第3話 ムタティオ。

 前回ギルドというものがあることを知った高木勇樹、家に帰ってエルに聞いてみた。

「エル、まさか宿代ってギルドで稼ぐのか?」

 返事がない。

「エル?エルー?エールー?」

 その後も呼んでみたが、出てくることはなく、隣の部屋の人に壁を叩かれてしまった。

「まあ見てはいるんだろうな。不思議と不安はないし…」

 言い切った瞬間、背を向けていたベッドの上を振り返ってみた。

「いない…か」

 少し寂しい気持ちになりながら、明日を迎えた。

 講義の間に、昨日存在を知ったギルドに行ってみることにした。

「ギルドギルド…」

 校内マップを見て探してみるが、見つからない。

 見つからず困っていると、声をかけられた。

「新入生だね?君」

 声から推測するに、女性だとわかった。

「はい、なんですか?」

 声が聞こえた方に振り向くと、高木勇樹よりだいぶ高い、170㎝ほどのスプリガンらしき女の子、というより女性というのが正しい人が立っていた。

「ギルドって言ってたよね?いるんだよね、毎年探してる子」

「これってなんで載ってないんですか?」

「簡単な話だ、間違ってるのさ、ここだけ」

「なるほど…」

「ついてきて、連れてってあげる。えと…名前は?」

「ユウキです」

※こちらの世界の住人に名乗るとき、呼ばれるときには勇樹ではなくユウキと表現させていただきます。

「私はシノ、よろしくユウキ」

「よろしくお願いします、シノさん」

 シノさんに連れていってもらい、やっと着いた。

「ありがとうございます、シノさん」

「私も用があってね、来たかったんだよ」

 前にいたシノさんがドアを開けて、入っていったのについていく。

「シノ、入りまーす」

「おお、シノ今日も来たか…と?後ろのは?」

「このごついおじさんはリュウさん、この子はユウキ」

 リュウとユウキで軽い会釈を交わす。

 ギルド内はおしゃれな木造りの居酒屋という印象で、大きな窓が入って奥にあり、左にはバーカウンター、その隣に梯子がないと届かないような掲示板、余った空間には椅子とテーブルがあった。

 吹き抜けの様になっていて、二階にもイスとテーブルがあり、上の階からも入れそうだった。

「今日は誰もいないのか」

「ああ、みんな依頼で出払っている」

「じゃあなユウキ、私はちと空腹でな」

 シノさんがリュウさんに注文をし、バーのカウンター席についた。

「リュウさん、依頼を受けたいんですが…」

「そういうことなら、そこの依頼板からはがして持ってきてくれ」

 そう言われ、依頼板を見てみる。

 スライムの素材集め、ゴブリン討伐、薬草集めなどなど、RPGでよく見るような内容が書かれていた。

「(金額は自動翻訳で円に換算されるけど…同じような内容の量が違うやつはどれが効率いいんだろうな…こんな時エルがいたらな…)」

 スライムの素材集めの依頼を選んで、リュウさんのいるカウンターに持っていく。

「この依頼を受けたいんですが…」

「わかった。が、その前に、登録が必要だ。学生証を出してくれ」

 教科書やノート代わりのスケッチブック、手帳などの入ったサコッシュから、学生証を取り出す。

 学生証といっても、身分証明ができるだけのもので、A6くらいの大きさである。

 なんとなく金属のような質感で、いつもほんのり冷たい。

 そして学課や学年が表示されている中に、ずっと埋まっていない欄があった。

 リュウさんに渡すと、指先に小さな魔法陣を出して学生証にかざした。

「ほらよ、これで終わりだ」

 変わっていたのは例の空欄、そこにはギルドムタティオと書かれていた。

「このスライムの素材集めのクエストだったな、受理しておく。行ってこい」

「ありがとうございます、行ってきます」

 学校を出て、都市の外の野原へ出て行った。

「どこかなースライムー」

 スライムはゼリー状で、ドラ〇エの様に顔がついているわけではないため、正面もわからない。

 湿地などの水分の多い場所や、水分がなくても湿った場所があればそのそばにいる。

 湿っている場所が細長く伸びていればビンゴ、より湿っている方に向かえばスライムに出会える。

「お、あったあった、それも大量だ」

 周りを見渡して、スライムやより湿っている方を探す。

 スライムの集団は見つからなかった。

「見つけたんだがなあ…どうしたもんか」

 よく考えてみたら、魔法は基礎しかできないため、大した攻撃にはならない。

 使えるのは水、火、風、土、電気の、基本五種の基礎魔法のみ。

「なんとかしよう!引き受けたんだしな」

 数秒の思考時間の後、行動を起こした。

「(氷と風で…)コールドウィンド」 

 そこにいた五、六匹のスライムを冷やし切る。

「そろそろかな…?」 

 スライムとて生物、生息している場所の気温より低い温度には弱いだろう。

「しめられたかな多分。(ファイア…だと熱すぎるから…)ヒート」

 ファイアは火が出るため、熱すぎる。

 そんな時にはこちらの魔法、ヒート。

 手がアチアチになり、ヒーターのようになる。

 直接触るとヒーター同様熱いため、互いに暖をとるときには気を付けよう、百億パーセント火傷するからな。

 ヒートで徐々にじっくりと温めていき、元のスライムの状態に戻った。

「動かない…よなあ?」

 何度も確かめるが、それでも動くことはなかった。

 町に何往復もしてスライムの死体を持って行き、ムタティオに運び込んだ。

「リュウさん、納品お願いします」

「おう、スライムだな」

 スライムの死体そのままを、カウンターの上に乗せる。

「うお、すごいな」

「何がですか?」

「他の冒険者は剣で切るせいでグチャグチャだったり、ドロドロに溶けてたり、爆発させてたりで質が悪くてなあ。丸々一死体は珍しいんだ」

「なるほど」

「それと…こいつらは直接依頼者に持って行ってくれないか?」

「わかりました、でもなんで直接なんですか?」

「直接持っていけば、その納品希望より多いスライムも評価されて、報酬も増えるぞ」

「ありがとうございます、行ってきます」

 ギルドに置いたスライムをその依頼者のいる建物に持ってきた。

「すみません、スライムの素材集めの依頼を受けた者ですが…」

「はい、納品ですね」

 受付の人に案内されて、素材置き場に案内された。

 出迎えたのはスキンヘッドの初老の男性、身長は百八十cm程だろう。

「おお、スライムの納品か、見てもいいか?」

「どうぞ」

「珍しいな、死体丸々一匹分なんて」

「やっぱり珍しいんですね」

「これからもたまにお願いしていいかな?素材集め」

 意外な提案、それに少し驚き、考える。

「報酬も弾むぞ、貴重だからな」

「では引き受けましょう、僕もお金が必要なので」

 いろいろと直接依頼を受けるための話をして、登録の話になった。

「じゃ、身分証を出してくれ」

「はい」

 サコッシュから取り出し、渡す。

 何か操作をされて、返された。

「これを下に送ると連絡が見られる。これで定期的に依頼を確認してくれ」

「わかりました(ホントスマホだな…)」

「報酬を用意するから待っててくれ」

 報酬を持って戻ってきた。

「これが報酬だ、超過分は多めに入れとくよ」

「ありがとうございます…えと…名前は?」

「ルーカスだ、君は?」

「ユウキです、これからもよろしくお願いいたします」

 報酬を受け取り、宿に帰った。

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