第4話「魔導核兵器ヘクセコア」

そんな日々の中、国の動きに変化があった。

「どうした? 何があった」

 議会に呼ばれたラファールは、席に着いて議長に尋ねた。

「それがな、この国に魔導核兵器の照準がされているという情報がきた」

「なんだと? 何故今更になって! どこの国ですか?!」

「騒ぐな、ラファール。品位が落ちるぞ」

 そう言うのは、野党のトネールという者だった。

「トネール、何故あなたは落ち着いている?」

「これが政治的目的なら焦れば焦るほど相手の思う壷にハマるからじゃ」

 トネールは事態を冷静に見ているようだった。政略で兵器の照準を向けているならば、上手く交渉せねば沼にハマるからである。

「目的は把握出来ていない。だが王都に照準が向いているのは事実のようだ」

 その話を聞いたラファールは与党代表として様々な持論を展開する。トネールは野党として反論し、代替論を持ち出す。

 二人とも熱くなり議会は長時間に渡った。

 どうやらグロースヴズルイフという国がフラワーキングダムに魔導核兵器の照準を合わせてるようだった。

 魔導核兵器ヘクセコアという兵器は五十人の優秀な魔法士によって起動される魔導兵器。巨大な煙突状の発動場所から、マウランという物質を転送し引力魔法と爆発魔法の同時発動による核爆発を起こす兵器。

 魔法陣が魔法陣を発動させ繋ぎ軌道を描き発動場所まで運ぶ。阻止するには魔法陣をかき消すしかなく、防護魔法も付与されてるため阻止できた者は戦争時ソレーユしかいない。

 過去の戦争時、三発打たれ最後の一発はソレーユが阻止した。だが最初と二度目の二発はフラワーキングダムの都市に落とされた。

 そんなものを再び落とされるわけにはいかない。外交官も必死に交渉していたが、グロースヴズルイフ国にはそんなものは知らないで通されていた。

 そうしてフラワーキングダムとグロースヴズルイフの間に大きな亀裂が生まれようとしている。

緊張状態が続く中、いつでも戦えるようにアルズ達は交代で持ち場に立っていた。

 ある日、ラファールがトネールを連れてアルズ達の元へきた。

「ラファール様! どうしたんですか? そちらの方は?」

「紹介しよう、こちら……」

「良い良い。ワシが言う。ワシはトネール=グラキエース。政治家じゃ」

「政治家の偉いさんが、ここ軍隊に何の用ですかね?」

 ユスティシがキツめの言葉を投げかける。

「ラファールの後継が出来たと聞いてな。政治のイロハを教えてやろうと思って来たわけじゃ」

「ラファール様は政界でも有名ですもんね。僕も政治の事を学びたいと思っていたので嬉しいです」

「ならワシの話は役に立つじゃろう。どこか席に座れるところで話そう」

 アルズ達はトネールと色んな話をした。当然アルズ達の知らない話がどんどん出てくる。アルズ達の質問にも難なく答えるトネールは少し楽しそうだった。

「あの堅物ラファールにこんな良い部下ができるとはな。ソレーユのやつにも会わせてみたかったわい」

 そうして長時間の話の後、忙しいからと帰っていくトネール。忙しいにも関わらずこうして時間を作ってくれたことに感謝したアルズはトネールに深くお辞儀をした。

 グロースヴズルイフとの緊張状態はなかなか解けなかった。そして最悪の事態が起ころうとしていた。

 国王が直々にラファールや政治家達を集めて議会を開いた。

「どうやら近日中にこの国に魔導核兵器を落とそうとしているらしい」

「そんな馬鹿な! グロースヴズルイフは何を考えているんだ? 戦争になりますよ!」

「落ち着けラファール! 国王の前だぞ」

 トネールが咎める。だが、トネールも困惑していた。

「よいのだ、無理もない。ラファールよ、最悪の事態も考えねばならん。お主ならどうする?」

「何としても魔導核兵器の発射を止めねばなりません。外交官では止められないのなら……、最早一刻の猶予もありません。我らを派遣してください」

「派遣はできん」

 国王の言葉に、ラファールはゴクリと唾を飲んで尋ねた。

「……、戦争はこちらから仕掛けられないからですね?」

「そうだ。だが、命令なしで軍隊が自分勝手に動いたとしたら、それはこの国自体の責任にはならんだろう。軍を止められなかった責任は私が取ろう」

 会議が終わり、ラファールは部屋を出て歩いていく。

「ラファール」

 トネールはラファールを呼び止めた。

「止めるなトネール」

 そう言うラファールに肩を落とし、トネールは言う。

「違う。生きて帰ってこい……。もう友を失うのはごめんじゃ」

 議会を後にしたラファールは、限られた者を集めた。皆優秀な者達だった。アルズ達もいた。

「ここにいる者は、私が特に優秀だと思った人間だ」

 ラファールは語る。

「皆は国のために死ぬ覚悟が出来てるか?」

 ラファールの問いに皆、ハイ! と答えた。

「これは極秘任務なのだが……」

 ラファールはグロースヴズルイフとの国境間際に建てられたという魔導核兵器の破壊任務を伝えた。隠密で動き、一気に攻め落とす算段である。

 作戦を聞き、ラファールに質問するものや覚悟と決意をする者がいた。そしてアルズ達もまた、覚悟を決めた。

「国のために死ぬ覚悟を問うたが、これだけは言っておく。死ぬために戦うな! 生きて帰る、それが大切な事だ!」

 皆は敬礼で了解を示し、準備を始めた。

 準備にはさほど時間がかからなかった。皆支度を終えてラファールの元に集った。ラファールは静かに馬に乗り、手を後ろから前にした。

 二十名程の小隊が走り出した。皆無言で馬を走らせ続ける。戦が近い。そして、国境付近に近づいた時の事である。

 通信魔法が入った。誰からかは分からない。開けるか迷う間もなく映像が飛び出した。

「久しぶりだな、ラファール」

「ザラームか?! 何故お前が……、」

「手短に話そう。今お前の国に魔導核兵器の照準を合わせているのは私だ」

「何?! どういうことだ?!」

「私の闇魔法で様々な人間を操りここまで来た」

「ザラーム! ふざけているのか?」

 ラファールの問いに、クックックと笑ったザラーム。

「隊長、誰なんですか? この方は」

「ザラーム=リーフステゥ。グロースヴズルイフに住む私の古い友だ」

「友達なのに、なんで魔導核兵器を!」

 ユスティシは叫んだ。

「ラファール……、私を友などと呼ぶな。私の息子を戦争で殺したお前に友などと呼ばれたくもないわ」

「お前の息子を? どういうことだ? いや、まさか……、そんな……」

 ラファールの脳裏にはある青年が浮かぶ。

「虫も殺せないような性格だったお前が私の息子を殺したと聞いた時には背筋が凍ったよ。絶望した。だから……、あの時ソレーユを殺した」

「お前……、だったのか……」

「顔を隠し全てを隠し、子供を産む瞬間を狙ってソレーユを殺した。息子も川に投げ捨てた。お前に私と同じ絶望を与えたつもりだった」

 ラファールはそれを聞いて、手網を強く握った。顔も険しくなる。

「ああ、絶望のどん底に落とされたよ」

「だが、お前は再び希望を持った」

「……」

「モーネと言ったか。ソレーユの妹だな」

 モーネの名を聞いて驚きを隠せないラファール。

「何をするつもりだ……!?」

「今からお前に選択肢をやろう。国かモーネ片方だけ守れる。そのままこちらの魔導核兵器にくらならきてもいい。だがその場合モーネの住んでいる山奥に別のヘクセコアから核兵器を落とす」

「なんだと?!」

「もう発射されてるはずだ。東の方角を見てみろ」

 東の方角を見ると、大きな魔法陣がモーネのいる山奥に向かって進んでいた。

「あれを止めねばモーネは助からん。逆にこちらへ来ずにモーネを助ければ、こちらから王都へ発射する。片方しか守れない。どちらを選んでもお前の自由だ」

 これには全員が戦慄した。

「ふざけるな! ラファール様、モーネさんを助けに行きましょう! 全員で魔法陣をかき消せば助けられますよ!」

 ユスティシが吠える。だが、

「いや、ザラームの言ってる事は本当なのだろう。モーネを守れば国の民が……」

「そ、そんなの! 両方守れば……」

ユスティシは必死に考えた。

「距離的にも人数的にも時間的にも無理ね。片方を守ればもう片方は守れない」

 メイリーは冷静に言った。アルズは、

「モーネさんを守りましょう! 王都は、他の誰かが……」

アルズが言い切る前にラファールは叫んだ。

「皆聞け! 我らはこのまま進路を変えずに目標のヘクセコアを破壊する。その後、スィミヤー修道院を狙っているヘクセコアを破壊に行く」

「そ、それじゃあ……」

「ああ、モーネは見捨てる」

 ラファールの決断に、隊がざわつく。

「それじゃあんまりです……!」

 ユスティシが叫んだが、アルズが止めた。

「わかりました……。隊長の決断だ! 僕はついていく。ここにいる者で隊長の決断に反対の者は、王都へ引き返すように!」

 モーネを助けにいけとは言わなかったアルズに密かに感謝したラファール。ラファールは胸が張り裂けそうになりながらこの決断をした。本当ならばモーネを助けたい。救いたいという気持ちが大きかった。

 だが、王都を見捨てるわけにはいかなかった。それはフラワーエースナイトとしての誇り、そしてモーネなら絶対に自分よりも国を守るように言うと思ったからだった。

 それがソレーユが愛したラファールだからだ。

 ラファールの決断にユスティシは涙をかみしめながら。メイリーは静かに泣きながら。

アルズも歯を食いしばってこの受け入れ難い現状を受け入れた。

 他のメンバーも誰もが進路を変えずそのまま進み続けた。

 一方スィミヤー修道院ではモーネが花に水をやっていた。その日そこにいたのはモーネだけだった。

 修道院の隣の家屋の中に入り、紅茶を淹れながら楽しそうに鼻歌を歌っていた。ふと、外の空模様を見る。そして、

「ああ……! あああ……!」

 魔導核兵器の魔法陣が迫ってきているのに気づいた。だが、慌てて逃げるような真似はしなかった。

 手を合わせ膝をついたモーネは神に祈る。

「ああ、ああ、神様。どうかラファール様やアルズ君達が無事でいますように。今この時摘まれる平和の花が、いつかまたこの世界に咲き誇れますように。どうか、どうか!」

 モーネは最期まで平和の歌を歌い続けた。最期の瞬間まで祈り続けた。

 その日修道院に魔導核兵器の爆撃が起こる。キノコ雲が発生し、周辺が焼け野原になった。アラセイトウの花畑も平和の象徴を焼くように無惨な姿になる。

 修道院は跡形もなくなった。

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