第3話 幸せ

 俺は幼馴染の根次夜火こんじやかが好きだった。

 だった、なんて過去形なのは今はもう好きとかじゃない。愛しているからだ。

 ガサツで男勝りだから、俺は友達もほとんどいない。人とつるむのはあんまり好きじゃないから別にいい。

 そんな俺でも、愛してるやつがいる。夜火だ。

 夜火さえいればなんでもいい、夜火は俺の全てだ。

 幼馴染、腐れ縁の延長。そんなわけない。

 おばさんに頼んで、俺は夜火の面倒を見てる。朝のだらしない姿が可愛い。

 弁当だって俺が作った。おいしいって言ってくれる夜火は可愛い。めちゃくちゃにしたい。

「されたよ、告白」

 頭がおかしくなりそうだった。めちゃくちゃになったのは俺だった。頭どころか感情も体もおかしくなって、全身に鳥肌が立ったくらいだ。

「僕、毎日阿斗子を怒らせてる」

 違う、怒ってない。

 アレはニヤけたツラを見せたくないだけだ。俺はお前のこと、愛してんだぞ。

「阿斗子に迷惑かけたくない」

 迷惑って何がだよ。俺、迷惑かけられた覚えないぞ。お前が可愛すぎて困ってるくらいしかない。

「今までありがとう」

 今までってなんだよ、礼とかいらねぇんだよ。

 俺は、お前がいればなんでもいいんだよ。

 いやだ、いやだいやだいやだ。俺は、俺はお前がいないと。

「……っけんじゃねぇ」

「え?」

「ふざっけんじゃねぇ─────!!!!!」


 ─────お前がいないと生きていけないのに。




「……ベッド行くぞ」

「え?」

「ベッド行くって言ってんだろ! 早くしろ!」

「わ、分かったよ……」

 阿斗子が怒りながらそんなことを言う。急に叫び出した阿斗子に、僕は困惑していた最中だった。

 阿斗子に言われるがまま、僕の部屋に入る。後ろについてくる阿斗子の方を怖くて振り返れない。

「……服脱げ」

「はい?」

「服脱げ、破られてぇのか」

「は、恥ずかしいから無理だ……」

「はやく、しろ」

 食い気味に言われて、もう退路もない。大人しく制服を脱いで、下着姿になった。

 なんで僕はこんな辱めを受けてるんだろ。なんでこんなことをするんだろ。やっぱり嫌われてない? ていうか嫌われてる。

「……早く脱げよ」

「正気?」

「同じことを何回も言わせんなよ。それとも俺が脱がせてやろうか」

 何をしたいのかわかんない。これ、写真撮られてばら撒かれたりしないよね。

 中々踏ん切りのつかない僕に、阿斗子は焦ったそうに頭を掻きむしった。

「……上等だ。俺が先に脱ぐ」

「は!?」

 制服のリボンを解いて、ボタンをプチプチと外していく。手慣れた手つきに迷いはない。

 止める暇もなく、スカートのチャックまで下げた阿斗子は下着姿になった。

「俺も脱ぐ、お前も脱げ」

「わ、わけわかんないよ!」

「さっさとしろ」

 ピンクの可愛い下着……阿斗子はまずブラのホックを外そうとしてた。

 でもその前に、僕は脱ぎ始める。もうやけっぱちだったけど、阿斗子が裸になるよりマシだ。

「……っ」

 阿斗子は怒った顔で、僕の体をじっと見つめる。まるで舐め回すように……なんて言ったら、ぶっとばされそうだ。

「脱いだよ! あとはどうすればいいの!?」

「……ベッドに仰向けで寝ろ」

 言われるがままベッドに寝転ぶ。何をされるんだろ、尋問?

 怖い、もうこの状況はワケがわからなくて怖い。誰でもいいから助けて。

 そう思ってたら、阿斗子も裸になってた。僕の思いはどこへ。

 綺麗な体で、びっくりした。あと、正直に興奮した。

「……これ、俺を見て反応してんのか」

「そ、そうだよ。なんなの、わけわかんないって……」

「俺を見て反応したのか……」

 阿斗子は僕の言うことなんて無視して、ニヤァッと口を歪めた。久しぶり見た笑顔は、どこか怖かった。

「はは、はははっ……!」

「なに笑っ……ぷぐっ!?」

 思いっきり口の中に舌をねじ込まれた。そのあとは阿斗子の舌が口の中で暴れ回る。

 まただ。もう何かしたいんだよ。困惑する僕を、阿斗子はさらに困惑させた。

「好き、んむっ……マジで好きぃ……」

 体を押し付けられて、いやでもその体の柔らかさや暖かさを教え込まれる。体が、阿斗子を覚えようとする。

「ぜってぇ離さねえからな……お前は俺のもんだ、愛してる……」

 全身が痺れた。好きな人に好きって言われる幸せが、全身をおかしくさせた。

 快楽が脳に回る。もう、無理だよ。

「阿斗子……」

「んだよ、可愛いツラしやがって」

 キスの合間に名前を呼ぶと、阿斗子は口を離してくれた。笑顔で言葉を待ってくれていたので、ありがたく僕も話させてもらった。

「すき」

「……なんて?」

「阿斗子すき」

「……ほんっとお前、可愛いのな」

 また口を塞がれた。舌が暴れ……なかった。

 優しく頭を撫でるみたいに、舌で舌を撫でてくれた。

「俺も好き……マジで好き、愛してんぞぉ……!」

 

 僕はもう、阿斗子がいないとダメになった。

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