AIは誰だ?

「もう最終段階だ」


 僕は手を上げて一歩前に出る。

 リーダーシップを示すことが、きっと自分がAIでないというメッセージにもなる。

 そんな打算を含みながら。

 全員が僕を見る。

 僕が相対的にはAIの知識を持っていることが、信頼に繋がっているのかもしれない。


Wrap upラップアップ。直接的な質問でまとめにかかろう。次の2つの質問で最後の時間を使わせてほしい。それで最大限の情報を引き出して欲しい」


 僕は上げた手の人差し指を立てて「1」のサインを作った。

 全員の真剣な目が、僕へと注がれる。


 質問:「自分自身がAIだと思いますか?」


 回答:

 榎本香菜:「私は思わない。私は人間。将来は看護師になるの」

 工藤知也:「そういう世界観も悪くないけどな。マトリックスみたいで。でも、今回は命がかかってるから、真面目に言う。僕はGPT-3なんかじゃない」

 結城未映子:「違うわ。時々、育児をしていると心を無にしてAIになってしまいたいって思うときもあるけどね」

 東俊介:「俺も違う。トレーダーなんて、もうAIで十分だけど」

 田中裕太:「実はAIでしたーって出来たら、登録者数伸びるかな?」

 宮下弥生:「AIだと思いません。論文を書くことで自分の考えを表現し、他の人の役に立つことができるのは、人間だからこそですから」


 カウントダウンタイマーは残り一分を切った。


 中指も立てて「2」のサインを作る。

 リスキーな問いを投げる。


 質問:「この後で、最後の判断をして欲しいんだけど、今、この瞬間、六人の中でAIだと思うのは誰?」


 回答:

 榎本香菜:「私は正直、誰もGPT-3だとは思わないわ」

 工藤知也:「僕もかな。――ここにいるメンバーは誰も人工知能なんかじゃない」

 結城未映子:「わからない。でも誰かが、本当にAIなのよね?」

 東俊介:「私も一応、AIだと思う人はいないと思うかな。全員が人間のように思える」

 田中裕太:「僕もAIと思う人はいないと思うよ」

 宮下弥生:「私も同意です。AIなんて誰もいないと思いますよ」


 そうだ。誰一人、誰かのことをAIだなんて思っていない。

 言葉の上では。


 だったら僕たちはお互いに誰を指差せばいいんだ?

 誰も指差さなかったら、僕は――死ぬ。


 その時、室内の色が真っ赤に染まった。


終了しゅーりょー~! お疲れ様でしたぁ~!』


 そしてまた耳障りな声が反響した。


 カウントダウンタイマーはすでに0:00を示していた。



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