第67話 一目惚れ
...。
俺の先ほどの言葉になんとも言えない沈黙が車内を襲った。
「...カズ君。その問いに正直に答えるね」
「ああ。頼む」
重苦しい空気を取り払うように彼女は答える。
「一目惚れだよ♡」
「...はっ?」
思わずはっ? と言ってしまった。
だって一目惚れだぜ? 普通あり得ないだろう。
「うん。どう考えても一目惚れだよ♡ 私は幼い時にカズ君を見た時からもう好きだったんだ♡」
「そ...そうか」
あまりにも嬉々として喋るので少し怖いくらいだ。
「そうだよ! 私はカズ君と結ばれる為だけにこの世に生を受けたんだなって幼いながらに思っていたんだよ? あ〜あ。日本に年齢制限なんていう馬鹿みたいな規則がなかったらとっくの昔に求婚してるし、なんなら幼い時にカズ君からもらった縁日の玩具の指輪。あれ婚約指輪として大切に保存してるからね♡」
俺ですら忘れていた幼い時代の思い出さえ全て覚えているとは...。
愛川結美恐るべし! ...だな。
(と言うか、あれ何歳の時のイベントだっけ? 幼稚園児くらいか?)
マジで思い出せない。
ごめん結美。
でも忘れてたなんて言えないなぁ...。
「...ああそんな事もあったな」
と言っておこう。
「カズ君もやっぱり覚えているよね!? あれだけ衝撃なイベントだったんだから忘れられる訳ないよ!」
と1人で盛り上がっている結美を見て若干引き気味の真菜。
まあ、俺も若干引いてるんだけどな...。
「それだけじゃないよ! 幼稚園の時にやったパレードでカズ君が旗振り係になって重たいって言いながらも最後までやり抜いたの凄くかっこよかったし、小学生4年生の時にマラソンで10位以内に入れたのには感動して泣いちゃったもん」
「...」
やばいな、何にも覚えてない。
もう俺よりも俺の事知ってるんじゃないのか? こいつ。
「それでねそれでね! 中学の時の...」
その後も俺の事についての話を延々と聞かされたが、本当にどうでもいいことまで覚えている徹底ぶりに妙な嫌悪感...、もとい愛川結美の危険性に少しだけ震えてしまうのだった。
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