ネジリンボ

そうざ

The Nejirimbo

 呼び鈴を押すと、直ぐに奈野なのミリの母親が出て来た。顔立ちが奈野と似ていたから、瞬間的にそう判った。心の中で『ミリママ』と呼ぶ事にし、奈野が年を取ったらこんな感じになる訳か、と思った。

「あの、僕、奈野さんと同じクラスで海里かいりと言います……」

 目の前にいる人も『奈野さん』なのだから、本当は『ミリさん』と言った方が良いのかも知れない。

「それで、あの、お見舞いに来たんですけど……」

「まぁ、わざわざありがとう……ちょっと待ってて下さいね」

 ミリママは僕を玄関に残し、小走りで家の奥に戻ってしまった。どうやら奈野は親に何も伝えていないらしい。突然、娘の同級生を名乗る、顔も名前も知らない男子生徒がやって来た事に驚いているみたいだ。きっと、男の子が娘に会いに来る事自体が初めてなのだろう。

 僕にしても、いきなり女の子に呼び付けられたのだからか、かなり驚いている。


                  ◇


 驚きの展開は、ほんの数時間前、今日の昼過ぎに始まった。

 いつものように、図書室の隅っこで『図解・世界の珍生物―改訂版』を広げながら弁当を食べていると、クラスの女子が数人、つかつかと近寄って来た。連中は一応『イケてる女子』という事になっている。つまり、僕とはまるで別の世界に生息している生き物だ。

 当然、僕はびくついた。お前そろそろ死ねば、くらいの事を言われるかと思ったら、リーダーっぽい女子がぶっきら棒に、伝言、と言い、時代劇で印籠を誇示する時のようにスマホを掲げた。

 その画面には、絵文字も顔文字もない簡潔な文章が表示されていた。

『ウチのクラスの図書委員に、今日の放課後、私の家に寄るよう言って頂けないでしょうか。よろしくお願いします。奈野ミリ』

 理解不能だった。

 僕と奈野は同級生という事以外に何の接点もない。一年の時も同じクラスだったけれど、その頃から『顔と名前だけは見知っているが限りなく無関係な同級生』だったのだ。

「読んだ? 確かに伝えたからね」

 そう言うと、リーダーはさっさとスマホを仕舞い、何で私がパシリみたいな事をやらさせられるのさ、と捨て台詞みたいな事を言いながら僕に背を向けた。後で知った事だけれど、この女子は以前、奈野の親友だったらしい。去り際、取り巻きの連中が吐瀉物でも見るかのような眼差しを僕に突き刺した。

 奈野が学校に来なくなって今日で五日目だ。

 先生が言うには、風邪を拗らせているらしい。奈野の家からそう連絡があったのだろうけれど、クラスの連中はほとんど信じていないと思う。奈野が苛められているのは周知の事実だからだ。

 苛めは、男子からの明白なからかいから始まった。でも、そんなのはまだ良い方で、女子達が段々と苛め側に組するようになった事の方が何倍も辛いだろう。僕に伝言を伝えに来た女子も今や加害者側だけれど、敢えて『加害者づら』という生存戦略を選択したに違いない。そうでなければ伝言役を引き受けないだろう。

 正直、僕は奈野に感謝していた。奈野が苛めのターゲットになってくれたお蔭で、僕は辛うじて『存在感ゼロ』のポジションを獲得出来た。居るのか居ないのかが判らない、居ても居なくても同じ、という立場は、孤独を友としつつも、苛めっ子、苛められっ子、傍観者が形作る魔のトライアングルに組み込まれずに済むのだ。


                  ◇


 ミリの部屋は二階にあった。

「ミリちゃん、海里かいり君がお見舞いに来てくれたわよ……ドア、開けて良い?」

 ミリママがドア越しに呼び掛けると、室内からがさごそと音が聞こえた。

「お母さんは階下したに行ってて」

 ドア越しの声は、曇っていてもはっきりとした命令口調だった。

 ミリママが戸惑っている。年頃の男の子と娘を部屋に残して良いものか、近頃は中学生でも色気付いているから間違いが起きたらどうしよう、と心配しているのかも知れない。

 お母さん、それは杞憂って奴ですよ、僕は生まれながらに女の子と口を利く権利を剥奪された恋愛難民なんです、僕の男性器は女性器とご対面する事なく僕の右手にいだかれながら一生を全うするのです――そう言ってあげたかったが、勿論、言える筈がなかった。

「ミリの風邪が伝染るとあれだから、あんまり長い時間、一緒に居ない方が良いわよ」

 そう言いながら、ミリママは階段を下りて行った。娘が風邪だと信じているらしい。やっぱり奈野は苛めの事実を親に言えないのだろう。

「母親、もう行った?」

 ドア越しにミリが訊いて来たので、僕は返事をした。奈野が自分の母親を『母親』と呼んだ事に妙な共感を覚えた。母親は母親以上でも以下でもなく、お母さんでもママでもないのだ。

 ドアがゆっくりと開いた。女の子の匂いを含んだ空気が漏れ出した。異世界への入り口に、薄いピンクのスウェットを着たミリが立っていた。勿論、制服以外の姿を見るのは初めてだ。

 スウェットの下は素肌か。ブラジャーは装着しているのだろうか。寝る時は外すものなのか。何色なのだろう。

 因みに、奈野は美少女でも何でもない。寧ろ『反美少女』と言うか『非美少女』と言うか、前々から、僕がもう少し太って眼鏡を掛けて女装をしたら似ているかも知れないと感じさせる、そんな女子だ。

「入ってドア閉めて適当に座って」

 奈野はぶっきら棒に言うと、どっかとベッドに腰掛けた。

 僕は、恐る恐る奈野のエリアに立ち入った。窓にはカーテンが引かれていて、薄暗い電灯と机の上のパソコンが鈍い光を放っている。よく分からない静寂の中、僕は適当に座る事が出来ず、立ちすくんだままだった。

海里かいり君って、いつも本ばっか読んでるよね」

 奈野が何となく上から目線で静寂を破った。その癖、視線を合わせようとしない。でも、合わせられても僕は逸らすだろう。

「色んな知識とかありそうだよね。ネットとか見るんでしょ?」

 そう言いながら奈野がパソコンの方を向いたので、僕も目をやった。

 画面に何処かのサイトが表示されていて、〔ネジリンボ〕という赤い文字が目に飛び込んで来た。

「ネジリンボって知ってる?」

 奈野が呟いた。

「……名前くらいは」

「今でも居ると思う?」

「さぁ……二十年も前に絶滅危惧種に指定されてるし」

「でも、全然居ない訳じゃないんでしょ?」

「まぁ、数年に一度くらい宿主しゅくしゅ被害が出てるらしいからね」

「宿主って、ネジリンボに寄生された人の事?」

「うん」

「やっぱり詳しいね」

 こんな世間話をする為に呼び付けたのか。訳が分からない。分からないが、自分の唯一の関心分野を語れるのは少し快感で、僕は知らず知らず得意気になって答えていた。

「実物、見た事あるの?」

 一瞬、正直に言おうかどうか迷ったが、もしここで嘘をいて後々辻褄が合わなくなったら寧ろ格好が悪い。

「いつも他の生き物に寄生してるから、ほとんど観察出来る機会がないよ。専門の研究者だって実際に見た人なんかほとんど居ないよ」

〔ネジリンボ〕について色々と解説している癖に本物を見た事がないなんて、と馬鹿にされる気がした僕は、必死に言い訳めいた事を喋り続けた。

「見てみたいと思う?」

 奈野は自分の口調を崩さない。

「そりゃ、まぁ」

「見られるよ」

「はっ?」

「その気になれば」

 僕の頭の中で『もしかして』と『あり得ない』が追い掛けっこをしている。

 奈野は、机の抽斗ひきだしから何かを取り出した。それが百円ライターだったので、どきっとした。でも、続けて取り出したのは煙草ではなく線香の箱だった。

「何をするの?」

「えっ?」

 奈野が意外そうな顔で僕を見た。初めて目線が合った。

「何って……知らないの?」

「あっ」

 ぴんと来た。正確に言うと、ぴんと来たような気がした。〔ネジリンボ〕の駆除には煙を使うというあやふやな知識が、頭の抽斗から飛び出した。

「細かい事はあのサイトに載ってるから何とかなるでしょ」

 奈野がライターを弄りながらパソコンを見た。初めて見るそのサイトには、〔ネジリンボ〕に関する様々な知識――生物学的分類とか、生態とか、寄生方法とか、図書室の本にも載っている内容以外にも、駆除の手順が細かく記されていた。

 僕は、初めて目にする情報に興奮した。用意する物として、ライターと線香が書かれている。奈野はもう一通り手順を読んでいるのだろう。

「これって自分一人じゃ出来ないから」

 思い掛けず直ぐ後ろで声がしたので、僕はびくっとして振り返った。奈野の顔が間近にあった。顎に小さなニキビがあった。上唇の端に薄っすら産毛が生えていた。目頭の辺りに目脂の欠片みたいなものが付いていた。女子の顔をこんなに近くで見たのは初めてだった。

 僕は、慌てて視線をパソコン画面に戻して訊いた。

「もしかして、僕に手伝ってくれって事? て言うか、じゃあ、もしかして……」

 奈野が軽く視線をずらしたまま頷いた。

「ほんとにネジリンボに寄生されたのっ? どうしてっ? いつっ? 何処でっ?」

「そんな事、どうでも良いでしょ」

 少しの静寂の後、僕はまた恐る恐る訊いた。

「……右? 左?」

「右」

 生きて動く〔ネジリンボ〕を見てみたい。駆除にも興味がある。

「やってくれるの?」

「僕に出来るかな?」

「君なら余裕かと思って来て貰ったんだけど。サイトを見ながらなら何とかなるでしょ?」

「まぁ……」

 僕は、目線を逸らしたまま承諾した。


                  ◇


 駆除の手順を一通り頭に入れ、ライターと線香を手に取った。

「私、横向きになるから、君はベッドの脇に座って」

 奈野は、僕に背を向ける格好でベッドに寝転ぶと、そそくさと髪を掻き上げ、右耳をあらわにした。

 僕は、言われた通り傍らに立膝の状態で控えた。奈野を膝枕する姿を思い浮かべていた僕は、少し拍子抜けしたが、同時にほっとした。

「それじゃ、始めるから……」

「うん」

 奈野の耳は小振りで、緊張からか赤みが差していた。こういう貝がネタの寿司があるような気がした。それは兎も角、他人の耳をこんなに間近で見るのは初めてだった。よくよく見ると、耳の外周に産毛が生えている。首筋にも揉み上げにも頬にも生えている。唖然と言うか、呆然と言うか、カルチャーショックみたいなものに陥った。漫画やアニメとは違う。間近で見ると、女子の顔もそんなに綺麗ではない事に初めて気付かされた。

「……どうしたの?」

 奈野の声で我に返った僕は、慌てて線香に火を点けた。細く青白い煙が立ち昇り始める。それを奈野の耳元に持って行き、ゆっくりと息を吹き掛けた。

 奈野がぴくっと肩を竦めた。宿主しゅくしゅがそんな反応をするなんてサイトには書かれていない。僕は少し不安になった。

「大丈夫?」

「平気」

 軽く乱れた煙が奈野の右耳を包む。これを何度も繰り返さなくてはいけない。〔ネジリンボ〕の駆除にはこの方法が何よりも効果的らしい。燻し出すという事なのか、それとも線香の芳香に誘われて出て来るのだろうか。灰を落とさないように細心の注意が必要だとも書かれていた。

 元々は地中や深海の最深部等で繫栄していた〔ネジリンボ〕だが、何かの弾みで人間に寄生する生き方を覚えてしまった。

 寄生された人は、耳掻きとかで無理に追い出そうとしてしまうが、それは全く逆効果だと言う。〔ネジリンボ〕は耳の奥へ奥へと逃げて行き、鼓膜を食い破りながら更に奥の渦巻管の中に住み着いてしまうらしい。こうなると悲惨だ。平衡感覚がやられてしまうから、常に酔っぱらったみたいにふらふらとしか歩けなくなる。こういう状態を〔リンボ舞い〕と呼ぶ事は知っている。学校の朝礼で、使ってはいけない差別的な言葉だと教えられた。

 一代駆除キャンペーンのお陰で〔ネジリンボ〕はほぼ根絶された。そうなると今度は、自然保護の観点から保護の対象になり、絶滅危惧種にまで祭り上げられた。人類史が繰り返しているいつもの奴だ。

 今でも一部の病院で密かに〔ネジリンボ〕の駆除を行っているという噂がある。水で溶いた薬剤を耳に注ぎ、後は只管ひたすら〔ネジリンボ〕が死ぬのを待つらしいけれど、一回や二回の投与で効果は出ないらしい。常に耳の奥に薬剤が溜まっている状態が続くから、雑音に悩まされる。そもそも、使用する薬剤は劇薬に近いもので、耳の機能をやられ兼ねない。それに、〔ネジリンボ〕の方も負けじと薬剤への耐性を持ち始める為、決定的な殺虫方法は未だ発見されていない、と週刊誌で読んだ事がある。

「ケホッ……まだ?」

 奈野が煙に顔をしかめた。

「そろそろ効き目が表れると思うんだけど……」

 僕は、更に元に煙を吹き掛け続けた。また奈野が肩を竦ませた。ぽてっとした二の腕に鳥肌が立っている。

「大丈夫?」

「平気……続けて」

 そう答えながらも、奈野の息遣いは乱れ気味だった。サイトには書かれていないだけで、本当は痛みを伴うのだろうか。

 その時、穴の近くで影が動いた。ここで焦ってはいけない。僕は慎重に煙を吹き掛け続けた。奈野の呼吸が更に荒くなる。

 そして、それは遂に姿を現した。

 奈野は本当に〔ネジリンボ〕に寄生されていたのだ。

〔ネジリンボ〕は、その名の通り螺旋状に捩じれた形をしている。図鑑で見た通りだ。赤茶けた体色は、錆び付いた螺子ねじを連想させる。でも、ぬめぬめとした分泌液で覆われて鈍い光を放っている。これを潤滑油にしてゆっくりと回転しながら出たり入ったりするのだろう。

 奈野は荒い呼吸のまま時折、か細い唸り声を噛み殺している。〔ネジリンボ〕の出現を奈野に知らせるべきかどうか迷ったけれど、ここで声を上げてまた耳の奥に戻られたらまずい。

 サイトには、〔ネジリンボ〕が姿を現したら頃合いを見て摘み出すべし、と書かれているけれど、どの瞬間が頃合いなのかが分からない。上手く摘み出せたら、今が頃合いだったのか、と後から判断するしかないのかも知れない。

 正確な体長はよく分からないが、もう半分くらい外に出ただろうか。僕は思い切って〔ネジリンボ〕を掴んだ。次の瞬間、〔ネジリンボ〕は逆回転して指を擦り抜け、するするっと穴に戻って行ってしまった。

「んぅあぁああはぁっ……!」

 途端に、奈野が苦し気な声を上げた。

「あ、んと、えっとっ……い、痛いのっ?」

「はうっ……分かんないっ」

「分かんないって、自分の身体だろ」

「だって……分かんないんだもんっ」

 奈野は怒りながら顔を歪ませた。額や首筋や項に細かな汗が浮いている。僕は〔ネジリンボ〕が鼓膜を破って脳髄まで食い込んで行く光景を想像し、その場から逃げたくなったが、取り敢えず闇雲にネットで対処方法を検索し続けた。

「続けてよ……」

 奈野の落ち着いた呟きが聞こえた。

 僕は恐る恐る振り返った。奈野はベッドに仰向けの状態でぼんやりと天井を見ていた。

「もう痛くないの……?」

「だから、痛いって言うより……兎に角、続けてよ」

 どうやら大事には至らなかったらしい。僕は、すっかり煙臭くなった指で残りの線香に火を点した。今度こそ絶対に捕まえる。

 煙が貝のような耳を包む。また奈野の息が弾み始める。僕は構わず息を吹き掛ける。僕の額にも汗が流れ始める。

 仰け反らせた顎の下に、少し大きい黒子があった。そこから少し長い毛が生えていた。女子も黒子から毛が生える事を初めて知った。

〔ネジリンボ〕が再び姿を見せた。ゆっくりと回転しながら出て来る。奈野が下唇を噛んで必死に耐えている。ここで止めたらまた最初からやり直しだ。僕は、奈野に構わず摘み出すタイミングを計った。

 奈野が身を反らす瞬間、むうっとした体臭が鼻先を掠めた。仄かに甘い香りだった。〔ネジリンボ〕に寄生された人間特有の体臭なのか、奈野特有の体臭なのか、それとも女子の体臭は皆こんな感じなのか。

 いつの間にか、奈野はシーツをぎゅっと握り締めていた。

 今だっ――僕は素早く〔ネジリンボ〕を掴んだ。〔ネジリンボ〕は苦し気に激しくくねって抗う。それに同調するように奈野も身を捩る。僕は〔ネジリンボ〕を逃がさないように左手で奈野の肩を押さえ付けた。女子の体温を感じた。

〔ネジリンボ〕を引っ張るが、耳に固定されているみたいに中々出て来ない。こんな小さな生き物の何処にこんな力が秘められているのだろう。

 シーツを握っていた奈野の手が僕の手首を握った。思いの外、力が入っている。でも、ここで止めたらまた煙からやり直しだ。

「もう少しだからっ」

 僕は奈野の手を振り払い、その手首を掴んでベッドに押さえ付けた。それでも、奈野は身をくねらせる。奈野自身が〔ネジリンボ〕に見えた。

 左手だけではとても押さえ切れない。僕は、起き上がろうとする奈野の上体を自分の身体で防ぎ、構わずに全体重を掛けた。それでもまだばたつく足には、自分の足を絡めて対処した。体温を、弾力を、凹凸を、体臭を、吐息を、全身で同時に感じた。

 目の前に顔があった。奈野は汗ばんだ顔を上下左右に振りながら、酸欠の金魚みたいに口をぱくぱくさせている。時折、口の中が見えた。歯並びが悪い。口臭が軽く鼻を掠める。

 その時、奈野の半開きの目と視線が合った。相変わらず目頭に小さな目脂が付いていた。


                  ◇


 その夜、僕は数時間前の事を思い出しながら自慰行為をしていた。目を瞑ったまま、オカズなしの完全想像スタイルだ。

 奈野の〔ネジリンボ〕は何とか無事に駆除出来た。格闘の末に〔ネジリンボ〕を引き出した瞬間、奈野は声を上げた。正確に言うと、ほとんど声にならない声だった。表情は叫びの形になっていたが、声はか細く蚊の鳴くようなものだった。

 取り出した〔ネジリンボ〕は、乳白色っぽい体液を流しながら暫く身をくねらせていたが、その内に動かなくなってしまった。

 その間、奈野は枕に顔を埋めたままぐったりしていた。よく見ると、小刻みに身体を震わせていた。声を掛けても返事をしようとしないので、僕はそのままにして帰る事にした。ナノママが訝しそうな顔で見送ってくれた。

 射精の瞬間、奈野の顔のどアップが脳裏に浮かんだ。ニキビの痕や髭や目脂も蘇った。奈野がもっと可愛かったら、と思いながら、僕は淡々とティッシュペーパーを片付けた。

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