第38話:黒、謎の会議室

-とある会議室-


「今回の議題はこれだ!」

司会進行を務めるものが皆に資料を配る。


「なになに?『黒猫メイド騎士団』について?」

どの街にも属していない私設の騎士団。しかし、その構成人数はかなり多い。

「最近名前をよく聞くが正規の騎士団ではないのだろう?」

騎士団と名乗っているが冒険者の集団である。

「それどころか正式な国民ですらないと聞くぞ?」

主に奴隷を中心に人員を確保しているらしい。

人間だけではなく亜人や獣人すらも構わずに仲間に入れている。


「あちこちの街の外側に拠点を構築している」

配られた資料には王都をはじめとして5つの都市の近郊に拠点が確認出来たと書かれている。

そして、各拠点はきれいに整備された道でつながっている。

「この資料を読んでも特に問題は見当たらないが?」

むしろこの騎士団が活動している近辺では盗賊が全くいないとも書かれている。

「盗賊を生け捕りにするから、犯罪奴隷が多くなりすぎて鉱山が奴隷であふれたらしいな・・・」

最近は鉱山奴隷ではなく開拓奴隷として辺境の開拓に人員を割いているらしい。

そして開拓された場所に黒猫メイド騎士団の拠点が増えていくわけだが・・・

そう、都市近郊の拠点以外にも大小20ほどの拠点があるらしい。

その総数は誰も把握出来ていない。なんせ街に所属していないから・・・


「ギルドはどうなのだ?冒険者の集団と聞いたが?」

それは資料にも書かれている。

「冒険者クラン『黒猫メイド騎士団』は全部で500人ほどと・・・」

あまりの規模に会議室がざわめきだす。

「なんでも6人パーティーを小隊と呼称し、小隊4つで中隊、中隊4つで大隊と・・・」

完全に軍隊である。

「すると5つの大隊を構成出来るほどの人数が居るという事か・・・」

都市近郊の拠点が5つ。それぞれの大隊が守護しているという事だろうか?


「およそ規模的には伯爵領の騎士団程度か?」

人数で言えば1大隊で96人。伯爵領が抱える騎士団は80~100人ほど。

「問題は練度です。大隊長クラスは冒険者ランクで言えばSランク相当です」

会議室がざわめきだす。

Sランクと言えば勇者や聖女、賢者といった最高ランクの冒険者が到達できるランク。

1人でも1軍と戦えるほどと言われている。

「おそらく王宮の近衛騎士団にも匹敵するでしょう」

近衛騎士団はこの国最強の騎士団だ。

それに匹敵する集団が複数あるとかばかげた話である。


「その規模の軍を維持するのには莫大な金がかかるはずだが?」

軍隊は存在するだけで金がかかる。移動や戦闘を行えばなおさらだ。

現金もだが、食料や装備などの消耗品も必要。

「それがどうも自前でそろえているようです」

冒険者だから依頼をこなして現金を得るのはわかる。

「荒れ地を開拓して農地にして作物を育てているとのことです」

軍隊ではなく開拓者。

畑も耕すし、家畜も育てる。道や家すらも自前で作る。

服や装備も自分たちで工面していると聞く。

農家であり、大工であり、職人でもある。

「しかも身に着けている装備も王国の騎士団のそれ以上の品と聞く」

魔物の素材を使った武器や防具。

錬金術を使った薬や魔道具などもまかなえる。


「そうか、魔物の討伐も行っているのであったな?」

もともと冒険者、依頼などなくても魔物が居れば討伐する。

討伐した魔物の素材は自分たちで使う。

命令されて初めて動く本物の軍隊とは違う。

自発的に行動し、魔物の討伐だけでなく作物を育て狩猟もする。

豊富で多様な素材が溢れている。


「それと忘れてはいけないのが街道です」

各拠点を結ぶ道は各都市間を結ぶ道よりも整備されている。

つまり、黒猫メイド騎士団には土木工事に長けた人材も居るという事。

「盗賊や魔物の出現も少ない安全な道として、一部の商人なども利用しています」

その場合の護衛はもちろん黒猫メイド騎士団が請け負っている。


「しかし、税はどうしている?」

街に住むには税金がかかる。

「どこに収めるというのです?」

街には住んでいない。街の外に自らの拠点を構築している。

「そもそも冒険者だ。街への出入りも自由さ・・・」

何故なら軍隊ではないから。ただの冒険者に過ぎないから。

冒険者とは自由な職業なのだから・・・


「ところでやつらの目的はなんだ?」

誰も答えられない。

「現在はラプラスの大迷宮を攻略中との噂です」

ダンジョンアタック。冒険者としてはごく当たり前の行動。

何ら不思議なところはない。

「それがかなりの人数を投入しているらしいとの情報も・・・」

ラプラスの大迷宮は大陸最大とも言われているダンジョンだ。

そして、いまだ完全踏破は行われていない。

何階層まであるのかも確認出来ていない。ギルドに報告のある記録は31階層だったか・・・


「ダンジョン攻略のための組織強化であれば問題ないのだがな・・・」

一般的な冒険者では10階層にも到達出来ないと言われている。

非公式で未確認な情報であればもっと深層まで行った冒険者も存在する。

ただし、彼らは戻ってこなかった。

無事に戻ってこれた冒険者だけが記録を残せる。それが31階層。

「それにしてもなぜダンジョンに?冒険者はダンジョンに潜るものかもしれないが・・・」

現在ラプラスの大迷宮に潜る冒険者は居ない。黒猫メイド騎士団をのぞいて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る