病み重俺っ娘の本性は。

黒崎

第1話 目覚まし幼馴染

 「おい、起きろ」

「……ぬぁ〜」

 中性的なような、ハスキーボイスに起こされる。若干怒ってるっぽいけど、朝はどうがんばったってツラい。

「いいかげんにしろよ、てめぇ。毎朝起こしにくる俺の身にもなれ」

「だから、いいって言ってんじゃーん……」

「アホかっ。お前のおばさんから頼まれてんだから断れるかっての」

 そんなこと頼むくらいだったら、単身赴任の父さんについて行かないでって感じ。

 おかげで毎朝、カンカンしてる幼馴染に起こされる。僕よりも背が高いからちょっと怖い。標準体型な僕よりも背が高くて、運動もできるんだから尚更ね。

 高校生にもなって、朝起こしてもらうのがおかしいっていうツッコミは勘弁。

「おら、起きろ。遅刻しそうになってもお前のこと、ほっとくかんな」

「起きるってば……」

 そろそろ起きないと鉄拳が飛んできそう。そんな寝覚めはまっぴらだ。

 ああ、ベッドが恋しい……けど行かないと……。こんな矛盾に生きる人生、いやだいやだ。

 

 ベッドから出て、リビングに出る。キッチンに置いてある電気ケトルからは煙が出ていた。

「朝飯、食うだろ?」

「んー、水だけ飲んでいくよ」

「ダメに決まってんだろ。食パン半分でいいか?」

「ありがと」

 こうやって、幼馴染の女の子……座理阿斗子ざりあとねが、毎朝世話を焼いてくれる。

 正直、家が隣の幼馴染っていう腐れ縁だけでここまでしてくれる理由がわからない。阿斗子あとねが優しいっていうのは知ってるつもりだけど、こんなに優しかったかな。

 食パンを半分こにしてくれるのだってそう。僕は朝、あんまり食べない派だ。そんな僕を気遣って、食パン一枚を半分こしてくれる。

「たくよ……ほら、コーヒー」

「ありがとう」

「んなのいいから、さっさと食え」

 そう言われて、僕は重い口を開いて、ジャムを塗った食パンをかじる。良い具合に焼けていて、なんだか自分で焼くよりも美味しい。

 そんな僕をじっと見守ってる阿斗子。毎朝こうやって見つめられるんだけど、阿斗子も朝に弱いんだろうな。

「阿斗子も食べなよ」

「あ? お前、食ってる時に寝るから見張ってんだよ」

「そんなことないよ」

「そんなことあるから監視してんだろ」

 そんなことあったかな……まぁ、別にいっか。悪いことしてるわけじゃないし。

 黙々と進んでいく食事。毎朝こうやって、見つめられながら食べるのは慣れちゃった。最初のうちは恥ずかしい気持ちもあったんだけど……。

 僕から話しかけても、阿斗子は早く食えってうるさいからなぁ……。僕、たぶん阿斗子に嫌われてる?

「阿斗子って僕のこと嫌い?」

「……は? どこの誰が、んなこと言ってたんだよ」

「誰も言ってないよ。でも阿斗子、僕と一緒にいて笑ってるとこ、最近は見ないしさ」

「……」

 そう聞かれて、阿斗子は話さなくなる。赤い髪の毛の先をいじりながら、阿斗子はつり目をもっと細くさせた。

「嫌だったら、ちゃんと嫌って言って欲しい。阿斗子に迷惑かけたくないよ」

「……黙って聞いときゃ、好き勝手言いやがって」

 阿斗子は席を立って、コーヒーを一息に飲むと食パンを口に咥えた。

 そのまま玄関までズカズカ小走りに歩いて、靴を履く。慌てて僕も後ろからついて行くけど、僕はまだ部屋着のままだった。

「先に行く。サボんなよ」

「あ、阿斗子……」

 なんて声をかければいいか分かんなくて、そのまま背中を見つめていた。

 阿斗子が怒ってる理由も分かんなくて、でも僕が怒らせてるのは分かっていて。もどかしい気持ちが、僕を焦られる。

「……夜火やかのばかっ」

 そう小声で、僕の名前を呼びながら罵倒して出ていった。

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