第9話 父

 二学期の終業式、長く有難い校長先生の話を聞きながら欠伸をする生徒が何人か。小学校中学校と何度も校長先生の話を聞いてきたが高校はとりわけ長い気がする。


 終業式が終わり教室に戻る。残すは帰るのみだ。


 クリスマスの予定の件もあり男子からの監視の目が光か輝いているかのように思われるがそんな視線は感ない。

 それもそのはず、直人はしっかりと策を練っていた。その策とは─────




 陽、夏希、千智の3人を家に呼びクリスマスについて聴取をした日まで遡る。


「で、条件って?」

「それはな、お前に男子の鎮静化をしてもらいたい。俺の家に来ないということをさりげなく伝えてくれたらいい」


 直人は自分の身を守るためにクリスマスの予定について偽装することを頼んだ。直人のこれからの生活が危ぶまれるため仕方ない。


「つまりクリスマスは安達の家に行かないって嘘をつけってこと?」

「おー、それなら俺も手伝うぞ。人脈は多いからな」

「ほんとは中村だけに罰を貸したかったんだけど、早く終わるに越したことはないよな。頼んだ」

「安達さん私も手伝ってもよろしいですか?もともと私も罰を受けるべきですし」

「断っても仕方ないし、じゃあお願いするよ瀬良さん」





 という訳だ。

 具体的な策については3人に任せ、直人は落ち着くのを静かに待った。

 以外と落ち着くのは早く、1日我慢すればもう感じの目は無くなっていた。コミュ強3人の発言力と行動力に恐ろしさを感じた。

 小耳に挟んだ情報によると夏希と千智は中学時代の女友達と遊ぶということになってるようだ。これなら誰にも白羽の矢が立たないだろう。




 夕食中、クリスマスの予定を母の春乃に伝え忘れていたのを直人は思い出す。


「母さん。クリスマスの日友達来るから。3人。」

「あらそう!お母さん張りきっちゃうわよ!!陽くんはいつも通として、もしかして夏希ちゃんと千智ちゃん!?やるわねーあんた!」


 夏希と千智はしょっちゅう遊びに来ているため春乃と面識がある。初めて連れてきた時はどれだけいじられたことか。

 直人と陽そっちのけで女子トークを展開していることもある。それほどに仲は良い。


「クリスマスの日父さんは?」

「和人さんは仕事で忙しいらいわよ。良かったわね」


 なぜ居ないことに「良かったわね」と言われるのか。それは父である和人かずとと親子関係にある。


 安達和人は弁護士の仕事をしており、若くからその才を見込まれ四十代後半になった今も凄腕弁護士として企業のお偉いさんや政界の重鎮を相手に仕事をしている。

 そのためかなり仕事が忙しく家に帰って来れないことが多く事務所で寝泊まりすることが多い。

 今も夕食の場に和人はいない。


 これだけならまだ直人にとってはいい方だ。

 和人を漢字で表すなら「正義」の文字が妥当だろう。非常に厳格で嘘というものを忌み嫌う、常に自分が正しいという芯をもった人間だ。

 そのため弁護士という仕事に誇りを持っている。まさに天職だろう。


 和人は直人は弁護士になるべきだと言う。弁護士にさせるために育ててきたと言ってもいいだろう。

 娯楽を与えず、勉強に集中させる。直人がやりたいことなど二の次。青春など以ての外。反抗しようものなら何をされるか分からない。


 まるで傀儡だ。


 1度中学時代直人の不満が爆発したことがあり、その結果少し規制が緩和された。しかし、勉強を疎かにしようものなら鉄槌が下るだろう。


 だから父のいないクリスマスに安堵した。


「父さんはさ·····いやなんでもない」

「なによ気になるわね」


 頭に浮かんだ疑問がぽつりと出てきてしまいそうだったのを食い止める。

 直人はこの疑問は出すべきでは無いと心の隅っこにそっと閉まっておいた。

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