第7話 結果発表
試験開始の合図の鐘の音が鳴るまであと5分。
クラス内は緊張と期待と集中が混ざり合いいつもと違う空気が流れ静寂が訪れている。
小鳥の囀り、風が窓を揺らす音、時計の秒針の動く音、服が擦れ合う音、いつもはクラスの騒がしさにかき消されていた音が鮮明に聞こえる。
この息が詰まるような時間が直人は好きである。
静まり返った学校内に開始の鐘の音が響き渡り、それと同時に試験監督が開始を宣言する。
用紙を裏返す音が静寂を切り裂き、生徒を自分の世界へと誘う。
そんな日が1週間ほど続き試験の全日程が終わる。
クラス内では疲労で机に突っ伏す者、勉強で寝れていなかったのか大きな欠伸をする者、赤点を確信して項垂れる者とさまざまである。
直人含めた4人組は集まって試験の手応えを確認し合っている。その中で千智は腕を組み胸を張って自信満々に仁王立ちをしている。
「千智ずいぶん自信満々だね」
「ふふーん!これは勝った!」
「直人お前ご褒美覚悟しといた方がいいかもな····」
何をされられるかわからない恐怖に直人は身震いする。できれば優しいものをと願う。
それから何日か経った頃、終礼で試験の全結果と共に昇降口に上位50名の名前と点数が書かれた紙が掲示されていることを告げられる。
終礼後すぐに昇降口に向かう者もいたが、大人数がなだれ込むことを危惧して時間を置いて向かうことを決める。
人が空いた頃にひとりで遅れて昇降口に向かうと大きな紙が1学年に1枚、計3枚張り出されていた。
1年の紙の前に行き上から順番に名前を確認していく。
1位には瀬良夏希の名前があった。これで入学からの連続1位記録がさらに更新された。直人はさすがと感心しながら目を下に向ける。
安達直人の名前は8位の場所にあった。10位以内であったことに安堵しつつ現状維持なこの結果と自分に少し落胆した。
他にも47位には篠崎陽の名前があった。集中して勉強をしていた姿はほとんど見なかったはずだがこの順位にいることに主人公補正かと嫉妬する。
今日は打ち上げと千智の結果報告を兼ねて直人の家に集まる予定があるため、あらかた見終わると3人と合流し帰路に着く。
「で結果はどうだったんだ」
「·····」
直人の家に着いてから一言も発さず直人と目を合わそうとしない千智に少し厳しめに声をかける。それでも声を発さない。
千智の機嫌がさらに悪くなる。
じっと千智を見つめていると千智がカバンから何かを取り出そうとする。ちらっと直人の方を見たあとカバンから数枚紙を取り出し裏向きに並べる。
夏希がおずおずと紙を表向きにしていく。予想はしていたがその紙は解答用紙のようで全て赤点は回避している。しかし肝心の数学が見当たらない。
「数学はどうした」と声を掛ける直前に勢いよく1つの紙を直人の前に掲げる。
やはりそれは数学の解答用紙でかなりの数丸があった。しかし点数は68点。
「約束の点数は70点だったよな」
現実を突きつけるように傍から見れば心無い言葉をぶつける。
千智の瞳が潤み出す。千智の手に力が入り紙の持っている部分がクシャッとなる。手も少し震えている。
「あと2点だったな。たった2点。されど2点だ。その2点が今のお前の実力だ」
「おい直人その辺に·····」
千智が持っていた紙をを下ろし空いた方の手を直人の頬目掛けて振り抜いた。と思われたが直人がそれを手で受け止める。
「でもお前の頑張りは知ってる。ずっと見てきたからな。勉強で夜更かしして授業中うたた寝してるのも知ってる。何度解いても分からなくて泣きそうになってたのも知ってる。勉強苦手なお前がここまで努力すると思ってなかった。素直に凄いと思うし尊敬する。」
これは直人の本心からの言葉だ。思っていることが何にも邪魔されずつっかえることなく言葉になる。
「だから頑張りに免じて今回の約束は68点以上だったことにしてやる。あと俺のお願いをひとつ聞いてもらう」
千智の体が震え目からは大粒の涙が零れる。
直人が千智の頭にポンと手を置く。
「俺のお願いは今すぐ泣き止んで皆と仲良くお前の好きなホラー映画を見ること。なんとお前のイチオシポルターガイスト系だぞ。俺はホラー無理だから耳と目は塞ぐけどな」
「直人お前そこはもうちょいカッコつけろよ。千智もほら泣き止む」
「ほらほら泣かない泣かない」
泣き止むよう言ったはずだが涙がどんどん溢れていく千智に夏希が寄り添いハンカチを取りだし千智の涙を拭きつつ頭を撫でる。その光景を見て直人と陽は笑みを浮かべる。
しばらくして泣き止んだ千智が恥ずかしがりながら頭を下げる。
「お見苦しいところを見せてすみませんでした」
「号泣とか久しぶりに見たよな」
「うるさい安達。でも·····ありがと」
まだ目の周りは赤いが屈託のない笑顔で感謝を伝えられ直人はドキッとする。
「お、直人照れてる?」
「これは安達さん照れてますね」
「う、うるさい!いいから見るぞ映画!ほら千智そこ突っ立ってないではやくこっち来い」
部屋を暗くしてみるか明るいままかで一悶着あった後、暗い部屋でみんな仲良くホラー映画を見た。直人は陽に手を拘束され目を瞑ろうものなら強制的に開けられる。今度は直人が泣きそうになったのは言うまでもない。
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