第37話:白、謎の会議室

-とある会議室-


「宰相閣下、魔物の軍団が消滅しました」

騎士と思われる男が宰相に報告する。

「なんだと!?」

報告内容は良い報告であると思われたが、そうではないようだ。

「上位種を含む混成魔物2000の軍勢だぞ?」

宰相は信じられんといった顔で報告をした騎士に詰め寄った。


「しかし、岩山には焼け焦げた大量の魔物の残骸が残るのみでして・・・」

しどろもどろに答える騎士。

「しかし、将軍よ。貴殿が管理していたのではないのか?」

大臣と言った見た目の別の貴族が将軍と呼ばれた騎士に質問する。


「それよりもだ、どうやったら2000もの魔物を殲滅出来る?」

誰かが口にしたその問いには誰も答えられなかった・・・


「魔物は消し炭だったのであろう?殲滅級の魔法を使ったんじゃないか?」

誰かがぼそりとつぶやく。

「すると犯人は宮廷魔導士殿ということになりますが?」

全員の視線が宮廷魔導士に集まる。

「いやいやいや、さすがに2000は無理だ。せいぜい100だろう。しかも3回使えば魔力切れだ」

つまりは宮廷魔導士であっても300程度しか倒せない。


「未確認ですが、ドラゴンが襲来したとのうわさもあります」

誰かがつぶやいた言葉に会議室がざわつく。

「確かに龍種であれば2000もの魔物を殲滅することはたやすいか・・・」

となればと納得はした。

しかし、新たな問題が発生する。


「その龍種は何のためにやってきて、どこに行ったのだ?」

通常ドラゴンがわざわざ魔物にちょっかいをかけることは無い。

魔物の軍勢は命令に従い待機していたから、こちらからドラゴンに攻撃することは無い。

ということはドラゴンは誰かの命令によって魔物に攻撃した?

「しかし、いったい誰がドラゴンに命令が出来ると言うのだ?」

王族の命令でもドラゴンは聞かない。

「まさか、より上位の存在が!?」

ドラゴンに命令が出来る存在。


「しかし、それよりも問題なのはおそらくはそのドラゴンを使役する存在にとってわれらは目障りだったということだ・・・」

宰相がつぶやく。

「そうであればわれらも同様に殲滅されているのでは?」

将軍はまだバレていないと思いたいらしい。


会議室は静まり返り、参加者はみな頭を抱えた。

「とりあえず龍種と事を構えるのはまずい!」

下手に今回のことを探ってドラゴンの尻尾を踏むのはまずいとの結論。


「速報です!姫様を救助した冒険者の1名が古龍とのことです!」

再び会議室がざわめきだす。

「担当したのは宰相殿でしたな?」

宰相の顔が青を通り越して真っ白になる。

「あの件は冒険者如きと思い文官に丸投げしたのだが・・・」

ガクガクと震える宰相は冒険者の相手をした文官を呼び出した。


「大変申し訳ありません!冒険者に渡すべき金貨を懐に入れた件ですね?」

そして、文官は聞いてもいないのに自ら罪を語った。

「何と冒険者に渡す謝礼金をちょろまかしたのか・・・」

宰相は終わったと思った。

コイツが余計なことをしたせいでこの国は滅ぶんだと・・・


「貴様が懐をほんの少し温める代わりにこの国は古龍様と敵対することになったのだぞ!?」

もちろん、そんなことを文官は思ってもいない。

所詮平民の冒険者ごときだ銀貨数枚でも渡せば満足するだろうと思っていた。

「何と金貨ですらなく銀貨を渡したのか・・・姫様の救出をした冒険者に対して・・・」

ここにきて文官も自分のしでかした事の重大さに気付いた。

「多く見せようと思い銀貨100枚を・・・まさか、あの時の冒険者がそのような存在の方だったとは・・・」

文官は即座に投獄された。


「冒険者であれば、魔物の群れを見て放っておけなかっただけかもしれない」

ただの希望的観測でしかないが、この説を皆が支持する。

「討伐依頼の出ていた魔物が群れの中に居たのかもしれん」

そんなことを言いながらも、自分たちに都合のいい事柄を並べているだけだと気付く。

「最悪なのは龍種を従えている、より上位の存在が居た場合だが・・・」

宰相のつぶやきで、会議室の空気が悪くなるだけだった。


「しかし、どうすればいい?謝罪しようにも相手の居場所すらわからん・・・」

とくに名前すら控えていなかった。

所詮二度と出会うことのない平民の冒険者そう言ったおごりがこの状況を作っている。

「ギルドを抑えましょう!」

冒険者であれば冒険者ギルドを利用するはず。

そう思っての提案だった。


「冒険者ギルドに問い合わせたところ、すでに王都を離れたとのことです!」

すでに手掛かりは残っていなかった。

途方に暮れる会議の参加者たち・・・

「周辺の街に手配を回しますか?」

将軍が提案をする。

「しかし、何といって呼び止めるのだ、次は無いかもしれんのだぞ?」

会議室の中では、ああでもないこうでもないと議論されるが、話は進展していない。


そんな議論に意味などないという事にも誰も気付かない。

ただただ、時間だけが過ぎていく・・・

「戦だけでも大変だというのに・・・」

そう、もともとは戦争のために用意した魔物の軍勢の話だった。

「しかし、龍種ににらまれた状態では戦は出来んぞ?」

そして話は堂々巡りに・・・


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