第三話

 宣言通りに俺は毎回スリーポイントを狙っていった。当然毎回決まるわけではないのだけれど、四回に三回くらいは決まっているので点数的には同点なのだが、内容だけを判断するのであれば惨敗と言っていいだろう。

 俺はシュート練習をしているのかなと思うくらい自由に打たせてもらっているのに対して、若葉ちゃんはディフェンス練習は諦めて色々な方法を試しながら俺を抜くという事に拘っていた。俺も俺なりについて行こうとは思っているのだが、簡単なフェイントにもすべて反応してしまい、気付いた時にはゴールを奪われていたのであった。

「萩原先輩がスリーポイントを連続で外したら終わりにしますか」

「それもいいけどさ、俺が四回連続で決めても終わりにしようよ」

「そっちでもいいんですけど、それだったら私もちゃんとディフェンスするようになりますよ」

「そうなったらすぐに負けになっちゃうかも」

「そんな弱気なこと言わないでくださいって。嘘でもいいから強気でお願いします」

 ちょっとした休憩を挟んで勝負の続きをおこなったのだが、今までの成功が嘘のように俺はいきなり連続でシュートを外してしまったのだった。この結果にはかなり落ち込んでしまったのだが、若葉ちゃんは俺とは違って驚いているようだった。

「萩原先輩ってプレッシャーに強いのか弱いのかわからないですね。フリースローはあんなに上手で今日はスリーポイントの調子も良かったのに、ちょっとしたことでバランス崩れちゃうんですね」

「そういうところも試合に出れない要因何だろうね。基本的な能力が低いってのはもちろんあるんだろうけど」

「でも、連続で決められてた時はヤバいなって思いましたもん。次は体育館でフリースロー対決でもしましょうか」

「いいけど、そんな機会無さそうだよね」

「今は無理でも、萩原先輩が卒業してから遊びに来てくれてもいいんですよ」

 俺と若葉ちゃんはゴール近くにあるベンチに座ってドリンクを飲んでいたのだが、そんな俺達の側に小さな子供たちが寄ってきたのだ。その子供たちはバスケに興味を持ったようで俺達に色々な質問をしてきて、そんなに気になるなら一緒にやろうと若葉ちゃんが子供たちを誘っていた。

 小さな子供を相手に本気を出すことは無いのだが、俺は若葉ちゃんとの試合でいい具合に疲れてしまってそれなりに頑張らないと子供相手にもバンバン抜かれてしまっていたのだ。

 小さな子供のシュートはゴールに届きそうで届かないのだが、そんな子供たちはゴールを決めるよりも俺を抜くことの方が楽しいらしい。子供たちはドリブルが上手く出来ないのでボールを抱えて俺から逃げているのだけれど、そのまま最後の方ではラグビーと鬼ごっこを混ぜたスポーツをしているのかと思うくらいに走り回っていた。

「萩原先輩との試合よりも疲れました。こんなに走り回るとは思ってなかったですよ」

「それって、俺とやってる時は走り回らなくても勝てるって思ってたって事?」

「まあ、それはありますよね。だって、私オフェンスの時しか走ってないですもん」

「俺が上手かったらディフェンスも頑張ってたって事だよね」

「それもありますけど、萩原先輩のシュートを邪魔せずに見ていたいなって思っただけですよ。フリースローもスリーポイントもシュートフォームは変わらずに綺麗でしたからね」

「俺の数少ない取り柄だからね」

 俺達は疲れたのでベンチに座って休んでいるのだけれど、子供たちはボールをもって楽しそうに走り回っている。俺もあんな風な時期があったのかと思っていたのだけれど、俺はあまり家から出ることが無かったの思い出した。小さい時から家でバスケの映像はよく見ていたのだけれど、実際にバスケをやったのは小学四年生になってからだった。それまでは頭の中で凄いプレーをやっている自分を想像していたのだけれど、実際にやってみると俺の思い通りに体が動くはずもなく、ただただミスを繰り返すだけの時間が続いていたのである。それは今も変わらないのだが、あの時よりは少しだけ成長しているような気はしているのだ。


「ちびっ子たちの番はそろそろ終わりにしてさ、俺達に使わせてもらってもいいかな?」

 楽しそうに追いかけっこをしている子供たちに話しかけているその声は聞き覚えのある声であった。俺は疲れて下を向いていたので気付かなかったのだが、子供たちにコートを明け渡すように言っているのはバスケの上手い仲良し五人組だったのだ。

 子供たちは突然話しかけてきたこいつらに驚いて俺達の方へと走って逃げてきたのだが、まだ追いかけっこはしたいらしくボールだけはしっかりと離さずに持っていたのだ。

「あれ、若葉さんと先輩じゃないっスか。こんなとこで二人で何してるんですか?」

「何って、バスケの練習してたんだけど。お前らも練習しに来たの?」

「俺らは練習って言うか、遊びっスね。普段できないことをここで試そうって感じっすよ。で、二人でいるって事は、付き合ってるとかそういう関係なんっスか?」

「俺と若葉ちゃんが付き合ってるかって、そんな事はないけど。今日だって俺が練習してたら若葉ちゃんが後から来たんだし」

「へえ、そうなんっスね。じゃあ、俺達の動きが試合で使えるか見てもらってもいいっスか。先輩は分かんないかもしれないんで、若葉さんにお願いしたいんスけど」

「萩原先輩が見てもわからないって言うんだったら私が見てもわからないと思うよ。それに、そんなに暇じゃないからごめんね」

 若葉ちゃんは鞄にタオルをしまうと中から薄いピンクのパーカーを取り出してそれをそっとジャージの上から羽織っていた。俺は特にやることも無いしボールも子供たちに貸してしまったのでまだ帰るつもりはないのだけれど、若葉ちゃんはなぜか俺に一言謝ってから帰ってしまた。

「マジか。若葉さんに俺のカッコいいとこ見てもらいたかったのにな」

「何言ってんだよ。俺の方がイケてるっての」

「そんなお前らを俺は簡単に止めちゃうけどな」

「でも、先輩に見られてもいまいち燃えないよな。適当に遊んでくことにしようか」

 俺は子供がボール遊びに飽きるまで一年生たちの遊びを見ていたのだが、部活の時とは違って楽しそうに攻撃だけを繰り返していたのだ。これだけ色々なバリエーションで責めることが出来れば楽しいだろうなと思いながら見ていたのだが、ディフェンスがいれば簡単に止められていそうだなとも思っていたりもしたのだった。

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