最終話「戦争と平和とは」
ラファールとアルズ達は、ヘクセコアを肉眼で確認した。
「発射動作はない。このままあの兵器を破壊する!」
振り返ることなく、涙に濡れた頬を隠すようにうつむきながら号令する。
守りの兵がヘクセコアから出てきた。アルズ達と交戦する。ラファールは敵を無視してそのまま突っ込んだ。
「ラファール様! 無茶です!」
アルズの声も届かず、ラファールは槍斧を振り回しながら突撃した。奥にはザラームがいて、兵に集中攻撃を命じた。
「奴を殺せ! 殺せえええ!」
ザラームが叫ぶ。ラファールは最大火力の風魔法を纏い、防御無視で馬を走らせる。槍が、魔法が、ラファールに突き刺さる。だが、
「たとえこの身滅びようとも! その兵器だけはここで終わらせる!!!」
そう叫び突き進む。吐血しつつも歯を食いしばり突っ込む。
そして最大の風魔法で魔導核兵器を真っ二つにした。そのままザラームを突き刺したラファールは、涙した。
「友よ、何故こうなった?」
「ふん、これが戦争だ。そうだろ……?」
血を吐きながら言う彼に、最後の言葉をかけようとした。
「ソレーユを守るためだったんだ」
それは言い訳だった。ラファールは自分の血と涙でぐちゃぐちゃになった。
「ふん、そんなことだろうなと思ったよ。だが、私が今までしたことに後悔はない」
ザラームはぜえぜえと息をしながら喋る。
「死んだ息子は帰らない。恨みは消えないんだ。お前が殺したんだよ」
「ああ……、すまない。ザラーム」
「もっと早く懺悔を聞いておくべきだったな……」
だらりと腕が垂れ、ザラームは息を引き取った。戦意を喪失したグロースヴズルイフの兵達を押しのけ、アルズ達がラファールの元へ寄り添う。
「ラファール様!」
「アルズか……、お前に頼みがある」
喋るラファールを抑え言う
「今回復魔法を!」
「いいんだ、傷が深い。私は助からん。私の最期の頼みを聞いてくれ……」
「最期だなんて言わないでください……!」
「いいか、もう一つのヘクセコアは必ず壊せ。そして、ここも含めて相手の死傷者も平等に弔うようにしてほしい」
「平等に弔う? そんな! 敵ですよ!」
横から言うそんなユスティシの言葉に、ラファールは笑った。
「敵も味方も皆人間。人間なのだ。このザラームも手厚く弔ってやってくれ。私の友だ」
人間だからこそ敵味方関係なく死者を弔わなければならないと言うラファール。
「でもこの人は、ラファール様の大切な人達を……」
「いいんだ。お互い様だ。憎しみは憎しみを呼ぶ。負の連鎖はここで終わらせるのだ」
「わかりました……。僕の出来うる限りでラファール様の言葉を果たしてみせます」
「アルズ……、お前は私の息子だ」
「え?!」
ラファールの言葉に戸惑ったアルズ。
「血の繋がりがあるかどうかじゃない。お前は確かに私の息子だ。ユスティシも。メイリーは娘だな」
名前を一人一人呼んでいくラファールは、血を吐いた。
「お前たちを……、誇りに思う。ありがとう……」
最期にそう言い、ラファールは息を引き取った。隊員達は泣き叫んだ。それを涙を流しながらも制したのはアルズだった。
「まだ終わりじゃない! もう一つの魔導核兵器を壊しに行くんだ!」
王都から援軍が来てその場の兵達を拘束させた。その後モーネを殺したヘクセコアの元へと向かうアルズ達。
悲しんでいるだけじゃ何も終わらない。この戦いを終わらせるために。
時間はかかったが、ヘクセコアが見えてくる。当然守りの兵がいた。アルズ達は応戦する。アルズはラファールのようにヘクセコアを真っ二つにするだけの技量がないことはわかっていた。
だからこそ、魔導核兵器内の全ての兵を拘束することでの無力化を目指した。そこに一人の男が現れる。騎兵ではなかった。
「道を開けろ!」
男の命令で道が開く。
「隊長はどいつだ?」
それにアルズが応えた。
「僕は副隊長だが、今現時点では隊長代理だ!」
「そうか。お前に一体一の決闘を申し込む!お前が勝てば降伏しよう」
数では圧倒的に相手の方が有利だったため、こちらには有難い提案だった。それだけ腕がたつのだろう。アルズはこの申し出を受けた。
グリーンクウィックから降りたアルズは男と対峙した。
「あなたの名前は?」
「グラヴィテ。お前は?」
「アルズだ、ここは通してもらいますよ」
皆が見守る中アルズとグラヴィテは対決する。グラヴィテは雷魔法の使い手だった。アルズは有利な風魔法で戦う。
アルズにとって、風魔法は特別なものになっていた。ラファールと同じ魔法だったからだ。それでも、グラヴィテの方が強かった。
だが格上は初めてではない。そう思い、決死の思いで剣を振るうアルズ。強く握りしめた剣を振るい斬りつけていく。
剣が交錯し、血が滲む。アルズはラファールの想いを乗せる覚悟で斬る。そこにはラファールの剣技が垣間見えた。
一撃一撃が重くなっていきとうとうグラヴィテを破った。グラヴィテの斧が宙を舞う。
「見事! さぁ殺せ」
グラヴィテは、降参したのか手を広げた。アルズは剣を収めた。そしてグリーンクウィックに乗り、進む。
「何故殺さない?」
「ラファール様ならそうすると思ったからだ」
「そうか……、ならここで死ね」
パチンと指を鳴らすグラヴィテ。すると、空に魔法陣が浮かんだ。ヘクセコアが起動したのだ。
「な、何?! 約束が違うぞ!」
「決闘をして、俺は負けたがお前は勝たなかった。お前が勝ったら降伏すると言ったんだ。何も違わないぞ。降伏はしない」
「くっ!」
「安心しろ、発射場所はここだ。ここを破壊するというお前らの目的も果たせるだろう」
アルズはそれを聞いて、慌てて号令を出した。
「皆! 退避するんだ!」
「ダメよ間に合わない!」
「魔法陣を破壊するしかない! 」
アルズ達は必死に空に浮かぶ魔法陣に向かって魔法を放つ。完成前に破壊できなければ全滅する。
アルズ達の魔法だけでは阻止できない。もうダメかと思った時、空にドラゴンが見えた。それも隊列を組んだドラゴンが。
フラワーキングダムの友好国であるユウェルチェパロ国の竜騎士達が到着したのだ。
「もう大丈夫だ、よく頑張った。フラワーキングダムの諸君」
竜騎士達は一斉に炎を打つ。アルズも残りの魔力を振り絞って魔法を放ち、魔導核兵器の魔法陣はかき消された。
竜騎士達により制圧された魔導核兵器は停止させられた。
「何故ユウェルチェパロの竜騎士がここへ?」
「ここから魔導核兵器が発射されたのを聞いた我が王国の王が、魔導核兵器の停止目的で我らを派遣させたのだ」
そしてグロースヴズルイフ国は、多くの人間がザラームの魔法に操られていたことを発表した。洗脳されていた人間が元に戻り、魔導核兵器を発射したことを後悔していた。だが、発射した事実は変わらない。様々な人間が責任を取らされた。
その後魔導核兵器について。
ユウェルチェパロ国は、魔導核兵器所有国で魔導核兵器の撤廃に消極的だった国のひとつだ。だがユウェルチェパロの王は言った。
「魔導核兵器に頼らず世界中の友好国で守り合うことが、これからの世界のリーダーのゆく道だ」
そう発表し、魔導核兵器を廃棄することを決意する。抑止力の大きな一つを捨てることの不安はあるが、同盟国達による防衛同盟の確立で様々な国が魔導核兵器を捨てた。
戦争はなかなかなくならないが魔導核兵器を捨てるという一つの時代がきていた。三年後、魔導核兵器による放射能は魔法で取り除かれ、入れるようになった修道院跡。
モーネとラファールの墓を建てたアルズ達は、墓参りと種うえに来ていた。
平和の花アラセイトウが一面に咲いていた場所に、改めてアラセイトウを植えに来ていたのだ。その花には争いがなくなるようにと思いが込められていた。
そして、これはアルズ達の知らない過去の話。
戦争時、敗戦の届けが来る前、三発目の魔導核兵器が発射されソレーユが強大な魔法で阻止した。
その様子を見ていたグロースヴズルイフのザラームの息子は脅威に思い、魔導核兵器を阻止している時のその隙をついてソレーユを殺めようとした。
それを庇いラファールは致命的な一撃を放つ。
ザラームの元へと深い傷を負って帰った息子の最期の言葉はフラワーキングダムの英雄にやられただった。
ザラームは憎しみの闇に堕ちラファールに復讐を誓う。
「私と同じ目に……」
ラファールとソレーユが結ばれて、子供が産まれることを知ったザラーム。闇魔法でチンピラを操り子供を産んだばかりで魔力の少なくなっていたソレーユを襲う。
魔力をお腹の子供に与えて自身は空になっていたソレーユ。出産後に子供を抱いてあやしているところに、隙をつかれ胸を刺され倒れ伏す。
ソレーユは死ぬ前に必死に我が子を守ろうとしたが奪われる。息絶え絶えのソレーユの元にラファールが到着した時にはザラームは去っていた。
ソレーユは最期に息子オールを助けてほしいと言いキスをした。
「あなたは生きて」
彼女はそう言い、力尽きた。
ラファールはソレーユを涙ながらに抱きしめ、介抱を任しオールを奪った正体不明の敵を追う。
そのザラームは、わざとゆっくり進んでいた。大雨の中ラファールが追ってくるのを待つ。そして、ラファールがザラームを見つけた。
ザラームである事はわかっていない。フードを深く被ったザラームは、馬を猛スピードで走らせる。
追うラファールは、必死に叫んだ。
「待て!! 息子を返せ!!」
その言葉にザラームは苦笑いした。私の息子は返せるのかと。
やがて川に差し掛かり、ザラームはオールを川に投げ捨てた。ラファールは咄嗟のことですぐに行動を変えれなかった。
ラファールは敵を追うのを止めてオールを追った。川の勢いは凄まじく、馬よりも早い。ラファールは必死だった。息子まで失うわけにはいかない。
だが、川の流れは無惨にもラファールとオールを引き離したのだった。
一方、オールは生まれ持った魔法で川を流されながら進んでいた。小さな滝があり、空に浮かぶ。
風魔法で飛んだオールはやがてどこかの木に引っかかった。雨が止みオールの捜索がされたが見つからず捜索は中止された。
オールは死んだとされた。
だが、それから一年間オールは生きた。そして、ふとした瞬間木から落ちる。
オールは無意識に風魔法を使ってふわりと着地した。
ハイルアーイラ孤児院の院長が散歩がてら森を歩いている時にオールを見つけた。やせ細り白い布に包まれたオールを孤児院に連れ帰り育てた。
テレビでは多くの動物にも愛されたソレーユを忘れない、と大々的にやっていた。オールは動物達にミルクのようなそんな物を与えられて育ったのだ。
そんなことを知らない院長は、オールにアルズという名を与えた。誰も知らない物語。
後に、二十四歳になったアルズはフラワーエースナイトに選ばれた。
トネールの勧めでDNA鑑定をし、ラファールの血を引いてることを知ったアルズ。ラファールが父だったことを彼は嬉しく思う。
そして、父ラファールと同じ道に歩めたことを誇りに思った。
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