最終投票
『皆様、お疲れ様~。これから投票までは絶対に喋っちゃ駄目だぞ~。話すことがさらなるヒントになっちゃうからね~』
やっぱりそいつの姿は見えなかった。
でも声は部屋の中央から聞こえた。
『みんな色々質問しあっていたみたいだけれど、誰がAIかは分かったかなぁ? それとももう分からないから、当てずっぽうで当てちゃうかな? でもそれって安易に人を殺すことになっちゃうよね? 倫理学の「トロッコ問題」って知っている? 命の価値の比較をするやつね。わからなかったら指差しせずに自分の命を差し出してもいいんだよぉ。でもそれってAIの命を救うために、人間の命を差し出すことになるんだけどね~。クックック~』
――ゴチャゴチャうるさい。
頭の中でこれまでの会話を遡る。
そこで語られた言葉、やりとりを思い出す。
言葉の表層に惑わされるな。意味の深層にこそ違いがある。
いやそうじゃない。内容なんていくらでも作れる。
それならば自然な会話をする表層こそ重要なのだろうか?
隣を見る。榎本香菜が口角を少し上げて、僕を見上げていた。
その視線が微かに動く。それはある人物へと向かっていた。
その人物はしきりに首を傾げている。
僕らと同じように。
会話を振り返る。その中で僕の直感は洗練されていった。
推理は決してシャーロック・ホームズみたいに華麗じゃない。
名探偵コナンみたいに格好良くない。
ただ細かな特徴を積み重ねて、蓋然性を高める作業。
だけどきっと、僕と榎本香菜は同じ結論に至ったのだと思う。
僕は彼女に頷き返した。
『じゃあ、最終投票と行こうか~! 投票は簡単。この中で一番、AIだと思う相手を指差せば、それでオールオーケイッ!』
部屋の中にドラムロールの音が反響する。
白かった世界が七色に光る。
やがて音と光の奔流が収束した。
そして不可視な司会者が、掛け声を上げる。
『じゃあ、行くよ! 準備はいいかな? 六人の中に隠れた、AIは――お前だぁッ!』
僕は上げた指先をまっすぐ前に向けて下ろす。
隣を見ると、香菜も同じ人物を指さしていた。
――この中に一人、GPT-3がいた!
やがて世界は暗転した。
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