第3話 アップルハザード
街路樹の歩道を肩を並べて歩きながら、しれっと口にするカナタへ苦言を呈そうとするイツキの言葉に、不服そうに唇を付きだして、彼は緩く首を振った。
「ヤダ。面倒くせぇもん。お前も、叔母さんも手伝ってくれてるから大丈夫だって。それにほら。イツキの保護者の理事長も、時々様子見に来てくれてるだろ」
気怠げに伸びをして、当たり前かのような言い方をしながら欠伸を噛み締めるカナタの様子に、イツキは小さく溜息を吐いた。
「ちいせぇ頃から命を狙われてるだなんだとか言われ続けてっけどさ、なぁんも起こってねぇじゃん? 今まで何事も無く過ごして来て、明後日オレは18になるしな」
「……いや。何事も無かった訳じゃないんだが」
言葉を続けようとするイツキを遮って、カナタは真っ青な空を見上げた。
「昔はヒーローに憧れたりしてたけど。今更なんか起こったって、凡人のオレにゃ荷が重い。オレよりすっげぇ誰かがきっと何とかしてくれるだろ? 自分で動くより、参謀やってる方が面白ぇし」
「……それはゲームの話だろ。ところでカナタ。誕生日に何か欲しいものはあるのか?」
何かを飲み込んで、誕生日に欲しいものを訊いてくれる親友へと悪戯っぽい表情を向けたカナタは、少し考えて。
「あっ! 全てを手に入れる力……とか、かっこよくね?」
「はっ?」
突拍子もない事を口にするカナタへ、驚いたかのような表情を向けて立ち止まったイツキは、難しい顔をしていた。
そんな様子の彼へと、思わず。と、いった様子でふき出したカナタが首を振る。
「ははっ。冗談だって。昨日買ったゲームの『アップルハザード』がさ、そんなストーリーなんだよ。願いが叶う木の実を求めて、それぞれの叶えたい願いを持つ3軍が争うんだ」
指を3本立ててイツキへと示すと、カナタは一度大きく息を吸う。
「支配を望む紅蓮のエレンホス。悪の追放を望む金色のエクソリア。調和を望む群青のアルモニア。好きな勢力を選んで、その軍を勝利に導いていくってゲーム。最終的にその願いの先。平和を望むってのは全勢力共通なんだけどな」
早口でゲームの目的を説明すれば、カナタの瞳が無邪気に輝く。
「それぞれの軍のキャラも魅力的なんだけど、中でもアルモニアの君主が性別不詳のすっごい美人で……」
「お前はアルモニアを選んだって事だな。それで、そんな力を手に入れたとして、カナタは何に使うつもりなんだ?」
好きなゲームの話でテンションが上がったのか、饒舌にゲームの話を始めたカナタに相槌を打って、イツキは彼へと問い掛けた。
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