休日に何をしていますか?

 一体、何を話せばAIか、AIじゃないかを見分けられるのだろうか?

 AIの専門家ならわかるのかもしれないけれど、僕はそうじゃない。


 自然と出来上がった男女二人ずつの三グループ。

 僕のパートナーは香菜。

 他の二組も、それぞれで何か相談しているみたいだ。

 

「生活じゃないかな?」

「え? どういうこと?」

「患者さんの生活を知るために、『休日に何をしていますか?』みたいに聞くことがあるの。AIって結局プログラムだから、生活していないわけでしょ? だから休日のことを聞いたらわかるかなって」

「――休日のことか。それにするか」


 タイマーはすでに6:30を超えた。

 手をこまねいていても、何も変わらない。

 少しでも話してヒントを得なければ、THE ENDジ・エンドなのだ。


 香菜の提案をみんなに伝えると、四人とも頷いてくれた。

「それじゃあ」と、まず香菜が口を開いた。


「私は平日にアルバイトをしたり遊んだりしがちなので、休日にむしろ勉強して課題に追いついていることが多いかな」


 何だか真面目だな。

 でもそういう面が、とても信頼できる感じがして、僕は嫌いじゃない。

 香菜が「知也くんは?」と振り返る。


「インドアなんだ。ゴロゴロして本を読んでいることが多いかな。最近は外に出かけるようにしているけどね。コロナで体もなまりすぎているんで」


 コロナで体もなまりすぎている、のところで「あー、わかるー」という空気。

 次におずおずと口を開いたのは、宮下さんだった。


「休日は友達とか家族と一緒に出かけたり、サッカーをしたりしています。時間があれば、自分のサッカーの力を伸ばすためにトレーニングをしたりもしています」

「サッカー好きだね! ほんと」


 YouTuberの田中裕太が盛大なリアクションでのけぞると、宮下さんはポニーテールの後頭部に手を当てて小さく舌を出した。


「田中くん、君は?」

「YouTube動画のためのネタ探しをしにいくことが多いよ!」


 顎に手をあてて、ギョロリと目を見開く。

 なんだかいかにも「イイね!」の高評価と、「チャンネル登録」を求めているような顔に、何だか別種の生き物を見ている感じがした。僕は気を取り直して、視線を次へと動かした。


「まぁ、日曜日はギリギリで家族サービスしているよ。子供をどっかに連れて行くとかな」

「主婦に休日って無いですからね。なんなら子供たちが学校にいっている時間が休日みたいなものです」


 大人2人組の返答は落ち着いたものだった。


「子供たちが学校にいる時間って、実は休日になってるの?」


 好奇心を浮かべた表情で、宮下弥生が結城未映子に問いかけた。


「いや、そんなことはないですよ。子供たちがいない時間が休日になるのは、家事を片付ける時間なんですよ。家事を片付けてから休日として楽しめる時間があるといいなぁと思うんですよね」

「そうなんだ。確かに、子供たちがいない時間を有効活用して、楽しむ時間を作るのはいいですね」


 結婚して家庭をもつ女性と、そんな未来をまだ選択する手前にある女性研究者の卵。

「いいですね」と言いながら、彼女が本当に「主婦」である結城さんことをリスペクトしているのかは、わからなかった。

 女性研究者はしばしばキャリア上、厳しい立場にあり、主婦に収まる女性に対して苛立ちを覚えたりするみたいだから。

 二人の間に、そんな緊張感を覚えたのは、僕だけだろうか。


「本好きなんだね。古本屋巡りとかはしないの?」


 隣から香菜が上目遣いで、僕の顔を覗き込む。


「古本屋巡りはあまりしないかな。でも、興味はあるよ。――今度、いっしょに行こうか?」

「この部屋から出られたらね!」


 誘われたような、振られたような。


 でも彼女の隣に立っていることは、なんだかとても気分が良かった。

 こんな最悪なデスゲームの中だけれど。

 彼女がAIでないことを願わざるをえない。


 カウントダウンタイマーの数字はついに「4」へと突入した。

  

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