第10話 井の中の蛙
「イツキ君! やっと追いついた。もう。日直のお仕事はサボっちゃ駄目だよ? 日直のお仕事を教えながら、学校を案内してくれる約束だったでしょ?」
カナタがイツキを見ると、イツキは首を振る。セラフィスがいるということは、当然もう一人もいるという事だ。続いてもう1つの足音がいら立ったようについて来て、褐色肌の青年の姿も見えた。
「セラフィス。学校に慣れたいからとわざわざ日直の仕事を代わる事は無かっただろ。あの男が目当てなのか?」
「もう。マコったらやらしー。僕はイツキ君と仲良くなりたいだけだもん。もちろんカナタ君ともね?」
可愛らしい表情だが、なんだか背筋に冷たいモノが走って、カナタは苦笑いを浮かべる。
「イツキ。行って来いよ。お前生徒会だろ? 学校に慣れるまで、転校生の面倒みてやったら?」
「はあ。分かった。セラフィスさん、出席簿のファイル置き場がある職員室から案内する。こっちだ」
「わあ! カナタ君ありがと♡ イツキ君。よろしくね? あっ! マコはここに居て? カナタ君と親睦を深めてね?」
満面の笑みで、満足そうにするセラフィスの表情はあどけなく、同い年とは思えなかった。一方的にイツキへと寄り添うセラフィスに、ついて行こうとするも、制止されたファルマコンは、諦めたように腕を組んでカナタと向き合う。
「カナタだったか? あの人の勝手を許していいのか?」
「いや、イツキの友達を選ぶ権利はオレにはねぇしな」
カナタの答えに、眉間に皺を寄せるファルマコンは少し間をおいて。
「あれが友達希望の距離に見えるならば、お前はよほどの鈍感か、世間知らずだな」
「な、なんだよ! つーかお前さ。朝から失礼じゃね? なんで初対面のヤツに、オレも、イツキも喧嘩売られなきゃなんねぇんだよ。あの子がお前のなら、首輪でもつけとけよな」
「首輪か……付けられるものなら苦労しないんだが」
冗談めかして言った言葉に、肯定のような返答が返ってくれば、カナタの表情が強張った。
「いやいや! 首輪も、何も、男同士だよな? 本当にあの子お前のなの?」
「……お前の常識が世界の常識とは限らない。世界はお前が思っている程、狭くも、凝り固まってもいない。井の中の蛙はそろそろ卒業するがいい。今のお前では、何も守れず、得る事も出来ないだろうからな」
「小難しい事言ってんなよ。中二か? 中二病なんだな!?」
呆れたように溜息を含みながら声にするファルマコンは、こめかみを押さえて背中を向けた。
「甘やかしにも程がある。父君は嘆いているだろうな」
「お前。オレ等を捨てたあの人の事知ってんのか?」
小さな呟きを拾ったカナタが問い掛けると、ファルマコンは黙り込んでしまった。居心地の悪い沈黙にカナタがそわそわし出した頃、廊下から、新たな人物の足音が近付いて来た。
「あら? ここだと思ったのだけど……。カナタ君。イツキを見なかった?」
「いや、イツキなら、さっき転校生を案内して職員室に……」
「そう? 入れ違いになってしまったようね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます