第2話 お別れ
(ったく、
幼馴染にあんなことを言われるなんて思っちゃいなかった。俺は好きでやってるってのに、あのバカは何を考えたか俺がイヤイヤやってるとでも思ってるらしいな。
バカ、マジでバカ。イヤだったらイヤって言うに決まってんだろ。俺はそんなに弱くねぇし優しくもねぇっての。
「はぁ……」
久しぶりに一人で登校する。隣にアイツがいないの、こんなに寂しかったのかよ。
こんなことなら、あの時にさっさと本心言っときゃよかった。ていうか、いつになったら言えんだよ。
アイツ……夜火のこと、俺は好きだってこと。
「ねむねむ……」
ミンミンゼミならぬ眠民ゼミってくらい眠い。なんか最近、寝付けないっていうか寝辛い感じがする。
僕よりも先に来てた阿斗子は、机に突っ伏して寝ようとする僕を一瞥すると、興味なさげにそっぽを向いた。
うーん、昔は仲良かったのに。やーくん、あーちゃんとか呼び合ってたり……したっけ? そんなことはなかったかな。
「ほら、席付けー」
先生の声でみんなが席に座る。朝の二度寝タイムも終わっちゃったことだし、諦めて僕は頬杖をつきながら先生の話を聞き流す。
その間にも、チラッとこっちを見る阿斗子。僕のことを監視しとかないと気が気じゃないのかな。疲れそうだねぇ。
そんなこんなでお昼休み。
ご飯よりも昼寝したいんだけど、そうもいかない。阿斗子は母さんに頼まれてるからって、僕にご飯を無理やり食べさせてくる。やっぱり僕のこと嫌いなんじゃない?
「ほら、口開けろ」
「自分で食べるよ」
「ほっときゃ寝る癖に何言ってんだ。黙って口開けろ」
そういって、お弁当箱に入っている卵焼きを食べさせてくる。
勢い余って喉奥まで突っ込まれそうで怖い。なんか目も怒ってそうで怖いんだよね。
「おいひいね」
「飲み込んでから話せ」
「おいひい」
「話聞け」
美味しいからしょうがないじゃん。でもまぁ、阿斗子のお母さんって料理上手だよね。
それはそれとして、阿斗子はご飯を食べない。いつも僕に恵んでくれるから、自分の分がなくなるんじゃないか、なんて思って聞いたことがある。
『俺は別で食ってんだよ。黙ってもらっとけ』
そんなこと言われて睨まれちゃったから、大人しくしてます。触らぬ虎になんとやら。神とまではいかないけど、虎ぐらい怖い。
そうやってご飯も食べて、昼寝して。阿斗子は僕が昼寝してるのをじっと見る。なんでだろうって思ってたけど、たぶん監視なんだろうね。
そうやって放課後。今日もいい一日でした。
帰って寝よう寝ようとランラン気分でいたら、知らない女の子に話しかけられた。
「聞きたいことがあって……ここじゃ恥ずかしいから、いいかな?」
今どきスマホとかで聞いてこない、アナログな子だなぁなんて思ってた。
まぁ、僕は早く帰って寝たいだけだし。大した話でもないでしょ。
「
「えー? 幼馴染……だね」
それ以上でも以下でもなさそう。それ以上のこと言ったら、阿斗子に殴られそうだよね。
だからそれ以上でも以下でもない、と思います。
「でも、お昼も一緒に食べてたし朝だって……」
「いやぁ腐れ縁だからねぇ」
「……それなら、あの……」
何を言われるんだろう。これってもしかして告白だったり?
男子高校生的な淡い期待をしていると、その子は恥ずかしそうに顔を赤らめてポケットから何かを取り出した。
「これ、座理さんに渡して!」
「……はーい」
こんなもんだよね、人生。
阿斗子はなんだかんだで、男より女子にモテる。ボーイッシュな見た目と、クールな性格。クールっていうかあんまり喋らないだけな気がするけど。
それで僕は、毎回こうして手紙を渡されたりする。面倒だから、バレないように阿斗子の机の引き出しに放り込んでおくんだけど……。
また引き出しに突っ込んどこうかな。教室、まだ空いてるかな……。
「……おい」
肩を跳ねさせながら振り返る。いつの間にか、僕と後ろに阿斗子が立っていた。
びっくりするなぁ……声かけてくれればいいのに。
「覗きなんて趣味悪いよ」
「うるさい。……お前、告白されてたのか」
「え?」
告白……されたわけじゃないけど、そう思わせてたら、この腐れ縁もなくなるかな?
別に阿斗子のことが嫌いってわけじゃない。むしろ好き。むしろ、ここまで良くしてくれて好きにならないわけないでしょ。
阿斗子は性格とかの割に胸は大きくて、女性的な体をしてる。距離が近いから、たまにこっちが辛いときがあるくらい。
「されたよ、告白」
「……お前、この後空いてんだろ」
僕がそう答えると、怒ってるような顔がもっと怒った。有無を言わせない迫力ある質問に、僕はちょっと気が進まなかった。
「空いてるけど……なに?」
「お前ん家に寄る。聞きてぇことあるから」
「僕は話すことないよぉっ!?」
僕が文句を言おうとしたら、阿斗子がズンズンと詰め寄って顔をグイッと近づけてきた。キスでもされるんじゃないかって思った、冗談だけど。
僕は阿斗子のこと好きだから、別にキスされてもいいけどね。
「な、なに?」
「黙って家寄らせろ」
「わかったよぉ……」
怖いってば……やっぱり、僕のこと嫌いでしょ。
「んんーっ!?」
家に帰りついてドアを閉めたら、靴も脱がないうちにキスされた。
最初、何をされたか分からなかった。キスなんてしたことないし、驚いて目を瞑ってた。
口の中で変なものが蠢くのだけ分かった。怖くて舌で押し返したら、その反応が嬉しいみたいにまた舌が暴れた。
「ぷはっ! はぁ、はぁ……!」
「っざけんなよ……俺は、俺は……!」
また口を塞がれそうになる。まだ驚いた時の恐怖が残ってて、反射的に阿斗子の肩を掴んでいた。
「イヤなのかよ」
「……」
分からない。好きだから嫌じゃない。してほしいって、したいなって思ってたくらいだ。
でも、そんな顔されながらするキスなんて、やだよ。
「なんで、泣きそうなの」
「ざけんな、誰が泣くか」
「僕、また何かした?」
「また……?」
泣きそうになるのを堪えて歪む顔に、困惑が混じる。僕は毎日迷惑をかけて、嫌われてる。自覚くらいあるし、そんな僕にキスをする意味もわからない。
「僕、毎日阿斗子を怒らせてる。今日だって、僕といる時はずっと怒ってる顔してた」
「ちがっ、アレは……!」
焦った顔を背ける。何を言うか考えている間に、僕は阿斗子の肩から手を離す。
「……阿斗子、もう起こしにこなくてもいいよ。それに、お弁当も大丈夫」
「は……?」
「阿斗子に迷惑かけたくない。もう、これっきりにしよ?」
努めて笑顔で、そう話す。ほんとは嫌だった。
好きだし、起こしてもらうのもご飯を一緒に食べるのも好き。でも、いつも怒った顔をさせてる。
僕だって阿斗子に良いとこ見せたい。怒ってる以外の顔を見たい。
でも、それができない。叶わない。
「さっきのキスも、たぶん僕を黙らせたかったんだよね? 大丈夫、もう阿斗子とは距離を置くよ」
「……」
「阿斗子も僕みたいなの放っといてさ、自分のこと大切にしてね。今までありがとう」
「……」
阿斗子は何も言わない。僕は笑顔を絶やさない。
最後くらいは、笑って欲しかったな。
でも、僕は知らなかった。
「……っけんじゃねぇ」
「え?」
阿斗子の中に、獣が隠れていたなんて。
「ふざっけんじゃねぇ─────!!!!!」
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