第4話 よくあるお仕事をしよう。

「まずは名前と、職業から聞きましょうかね」


 派手な服の男を指さして、ナオキが言った。


『名はザリオ、創界神殿の神官長である!』


 顔を真っ赤にしたまま怒鳴り返してくるのに、


「あ、言葉は判んないけど意味が通じてる」

「すっげ、これが魔法なんだ」


 と感動している若者が二人。


「うーん、字幕の方が良いなあ」


 と微妙にノリが悪いのが一名に、


「口臭がひでえな」


 と容赦ようしゃない年寄が一人。


「ザリオさんね。オレらをここに呼んだのはあなた方であってるかな?」

しかり』

「ここに呼んだ目的を、簡潔かんけつに説明してくれる?」

『……強い戦士が要るので、呼んだ』

「呼ぶための代償だいしょうに、何を支払った?」

『我らの神が祈りに応えてくださる』

「あ、何も払ってないタイプね」


 これは質問では無いので、ナザリオはこの言葉に答えなかった。


「なあ、ナオキ君。代償だいしょうのあるなしで何か変わるんかい?」

生贄いけにえを使ってるタイプだと、解除が面倒になったりするんですよ。でも今回のなら、壊すの簡単ですね」

「……あの、慣れてるんですか」


 魔法に感動していた若者の片方が、おずおずと聞いてきた。


「うん、残念ながら慣れてる。どこの異世界にも、異世界人を安くこき使おうとする悪い奴がいるからねえ」

「よく召喚されるんですか?」

「召喚しようとする奴の邪魔するのが先祖代々の副業で」

「え?」

「オレの代になってからも2ケタは召喚に付き合ってるねえ。で、召喚に使った設備ぶっこわして、二度と使えなくするのが仕事」

「うっそ、なにそれ。そんなにあったんですか」

「あるよー。いわゆる神隠しの一部も、召喚されちゃった被害者だから」

「ええ~……」

「えっと、エルフの仕事なんですかそれ」

「種族全体でやってるかどうかは知らんけどね、祖父母は伝統だって言ってたねえ。山から出てくるいのししの対策するのと同じで、出てくる奴はきちんと消しなさいって教わったね」

「……どうしよう頭がバグった」

「エルフが作業着着てイノシシ駆除くじょのノリで召喚つぶししとる……!」

「HAHAHA、夢が無いのがお約束って奴ですよ」


 そして指パッチンすると、また陣の外に風が吹き荒れた。


「どうしたんです?」

「おっさんの口臭がきつかったから換気」


 ザリオは風に吹かれてよろけていたが、ナオキはまったく気にしていなかった。


「さてザリオさん、あなた方は俺達を呼ぶためにどんな準備をしたのかな。簡潔に答えてくれる?」

『祈りをささげた』

「どこに?」

『その祭壇だ』


 ザリオが指さしたのは、壁際にある棚のような何かだった。


「見えにくいな」

「灯り付けますかね。暗闇を照らせルクス・イン・テネブリス


 なんちゃってラテン語と同時に、天井が光った。


「LED照明っぽい」

「そりゃ、オレが見慣れてる灯りが出るからね」


 現代日本人のエルフがつける明かりは、間違っても蝋燭ろうそくなんかじゃないのである。


「うっわ、きったね!」

「見ない方が良いアレコレがあったねえ」


 ザリオが祭壇さいだんと呼んだ壁に作りつけた棚の下には、供物くもつだったのだろう食べ物の残骸ざんがいが転がり、そこにたかっていたネズミが逃げていくのが目に入る。部屋の隅で昇天しているネズミは共食いでもしたのか、モザイクをかけておきたくなる姿になっていた。


「ふーん、祭壇さいだんっていうけどまつってる対象が良くわからないな」

「邪神っぽさ、無いですね」


 若者の感想は、なんだか残念そうだった。


「もっとこう、ホラーっぽくないとそれっぽくないような」

「オレらにとってはろくでもない事してる存在でも、そこの神官にとっちゃ、正しい神だろうからねえ」

「ナオキ君、そもそも神様かどうか疑ってるのか」


 微妙な言い回しの違いに気が付いたのか、義父はそんなことを質問した。


「その通りです、神が介在してない召喚もあるので」

「で、今回はどっちだい」

「神が介在してないタイプ、ですね。そこにいるのは妖怪の親玉くらいの奴です」


 ナオキが祭壇さいだんを指さした。


「ようかい」

「エルフと妖怪って似合わないんだけど!?」

「世界観がバグる!!」

「そういうのって、陰陽師おんみょうじふだ持って式神しきがみ使って戦うのがセオリーじゃないの!?」

「む、うちの子と同じクレームがついた」

「エルフが作業服着てるだけでもバグってるのに、陰陽師おんみょうじの代わりするとか無いから!」

「HAHAHA、だから言ったでしょ。現実は斜め下に展開するものだって」


 アメコミ的笑いを披露ひろうしてから、舌打ちを一つ。

 その瞬間に、祭壇さいだんの上の壁が弾けた。

 そして、じわりと黒い液体がにじみ出し、祭壇さいだんの上からしたたった。


「なんだ?」


 悲鳴を上げた若者三人とは対照的に、年寄は首をかしげただけだった。


「原因になってた奴をつぶしました」

「あっさりしてんな」

わなにかかった動物、さっさとトドメ刺してやるのが優しさでしょ」

いのししかよ」

「イノシシの方が鍋に出来る分マシですよ、今つぶしたあいつは食えませんから」

「たしかに、ありゃ鍋にもステーキにも出来ねえわな」

「食うところもないとか、ほんっと役に立たないですよね」

「……そういう問題なんですか!?」

「そういう問題だねえ」


 我に返った若者が声を上げたのに、ナオキはつまらなさそうに応じていた。

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