ephemeral dance

R0I

リンドウの花束を彼らに

私はしがない物書きだ。

並外れて売れているわけでもないが、それなりの地位はある。


そして、今宵開催される仮面舞踏会も親の地位があってこそ参加できているというものだ。

だが、私はこの仮面舞踏会が大嫌いだ。

ここにいる者は皆、闇を隠して生きている。しかし、その闇を仮面とドレスコーデで包み隠し、光り輝く舞台で夜を明かす。

嘘と誠、光と闇が複雑に入り乱れる。

その闇は実に深く、しかしどこか魅惑でもある。だからこそ厄介だ。

そう、私のような職業についている者には特に


        *


この茶番劇が始まってからどれくらいの時が過ぎたのだろう。

正直飽きてきた。

パーティーの主役になる者たちは皆、私よりも貴族として高い地位におり建前だらけのパーティーをこよなく愛する者たちなのだろう。

私には、その気持ちがわからない。

なら、なぜ参加したのか。


”である


対して売れていないが、ネタに困っている。

売れっ子小説家が聞けば鼻で笑われそうだ。


真昼の街並みや真夜中の繁華街などを散歩してみたが一向にネタが見つからず、かといって部屋に籠っても出てこない。

そんな私を見かねて、ならどんなにうれしかったか。

しかし、今宵のパーティーに誘った友人もきれいなご婦人を捕まえて”お楽しみ”に行ってしまった。


もう仕方がない。帰ってしまおうか。

そう思いながらパイプをふかしていた。


数時間ほど前から代わり映えのしない会場。

だが、空気が変わった。


話は変わるが、君たちは天使を見たことがあるだろうか。

私は、今見ている。

階段を、なれない足取りで下りて来ている。

彼女の動きに合わせて、キラキラと輝く純白のドレスを身に着けたブロンドの少女。

仮面をつけているが、一目で美女だとわかる。


私は、彼女から目が離せなかった。

遠くからでも分かるほどの美しさ。

もっと近くで見たい。触れてみたい。

その衝動にかられた。

それは、その場にいた男たちも同じようだった。


その女性のお相手を、と男たちが集まっていた。


そんな中、1人の男が女性に近ずいた。


白い仮面をした男が人々の中から1歩踏み出し女性の前に手を差し出した。


人々が見守る中、2人は手を取り踊った。

音楽とともに、衣装をなびかせ。

見ているものを魅了する程のダンスを踊った。

お互いの顔は仮面で見えない。

しかし、お互いの心は通じていた。

この場の主役は彼らだ。

舞台で役者がクルクルと動くように皆を引き付けた。

その姿は白鳥のように美しく、月のようにかがやかしがった。


*

正直興奮した。

あんな綺麗な物が、踊りがこの世に存在するのか!!!と、


私はあの2人を見たあとすぐにパーティを抜け出した。

従者が止めるのも聞かずに雨の中全力で走った。

今すぐ筆を取らねば。

この感動を、興奮を文字にしなければ。


ずぶ濡れで帰った私に対し、小言を言う母を尻目に執筆用の部屋に直行した。

あの興奮を私は、紙にのせた。




**


ある公園にある白い石作りのダンスホール。

彼女は1人倒れていた。


まるで眠っているような穏やかな顔。

しかし,純白のドレスは真っ赤に染まっていた。


男は、彼女の手を取ると踊り出した。

聞こえないはずの音楽にのり踊った。

衣装をなびかせ踊った。

しかし、彼女の体はまるで操り人形のように脱力し、ただ男に合わせクルクル回っているだけだった。

その姿は実に不気味だが、どこか悲しいと感じさせた。


男は踊った。

何時間も彼女と踊った。

涙で視界が霞んでも、足がもつれそうになっても踊り続けた。


****


私は、彼女と同じ真っ赤な上着を身につけ彼らの踊りを眺めた。


* 彼らへの弔いの花と共に *

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