第8話 クリスマス前は騒がしい

「今年もクリスマス直人の家いっていい?断られても行く予定だけど」


 学食で昼食を取っていると陽が来週に控えるクリスマスの予定について聞いてくる。小学校からの仲である陽は毎年直人の家でクリスマスを過ごしている。

 どうやらクリスマスの日に家に押しかけてくる熱狂的ファンがいるらしく、直人の家はその際の隠れ蓑というやつらしい。


「お前この前女子たちに予定は決まってないって言ってなかったか?」

「いやー回避の言い訳にお前使うのもどうかなーって。もしかしてクリスマス家に呼べない理由でもあんの?もしかして彼女でもできた?」

「できてねぇーし。結局回避用に使うじゃねえかよ」

「まぁねー」


 聞かなくても分かるようなことをわざわざ聞いてくるあたり意地が悪い。普段女子に向けるあの優しさをこちらにも向けて欲しいと思う。


「今年もクリスマスは野郎と2人かよ。はぁぁ」


 毎年恒例だが高校生にもなってこれだと嫌気がさしてきてため息が出る。直人は彼女を作る気が無いとはいえさすがに華は欲しい。


「いや夏希と千智もくるぞ」

「·······聞いてないんですけど」

「そりゃ今言ったからな」


 直人がそんな話聞いてないと陽を睨みつけるが、陽はそれを全く気にせず白飯を口に放り込む。

 陽に睨みをきかす直人自信にも周りから男の視線が集まっている。おそらく先程の会話が聞こえてきていたのだろう。


「んでクリスマスなんだけど·····」

「その話はちょっと後で···。ここでするのは身が持たん」


 これ以上話すと男からリンチに会いそうな雰囲気がしたため、陽を止めつつ昼食を早食いして食堂を足早に去る。




 陽に詳しく聞こうと思ったが食堂から後をつけてきていた複数の男たちの監視が酷く、学校内でクリスマスに関する話はできそうもなかった。

 そのため後日直人は3人を家に呼び事の経緯を話してもらうことにした。


「陽から話は聞いたけどどうしてクリスマス2人が来ることになったんだ。説明してもらおう」


 少し怒り気味に威圧する。本当は別に怒っていないが正直に話させるために今はこれが最適な気がした。


「あのーですね。その、陽が篠崎の家を隠れ蓑にしてるってことを聞いてですね、そのー私たちも使わせてもらおうかなと·····」

「そういうことです」

「なるほどな。予想はしてたけどそれは俺の家じゃないとダメなのか?他の女子の家とかあるだろ?」

「私たちお互い以外はそこまで親密な関係じゃないですし、安達さんと篠崎さんならしょっちゅう遊んでますし気を使わなくていいので」


 夏希のうつくしい笑みでそう言われると何でも許してしまいそうだ。やはりこの人はオーラが違う。


「安達はこんな美少女2人がクリスマスに遊びに来るっていうのに追い出したい訳!?」


 夏希に癒されて温まっていた心が一気に冷めていくのを感じる。ほんとに追い出してしまいたくなる気持ちをぎゅっと押さえる。


「中村、その態度のままならクリスマス家にお前だけ上げない」

「なんでよ!夏希は!?」

「瀬良さんは素直でいい人だから。もともと2人とも上げないつもりはなかったんだけどな」

「安達のケチ!篠崎も傍観してないで何とか言ってやってよ!」

「あはははは」


 千智が直人をポコポコと殴りながら陽に援軍を求めるが陽はソファーに座って傍観するのみだ。


「まあ、最後まで話を聞けって。だから中村、お前には条件を付ける」

「何よ·····コスプレでもさせる気?安達のえっち。」

「ほんとに家に入れんぞ」

「うー、ごめんってば。で、条件って?」

「それはな──────」

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