第2話 日常

 初夏の風は温み、高くなってきた太陽。市立天桜高校しりつてんおうこうこうのブレザーに身を包む2人の青年は、神主の祖母が所有する、昔ながらの日本家屋の門を潜る。


「セツカさん。行って来ます」

「ふあぁ~……行って来ます」

「はい。2人とも行ってらっしゃい。イツキ……は、大丈夫ね。カナタ。今日という今日は、ちゃんと剣道場に来ないとだめよ?」


 すっきりとした美丈夫で、シルバーフレームを掛けた長身の青年は、見送りに出て来た、束ねた黒髪を左肩から流す穏やかそうな垂れ目の女性へと落ち着いた声音で挨拶を交わす。


 青年とは対照的に、大口を開けて眠そうな青色の眼を擦る黒髪の彼の挨拶にはやる気が無く、連休明けの気怠げな街の人々の例に漏れないようだった。


「カナタ! ちゃんと聞いているの? お返事は?」

「んー……。気が向いたらな」

「本当に必要な事なのだからと何度も言っているでしょう? ゲームばかりしてないで、ちゃんと自分の身を守る事を考えてくれないと……」


 左腕を胸の下へ寄せ。頬に手を当てながら首を傾げ、溜息交じりに言葉を発する彼の母親。彼女の名前は雪花せつかという。


 長くなりそうな説教の気配を感じたのか、天樹 彼方あまき かなたは、雪花へと手をひらりと振って、親友で同居人の色ノ瀬 逸樹しきのせ いつきと足早に登校を開始するのだった。


「眠そうだな。カナタ? またゲームで夜更かしか?」

「おう。昨日買った新作が面白くてさ。切りのいいとこまでってやってたら、朝だった」

「それも戦略シュミレーションなのか? ゲームもいいが程々にして、あまりセツカさんの手を煩わせるな。中々お前が起きなくて、食器が片付けられないと困ってたぞ」


 問い掛けには頷くものの、イツキからの苦言には眉を顰めて、聞き飽きたとばかりにカナタは後頭部を掻いた。

 

「ただでさえ道場を経営しながら、女手一つで俺達2人を育ててくれてるのに。心労で倒れたらどうする?」

「いや、ゲームが面白過ぎるから悪いんだよ。うん」

「毎日の鍛錬だってお前の為なんだぞ。セツカさんだって、ずっとカナタの面倒ばかり見ているわけにはいかないだろう」


 異種とのハーフだと公言する、新しい総理大臣の法律制定により、陽の目を見るようになった色々な種族が、人間に交じってポツリポツリと行き交う海沿いの商店街。今日も賑やかな声が響いていた。

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