五人の人間と一体のAI


 その言葉に、部屋の向こう側から男女の困惑の声があがる。

 この時になって、部屋に六人の人間がいることを、ようやく僕は理解した。


 小馬鹿にしたような声は、部屋の中央から響いていた。

 そこには何もないけれど、確かにその場所からその声は聞こえていた。


 何もない空間。でもそこに確かに何かが浮かんでる。

 どうやらそいつが僕らをこの部屋に閉じ込めた犯人らしい。

 愉快犯か、超越的な存在か。

 ――デスゲームって何だ?


 僕ら二人の会話も、向こう側四人の憤りも無視して、その声は続ける。


『デスゲームのルールは至って簡単! お前たちにはこれから十分の間だけ、会話をしてもらう。まぁ、普通に考えたら、質問とかそういうやつな。それを通して一人「仲間はずれ」を見つけてもらう。そして最後に投票をしてもらう。「仲間はずれ」を当てれたやつは死なずにこの部屋を出られる。――ただし誰かに「仲間はずれ」だと指名されたやつは、それもまた死ぬ。もし誰も指差さなかった場合は、それまた、指差さなかったそいつが死ぬ』


 説明されるデスゲームの概要は、かなり厳しいルールだった。

 つまり、僕はだ誰かを指名して殺さないといけない。


 全員が同じ「仲間はずれ」を指せば、死者は一人で済む。

 いや、「仲間はずれ」が自分自身を指すことは無いだろうから、最低数は二名か。


 ただしそれが揃わなければ、死者はどんどん増える。


『ただし「仲間はずれ」からの指名は無視されるから、全員が「仲間はずれ」を当てられたら、死者は一人で済む。――いや、誰も死なずに済む。なぜなら、その「仲間はずれ」は人間じゃないからさッ!』


 僕は香菜の方を見た。香菜も目を見開きながらこちらを向く。

「どういうこと?」って顔に書いてある。

 僕は部屋を見回す。隣に立つ榎本香菜。そしてあと四人。

 二人の男性と二人の女性。

 ――この内の誰かが、人間じゃない?


『どういうこと? そう思った? お前たち、六人の内の一人は、人工知能――AIなのさ! だからソイツが死んでも、人間は誰も死なない! AIはただのプログラムだからね!』


 部屋の中の空気が変わる。

 全員が全員を見ている。

 六人の「人間」。

 この内の誰かが人間じゃなくて、AIだって?


『君たちにできるのは会話だけ。その中で見つけてくれよ。AIを。現代人工知能技術の到達点、OpenAI社製のGPT-3で作られた人工知能を。僕に教えてくれ。果たしてディープラーニングは、人間に届いたのか? それともそれはまだまだなのか! もし人間がAIをAIと見抜けなければ、人間の尊厳は、AIに取って代わられる。わかるね? ――さぁ、シンギュラリティを始めよう!』


 そして接続は途絶えた。

 部屋の中に混乱と喧騒を残して。


 白い床を見つめる。

 なんとなく思い出してきた。

 今年――2022年に駆け巡ったAIニュースの数々を。

 大規模言語モデル。画像生成。基盤モデル。


 視線を上げる。

 隣りにいる榎本香菜。

 眼の前に居る男二人と女二人。


 ――この中に一人、GPT-3がいる!

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