第6話 出会い

 スマホで連絡をしている様子の人も、事故現場の動画を撮っているのか、トラックへスマホを向けている人達も数人いる。


「カナタ……お前。真っ青だぞ。大丈夫か?」


 イツキの声を訊いた瞬間、突然全身がガタガタと震えだし、血の気が引いて。


 全ての力を地面に吸い取られたかのように、カナタはその場に崩れ落ちた。少年から離れたイツキが、サッとカナタへと寄り添う。


(もしもあの時時間が止まらなければ、失くすとこだった。イツキを……)


 トラックが突っ込んで来るより何より、別の恐怖が、今自分を支配しているのだという事に、この時のカナタはまだ気づいていないのだ。


「あ、あの。助けてくれてありがとうございました。お名前を訊いてもいいですか?」

「ああ。すまない。俺はシキノセ イツキという。君、大丈夫だったか? どうしてまたあんな所に立ち止まっていたんだ?」

 

 イツキと目が合うと、少年の様子が突如甘い空気を纏う。まだ幼さの残る可愛らしい声がよく通る。


 少年は頬を染め、ぽーっと彼を見つめていた。少年の耳にイツキの問いかけは聞こえているのだろうか。


 少年の様子に気付いたイツキが慌てたように地面を目線だけで探る。近くに落ちていたシルバーフレームを拾い上げると、手慣れた様子で掛ける。


「セラフィスっ! ひとりでは向かうなと言っていたはずだ!」


 鋭い声が背後から掛かる。声の主は、少年が出て来たであろう路地裏から焦りを滲ませて掛けて来る褐色肌の生真面目そうな青年だった。


 カナタ達と同じ、天桜高校の制服を着崩れなくきっちりと身に着けている様は、彼の堅物そうな人柄を現しているようだ。


 意思の強そうな瞳で、2人を品定めするような青年だったが、状況を理解したのか、興味を無くしたように視線を逸らす。


 いまだにイツキに釘付けの少年を自身の方へと引き寄せて頬を軽く叩く。


「セラフィスっ! しっかりしろ! 怪我はしていないな?」


 セラフィスと呼ばれた少年は、褐色肌の青年の手を振り払い、イツキの方へとにじり寄り、くりっとした大きな瞳を向ける。

 

「はい。イツキさんのお陰で大丈夫でした。僕は、最近留学して来たセラフィスです。ヨーロッパの田舎町から来たんですけど、僕の町より車がすっごく早くて。渡るタイミングが分からなくなってしまって……」

 

 目を潤ませながら距離を詰めるセラフィスと、イツキの間に割って入るようにした褐色肌の青年が、鋭い視線でイツキを睨みつけている。


「セラフィスを助けてくれた事に礼は言うが、あまり近付かないでくれるか? よ」

「もうっ! マコ! そんなに怖い顔で睨みつけたら、イツキさんがビックリしちゃうでしょ? マコはただでさえ強面なんだから。僕の事助けてくれた人に、そんな言い方しないで?」


 マコと呼ばれた青年の言葉に、イツキはハッとしてカナタを見遣る。未だ上の空の様子のカナタへと、安堵したのか、柔らかく息を吐き出した。蹲ったままのカナタを強めに揺らす。


「カナタ。起きてるか? 遅刻する。急ぐぞ?」

「あれ? オレ。寝てたのか? じゃあ……あれは全部夢?」

「さあ。俺はお前がどんな状態だったのか分からない。何があったかは知らないが、突然真っ青になって蹲ったからな。どうしたんだ?」 


 イツキに問われても、どう説明するべきか迷っているのか、カナタは首を振った。


「うーん。どう説明していいか分かんねぇ。突然ガーって集中力が上がって、見え過ぎるみたいな感じだったとしか」

「ゾーンに入った感じだろうか?」

「お前と違って、オレはゾーンに入った事なんかねぇけどな」


 今度は、イツキとカナタの2人の間に、セラフィスが割って入る。

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