第6話 カッコいい幼馴染
結局、学校をサボってしまった。一応連絡しといたけど、疑われることなく風邪で通っちゃったよ。
ま、今までの真面目な学生生活を功を制したね。僕ってば偉い子ちゃんだから。
「夜火、夜火」
阿斗子の分も連絡入れたら、若干疑われたけどね!
阿斗子とそういうことをして、まぁ正式にお付き合いをすることになりました。めでたしめでたし、で終わればいいんだけど、そうもいかず。
僕は正座して俯いてた。阿斗子はそんな僕を見下ろして、完璧な尋問体制になってた。
「なぁ、あの時告白されたって言ってたよな」
「言いましたね……」
「実際は俺へのファンレターだとかを届けて欲しいって話だったのに」
「はい……」
「嘘、ついたわけだな」
これなら、今からでも嘘です学校行きますって言えばよかった。先生に怒られる方がマシってレベル。阿斗子は怒るとチョー怖い。
「アレは、腐れ縁を解消するきっかけになるかなと……」
「嘘ついてまで、俺と絶交したかったわけだな?」
「そういうわけでは……」
怖い、社会に出たらこんな感じなのかな。嫌だねえ、いつまでも子供のままでいたいねぇ。
阿斗子は僕の肩をギュッと掴んで、ギロリと顔を睨みつけてきた。
「俺のこと、好きなんだよな?」
「そうです……」
「嘘つくなよ」
「嘘なわけないだろ! 僕は阿斗子が……」
顔を上げてみたら、ハッとした。
阿斗子が、今にも泣きそうな顔してた。珍しいな、なんて気持ちと、あんまり見たくないものを見た複雑な気持ちが混ざる。
「俺、こんなだし」
「こ、こんなって……」
「ガサツだし、背高ぇし、あんまり女っぽくない……」
「は、はぁ……」
……別に良くない? 僕にとっては全部好きポイントなんだけどな。なにを悩むことがあるんだと思ったけど、そもそもこうなったのは僕のしょうもない嘘のせいであって。
「お前の顔見てたら、自分の顔が気持ち悪くなってく。お前のこと昼間も授業中も見ちまうし、好きで好きでおかしくなる……」
「いや、別にいいでしょ」
「良くないっ。俺でいいのかよ、お前は……」
その先に何を言うかは分からなかったけど、あんまり良いことじゃないのはわかった。
あんまり言わせ続けておくと、ひどい方向に捩れそうだってなんとなく思った。
「僕は阿斗子じゃなきゃやだね」
「ッ、バカ! 簡単に言いやがって……」
「簡単なことでしょ。僕は阿斗子が好き。キスしてハグして……アレもして、これ以上に何があんのさ」
「か、体目当て……」
「僕のこと、バカにしてる?」
今度は僕が睨みつける番だった。さすがにそこまで言われたら僕も泣きたくなるね。
阿斗子は僕が本当に好きなのか疑ってる。阿斗子自身、あんまり自分に自信を持ってないからっていうのもある。
今はこんな阿斗子だけど、昔は違った。
阿斗子は人見知りで、僕と出会った時も自分のお母さんにしがみついていた。
時間をかけて打ち解けて、いつからか阿斗子はこうなった。
俺なんて一人称、寡黙でガサツ。元の性格からこうだったのか、なにかに影響されたのか。
なんにしたって、阿斗子のことが好きだった僕には些細なことだった。
『阿斗子、カッコよくなったね』
一回だけそう言った。いつだったかも覚えてないくらい、なんてことない時に。
阿斗子は嬉しそうな、少し寂しそうな顔をしてた。
『これで同じだ』
なにが同じなのか分かんなかった。阿斗子にとって、僕と違っていた部分があったのかもしれない。それが何かはいよいよ聞けなかったけど、阿斗子がもっと自分に自信を持てたなら良いことだって思った。
「ようやく両思いになったと思ったのに」
「なっ、違う、違うんだ……」
「僕は阿斗子に体目当てだと思われてたわけ」
「違う! 俺は……」
阿斗子は泣きそうな顔をして、僕の手を掴んだ。そんな顔、あんまし見たくないんだけど。阿斗子はいつだってクールで、僕を抑え込めるくらいでいてよ。
「……次はないよ」
「ッ! わ、悪かったよ……」
「体目当ての僕の言うこと、すぐ信じちゃうんだ?」
「わ、悪かったって言ってんのにぃ……」
あ、本当に泣きそう。昔を思い出すなぁ、なんてのんきなことを言ってられない。泣かれるとこっちが無条件で悪くなる気がする。
「僕は阿斗子が好き。阿斗子は僕のことが好き。これ以外に何があるの?」
「ない……。あ、でも俺はお前のこと愛してる……」
そういうことは恥ずかしげもなく言えるんだから、どっかズレてんだよねぇ。今度はこっちが困る番だよ、まったくもう。
「僕も愛してる! それでいいでしょ?」
「……夜火って可愛いけどさ」
可愛くないんですけど。男の子ってのはどっちかっていうとカッコいいって言われたい生き物なんだけどねぇ。あ、当社比です。
「やっぱ、カッコいいよ」
ニカッて笑って、僕を優しく抱きしめた。
そういうことサラッとするあたり、阿斗子はやっぱりカッコいいよ……。
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