第4話 愛だとか好きだとか

「……可愛かったぜ」

 そういって、僕の頭を撫でる阿斗子。まるで僕のことを女の子扱いでもしてるみたいだ。

 別に嫌なわけじゃないけど、なんか不服っていうかさ。

「あとはお前が、あの女を振ればカンペキだな。てか振れ」

 まるで離さないとばかりに僕をギュッと力強く抱きしめる。布一枚もない姿で抱き合うのは刺激が強すぎるよ。

「……あの、それで言いたいことが」

「……んだよ、まさか告白を受けるとか言うんじゃねぇだろうな」

 そっちのほうがマシかなぁ、なんて考えてるのがバレたら殺されそう。いや、冗談抜きで。

 まぁ、告白でもなんでもないからありのまま言おう。

「アレはね……」

 カクカクシカジカ、説明した。話を聞いていくうちにコロコロ表情が変わる阿斗子が見ていて面白かった。

「そういや引き出しに紙切れがやたら入ってると思ったが……」

 ガシガシと頭をかいて、ため息を吐いている。そのため息はホッとしてるような気もした。

「んだよ、心配して損した」

「僕はモテたことないから安心しなよ」

「お前がモテない? バカ言え」

 いや、モテない……そっちこそバカ言わんでくれい。そういう浮いた話なんてなーんにも聞いたことないよ。

「お前は可愛い系とかでまぁまぁ人気あった。ま、そういうヤツら全員に睨み聞かせてたけど」

「怖い怖い」

 道理でそんな話聞かないわけだ。ていうか、もしかして僕、阿斗子と付き合ってるとか思われてた? 阿斗子といるとなんかニヤニヤした目で見られるし。

「お前は俺のモンだからな。他の女に色目使われたらソイツ殺す」

「僕は優しい阿斗子が好きだなぁ」

「……こればっかりは譲れねんだよ」

 プイッとそっぽを向いて、頰をかいている。可愛い仕草するのやめてよ。ちょっと胸キュンしちゃったし。

「なにニヤニヤしてんだよ」

「阿斗子が可愛いから」

「は? 可愛いのはお前だろ」

「阿斗子、自覚ないんだろうけど可愛いよ?」

 そう真顔で言ってみれば、阿斗子は面食らった顔で僕を見る。変なこと言った?

「……恥ずいんだよ、バカ」

「うわ、カワイイ。なにそれ」

「可愛くねぇよ! お前のほうが可愛い!」

「わーっつ?」

 変なこと言い合ってるよ。どうしてこうなった。

 僕が何言ってんだって首を傾げてると、阿斗子はムキになった顔でまくしたてる。

「俺がお前のツラ見てしかめっ面してんのはな! お前のツラ見てニヤニヤするからだよ! お前の弁当作ってんの俺! お前の箸舐めてる! つか起こすのも俺がお前のおばさんに頼んだ!」

 ハァハァと息をあげている阿斗子。裸なのも相まってなんだか色っぽい。言葉尻はもう息も絶え絶えで口調もカタコト。

「そんくらいお前は可愛くて愛らしいんだよ! 分かったか!」

「分かり申した……」

 こっちが恥ずかしくなってきた。なんかこれまでの鬱憤晴らすみたいに好きをぶつけられたし、こんなことになるとは思ってもなかった。

 でもま、こうして好き同士になれたんならまぁ。いいんじゃないかなぁ。

「クソッ、おさまんねぇからもっかいするぞ」

「えっ、体力ないです」

「るせぇ、お前は俺のツラでも見とけ」

「阿斗子の可愛い顔を?」

 そうカウンターのつもりで言ってみたんだけど、阿斗子にとっては逆効果みたいで。

 サッと組み伏せられて、仰向けにされた僕の上に阿斗子が馬乗りになった。

「上等だ、それだけ言えんならまだいけるよな?」

「ごめんなさい、でも可愛いのは本当です」

 そういっても阿斗子は許してくれない。本当のことを言ったまでだが!? なんて強がる体力も力関係でもないんだよね、僕たち。

 こうなったら、最期の言葉として恥じぬ言葉を選ぼう。さらば、今日という日よ。たぶん事後、僕は気絶してる。

「阿斗子」

「あ? まだなんか言うか?」

「好きだよ」

 心の底から、そう言って。

 一心に、阿斗子の瞳を見つめた。

「……俺も好きだよ、夜火」


 たぶん、目は口ほどに物を言うってこういうことなのかも。

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