第32話:黒、王様との謁見

今日は領主様の護衛で王都に向かう日。

朝の鐘が鳴る前に領主様の屋敷の門の前で待機。

しばらくして、朝の鐘が鳴ると門が開いた。

「おはよう、リーゼロッテ殿」

おはようございます、領主様。


「して、王都まで飛んでいくと言ってたが、実際どうするのだ?」

それでは失礼しますね?

そう言って領主様の身体を抱え上げる。いわゆるお姫様抱っこだ。

「女性に抱きかかえられるのは何とも気恥ずかしいな・・・」

一応、忠告しておきますが、あまりいやらしいことはしないでくださいね?

びっくりして思わず落としてしまうかもしれませんので・・・

「う、うむ、心に刻んでおこう!」


領主様を抱えたままふわりと飛び上がる。

ところで王都はどっちの方角でしょうか?

私は王都の場所を知らないんだよね。

「あそこに見える山の反対側辺りだな」

なら、そのまま山を飛び越えていきますね。

幾重にも結界を張り巡らせてすごいスピードで山を越えた。ほぼ一瞬で。

「何とここまでの速度が出るとは・・・」

山を越えると巨大な都市が見えた。あれが王都なのかな?


「王都が目の前に見える・・・馬車で10日の距離だぞ?」

おそらく山や川を色々と迂回しているんだと思う。空から見た道はグネグネ曲がっていた。

「道を無視して一直線だったからな・・・」

とりあえず門の前に降りるわね?


どこの列に並べばいいのかしら?

まだ朝の早い時間なのに結構並んでいる。

「ああ、並ぶ必要はない。門衛にこの書状を渡してくれ」

そうか、書状が在るならズルじゃないよね?


「ふむ、ゾフト子爵様ですね。話は伺っております」

そう言うと用意されていた馬車に乗るように促される。


門から王宮まで馬車で移動する時間の方が王都までの移動時間よりも長かった・・・

ところで、私はどこで待ってればいいのかしら?

「そうだな、それほど時間はかからんと思うから待合室で待っててもらうのがよいだろう。終わったらすぐに帰る」

そう言えば、お土産を頼まれてたのよね・・・

お菓子か何かを買いたいのだけれど?

「私の用事が終わった後にしてほしい。王都ではぐれると会うのが絶望的だ」

なるほど。確かに人が多すぎる。

私は飛んで帰ることが出来るが、領主様は馬車か歩きで帰るしかない。

仕方がない、待合室で待っていることにしよう。


ほどなく王宮に到着し、待合室に案内された。

メイドさんがお茶とお菓子を持ってきてくれる。

これって私も食べていいのかしら?お茶が二つ用意されたってことは大丈夫ってことよね?

「一応、リーゼロッテ殿は私の護衛ということになっている」

なるほど。


しばらくの間お茶とお菓子を楽しんでいると、いかにもって感じのお貴族様がやってきた。

多分、大臣とか宰相とかそんな感じの人だ。

てっきり、領主様だけ謁見の間とかに呼ばれるのかと思ったら、なぜか私も同席しろと・・・

私は要らないと思うんですけど?何か誤解されてない?私は護衛よ?


しかも案内されてやってきたのはいわゆる謁見の間だよ・・・

王様が玉座に座ってて、隣は王妃様?両脇に立ってるのは王子やお姫様?

それに部屋の中には大勢のお貴族様が居るし・・・


とりあえず、領主様が跪いてるからそれをまねる。

「面を上げよ。汝がゾフト子爵領の新しい領主で相違ないな?」

私は下を向いたままだからわからないけど、おそらく領主様が顔を上げた。

「はい、この度ゾフト領の領主に就任いたしました、ジード・フォン・ゾフトでございます」

やっぱり、私必要ないわよね?早く終わらないかしら・・・


「して、そちらは汝の妻か?」

え?そんな話聞いてない!

「いいえ、こちらは私の護衛をしている冒険者です」

良かった。はいとか答えたらどうしようかと思ったんだよ・・・

「何じゃ、紛らわしい・・・」

やっぱり、私は必要なかったんじゃないの!


「美しい女性を連れてきたと執事に聞いておったからな・・・てっきり・・・」

まあ、王様に美しいと言われるのは悪くないわね。

「この方は我が領地から盗賊を一掃した方です。これ以上ないほど頼りになる護衛でございます」

領主様のそのセリフに部屋が静まり返る。


「噂には聞いておったが・・・よもやこんな可憐な少女だったとは・・・」

ふふふっ、お世辞でもうれしいわね。

「そなた、名はなんと申す?」

はい、冒険者のリーゼロッテと申します。

「ふむ、その名覚えておこう」

よし、ごくごく薄いけど王族とのつながりが出来た。

それだけでも今回の依頼は受ける価値があった。

あとは、この空間から早く脱出したい・・・

どうにも息苦しい感じがする。周り中からの視線を感じるし・・・


「よし、下がってよいぞ?」

よし。終わった。

領主様が立ち上がるのを待ってから、私も立ち上がる。

王様の顔が視界の隅に移る。見たことのない顔だけど、いかにも王様といった感じの顔・・・


領主様の後についていって謁見の間を出る。

そのまま王宮の外に出てため息をつく・・・

「さすがに緊張したか?」

さすがに国家権力には勝てないしね・・・

「さてと、土産を買って帰るとするか?」

そうね、あの子たちはどんなものを喜ぶかしら?

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