第9話 戦略ゲームはお気に召すまま

「そりゃそうだろ。あの子にとっちゃお前はヒーローだろうからな」


 無意識にトゲのある言い方をしてしまったカナタは、男女問わず視線を集める幼馴染のイツキを改めて眺める。


 切れ長の二重で涼し気な濃緑色の瞳、鼻筋は通り、色白だがしっかりと鍛えられた長身。クールだが人によって態度を変える事は無く文武両道。おまけに気遣いも出来る。生徒会も務めているイツキは、漫画やアニメでは恐らくスパダリと表現される部類の人間だろう。


 敢えてイツキの欠点を述べるならば、自己犠牲が過ぎる所だろうか。


「今日はいつもの戦略シュミレーションはしてないのか?」

「ヒロフミ誘ったけど振られた。連休中に出来た、異種の彼女とデートプラン考えるんだとよ。ってか、ヒロフミに彼女出来たのお前知ってた?」


 対してカナタはいわゆるフツメン。背は人より多少高いが体型は標準。勉強、スポーツ共に人並みだ。毎朝遅刻ギリギリで整える、猫毛でストレートの黒髪にはいつも寝癖が付いている。日本人には珍しい青い瞳にどんぐり眼の二重。ぽってりとした小さめの唇。全てのパーツがやや真ん中よりなせいで年齢よりも若干幼く見える。


 彼の人任せな性格は周囲を巻き込みがちであるものの、世話を焼いて貰えるのは、素直で甘え上手なカナタの人柄による所もあるのだろう。


「ああ。イロハさんだったか? しっかりしてそうなお嬢さんだったな。ヒロフミは少し頼りないとこがあるから、あれ位しっかりしている相手ならばリードしてくれるんじゃないか?」

「知らなかったのオレだけかよ。相手が異種なの気になんねぇのかな?」


 カナタの呟きに少しだけイツキの表情が曇ったのは気のせいだろうか。カナタと目が合ったイツキは、極小さく口角の端を持ち上げた。

 

「……別に。気にする必要は無いんじゃないか? 異種への感情は人それぞれだ。お前が納得出来る相手を見つければいいと思うぞ」

「いや。オレは別に恋人がほしい訳じゃなくてだな……」

「そうなのか? ヒロフミに振られたのなら、俺にするか?」

「えっ? 何を?」


 含みを持たせたような口調でカナタに提案するイツキの言葉に、会話の流れからか戸惑ったように返すと、イツキが小さく笑い声を洩らした。


「ゲームの相手だ。何を想像したんだカナタ?」

「か、からかいやがったな。絶対ぇ今日も負かしてやる!」


 からかわれた悔しさからか、温度の上がった頬でイツキを睨んでいるカナタ。見つめるイツキの表情は優しい。2人はいつも通り、カナタの気に入りの戦略ゲームを楽しむ。

 

「また今日も負けか。いつも勝てそうな所までいくのに、お前と何が違うんだろうな」

「やっぱオレの勝ちだったな。なんていうかさ。こういうゲームって、皆それぞれ戦い方に癖があんだよな。その方法で勝てた記憶があるからか、同じ手を使いがちなんだよ。性格でも変わったりするから、相手の癖に合わせて兵の動かし方を変える」


 少し悔し気なイツキの表情にカナタは得意げに胸を張る。


「多少小ズルい手でも有効だったら使う。相手に合わせたオーダーメイド戦法だ。攻めるのも、守るのだって、1つにこだわり続ける事ないしな。それに相手の不意を突いて驚かすのって楽しいじゃん」

「なるほど。同じ手法で攻めようとしても、お前への有効打になるはずがないのか。ところでカナタ。お前の手の内をバラしていいのか? 次は俺が勝つかもしれないぞ」

「そう言ってオレに勝てた事ねぇだろ? 次もオレの勝星だって」


 2人がもう一度ゲームを起動しようとした所でイツキの動きが止まる。


「……見つかったか」

「突然なんだよ?」


 イツキの言葉から数秒で、例の転校生が教室へと顔を出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る