしょうがない。


 小さい頃から兄貴ぶってたから、そう思ってくれているのかもしれないけれど。


 こんな時は心にみる。

 沁み渡る。

 また、その気持ちに恥じないようにと、頑張れる。


 と。


 ほのかが背伸びして、いきなり僕の頭に手を伸ばす。

 

「優也お兄ちゃん、悲しい顔してる。だいじょぶ?何かあった?私、お話聞くよ?それとも手……つなぎゅっ?!とか、ぎっ、ぎゅ、ぎゅぎゅぎゅー、よしよし、する?」


 顔を赤らめながら、ガッツポーズを見せるほのか。

 可愛らしい噛み方に、ふは、と笑ってしまった。


「あー!笑ってるぅ!ほ!本気なんだから!」


 今、本当にヤバかった。

 鼻の奥がツンとした。

 

 ほのかが噛まなかったら、抱きしめてたかもしれない。

 その優しさ、温かさに。


『お兄ちゃん』のメッキ、まだ剥がれてないんだな。


 大きく息を吸って、少し息を止めて、吐き出す。


「あ!『お兄ちゃんの深呼吸』、ほのかもしたい!」

 

 すううううう。

 はあああああ。


 よし、整った。

 二人で顔を見合わせて笑う。


「あ!でも、ぎゅぎゅーは本気なんだから!」


 それ、実は本気でサバ折りって事じゃないよね?

 小さい頃腕相撲で大人の指、握りつぶしてたし。

 

 ●


「えー!何それ!ひどくない?!」


 ほのかの問いつめに、僕は今日あった出来事を話した。


 春とはいえ、ほんの少し肌寒い。


 ホットミルクを飲みながら話を聞いてくれていたほのかが、マグカップをテーブルに置いて叫んだ。


「お兄ちゃんが生真面目?!一生懸命向き合ってるって事じゃん!!何がいけないの?!それに、自分の好きな言葉でお話するの、普通だよ!残念なイケメンって、性格が自分のタイプと違うってだけでしょ!ま、まあ……イケメンは大当たりだけど?」


 ぐるるる!と噛みつきそうな顔をしたほのかが吠えた。

 最後、顔を赤らめて両手の指先を合わせて俯いたところが、とても可愛らしい。


 小さい頃から変わらずにこうやって褒めて元気づけてくれるほのかに、頭を下げた。


「ほのか、ありがと……」

「お兄ちゃんを好きな人は増えなくていいけど、悔しい」


 食い気味に呟いたほのか。

 増えるところか、そんなの見たことないから。

 女子は、仲良くなって話すようになった後、良くて友達や顔見知りくらいに落ち着くのだから。


「いいんだよ、イケメンって付くだけでも驚いているんだから。むしろほのかがそう言ってくれる事が嬉しいよ」


 僕は今、いい笑顔でお礼を言えてるんじゃないか。

 そう思う。


「お兄ちゃんは小さい頃から、私達、うんにゃ、をいっぱいいっぱい大事にしてくれた。泣いてる時には必ず頭を撫でてくれた。迷子になった時、お金もなくてお兄ちゃんもお腹が空いてるのに、ほのかしか食べれないあんまんを買ってくれて、にこにこ笑ってた。三人で子猫を見つけて、誰の家でも飼えないからって泣いてただけの私達の代わりに毎日毎日里親を探して走り回ってた。ほのかが高校受験する時もいっぱいいっぱい勉強を教えてくれたお父さんとお母さんが旅行に行ってお兄ちゃんのうちに泊まって寂しくて泣いてた時もギュウってしてくれたほのかがお兄ちゃんに会いたいって泣いた時はいつもの三倍ちゅっちゅペロペロしてくれて今夜は一晩中寝かせないよ覚悟しなって何回も何回もずんずんされていじわるばかばかお兄ちゃんはえっちなんだからでもほのかには何でもしていいよ朝も昼も夜もどこでもいっぱいご奉」

「ちょっと待ってえ!!!」


 壊れたスピーカーのように止まらなくなったほのか。

 しかも、いつもの三倍あたりからは全くの事実無根。


 テーブルを回り込んで、ほのかの肩に手を置いた。


「ほのか、待て!落ち着け!」

「もうびっくりするほどえっち……えっ?」


 ほのかが僕に顔を寄せ、すんすんと匂いを嗅いでいる。

 あれ?嘘?!

 あっ!今日サークルの後にシャワー浴びてない!


「ご、ごめん!汗臭いよな!今シャワー……!」

「お兄ちゃん、香水の匂いがする!女子の香水!」

 

 マジか!


 タクシー使った時に幸田、近かったからか?!

 僕は慌てて服の匂いを嗅いだ。

 少しだけ、甘くてかおりがする。

 ほのかが仁王立ちして、僕を見下ろした。

 

「ほのかを差し置いて、それに好きでもない女子とくっつくなんて、言語道断だよ!」

「いや、あのね?好きで匂いをつけた訳じゃ……」


 僕は何故、浮気を発見された男みたいなんだろう。

 しかし、ほのかは止まらない。

 

「かくなる上はっ!オシオキです!」


 おーい……。





 僕は香水の匂いがついた服を着替えさせられた後、目隠しをされ両手を縛られ、ベッドのふちに背中を預けている。

 

 あの、えっと。

 何で、こうなった?


「これから、ほのかがお兄ちゃんの為に一生懸命作ったものを味わってもらいます!」

「あ、そ、ソウデスカ」


 情けない格好をさせられて、何をされるのかと思えば。

 子供の考えたゲームに付き合う感じで安堵する。


 いや、何を口に入れるのか分からないのも怖いな。

 だが、とりあえず。

 

「な、なあ、ほのか。目隠しと腕のタオル?取ってくれないか?ちゃんと目を瞑って食べるからさ」

「だーめ!これもお楽しみ……オシオキなの!それでこのまま食べてもらって、どんな材料を使っているか当ててもらうんだから!外れたらもっとすっごい事するっ!」


 今、お楽しみとか……お前。

 でも、うわ。

 目隠し拘束よりすっごい事って、何?!

 プレッシャーで自信が無くなってきた。


「だいじょぶだいじょぶ。お兄ちゃんの嫌いなものは入ってないから。アレルギーとか無いもんね?」

「うん、無いけど……さ」

「ほのかを信じて?お兄ちゃんをオシオキしたいだけ」


 おい、理由はどうした。

 今普通にとんでもない事抜かさなかったか?

 ……もう諦めて、ひたすら頑張るかな。


「じゃあ、チャンスは三回!の罰ゲームだよ!構想一ヶ月!腕にをかけて作った『おっぱいパン』の先っちょの食材、素材を当ててね!」

「ちょっと待てえええええっ!!!」


 


 

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