第4話 美少年
「ハーレム? エルフやケモ耳とか、ありとあらゆる美女とお近づきになる」
「ふっ。随分と俗な願いだな」
「えーっ。男なら一度は憧れるだろ。色んな美女を虜に出来たら、何か楽しい人生に変わりそうじゃん? じゃあさ、イツキだったら何に使うんだよ」
カナタの言葉に、異種が行き交う商店街へと視線を移したイツキは、一呼吸おいて。
「共存……だな。そもそもお前の願いも、共存無くしては叶えられないと思うが」
改めてカナタは、商店街を行き交う人々へと注目する。人間達に交じって、ちらほらと異種独特の特徴を持つ種族が見受けられる。
ゲームでよく見る、友好的な描かれ方をしている種族はまだいいだろう。明らかに爪や牙、鋭い眼光を持つ種族はどうだろうか?
(あんな異様なのと、共存なんて出来んのか?)
背筋を這い上がるゾクリとした感覚に身震いをしたカナタは、表情を強張らせて、通学路へと戻ろうとする。
「あーあ。誰かオレに願いの叶う木の実くれねぇかなあ……」
「自分で動かない事には、何も変えられないだろう。大体お前はいつも……」
「あー。ストップストップ。イツキは口うるさいんだよ。母親は2人も要らねぇっつーの!」
先を急ごうとするカナタだったが、自分に続いて聞こえて来ない靴音にイツキの方を振り返った。
「んっ?あの子。少し危ないな?」
その場で立ち止まったままだったらしいイツキは、道路の向こう側を見つめていた。
イツキの目線の先には、路地裏を抜けて来たのだろうか。華奢で可愛らしいピンクブロンドでくせっ毛の色白の少年が、交差点を渡れずオロオロとしている。時折鳴り響くクラクションに身を竦めている光景だった。
「いやいや。あの子どう見ても外国人じゃん! あっちに人も沢山いるし、大丈夫だって。早く学校行こうぜ? あんまゆっくりしてると遅刻しちまうしさ」
「カナタ。先に向かっておいてくれ。俺はあの子に事情を訊いてから行く。すまないが理事長のジュンさんには伝えておいてくれるとありがたい」
カナタの答えを訊く前に、荷物を預けて歩道橋へと走り出したイツキは、あっという間に階段を上がっていく。
「いや、お前別のクラスだろ。出席の返事どうするんだよ。って、早っ! 待てってイツキ」
荷物を反射的に受け取って、イツキを慌てて追いかけたカナタが、階段の真ん中辺りに辿り着く。2人の獣人が道向こうの少年に声を掛けるのが見えた。
「ほらな? オレ等が動かなくても大丈夫そ」
呟いて踵を返そうとしたカナタだったが、次の瞬間、獣人達ともみ合った少年が、車道の方へとバランスを崩した。
固まるカナタとは正反対に、躊躇なく歩道橋の中程から飛び降りたイツキが、少年を支えるのが見えた。一瞬黒い羽毛が空を舞う。
カナタが見上げると、艶めく濡れ羽色の向こう側に、よく知るイツキとは異なる雰囲気を纏う彼が、見えた気がした。
鳴り響く複数のクラクションに意識を強制的に引き戻されれば、信号を無視したトラックが、フラフラしながら2人の方へと向かって行く。
頭が真っ白になり、カナタが駆け出すと、風景がぐにゃりと曲がった。
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