第二話
今日みたいに練習が休みの日は近所の公園に行ってシュート練習をするのが俺の楽しみなのだ。受験勉強のストレス解消にもなるし、何より外でやるバスケも気持ちが良いものなのだ。
不思議なことに外だとフリースローの成功率は下がってしまうのだがそれ以外のシュートはそこそこ上手く決まってくれるのである。特に、スリーポイントに関しては外れる気がしないと思えるくらいに綺麗に決まっていたのだ。なぜそうなのか理由はわからないけれど、いつもとは違う環境で一人でやっているからという事もあるのかもしれない。
「今日もここで練習してたんですね。私も一緒に練習していいですか?」
「別にいいけどさ、俺はオフェンスもディフェンスも上手くないから若葉ちゃんの練習相手にはならないと思うよ」
「そうかもしれないですけど、フリースローのコツだけでも教えてくださいよ。前みたいにわかりにくいのじゃなくて、私でもわかるように教えてくださいね」
「そう言われてもな。俺は感覚で打ってるだけだからコツとかないんだよね。練習としては、リングの後ろに毎回当てるのを繰り返してただけだしな」
「なんで後ろなんですか?」
「そっちの方が入る気がしたからかな。リングの前に当たったら戻ってきちゃうけどさ、奥だとそのまま入る可能性もあると思って」
「なるほど。奥の方がいいかもしれないですね。そう考えると、私も奥の方が好きかもしれないです。ちょっと狙ってみていいですか?」
若葉ちゃんはボールを二度ついてから一呼吸おいてシュートを放った。
若葉ちゃんの放ったボールはやや低い弾道でリングの奥にめがけて向かっていったのだが、リングに当たった角度が悪かったのかボールは外へと弾かれてしまったのだった。
「奥に当てるのに集中しちゃって失敗しちゃいましたね。お手本を見たいんで萩原先輩も一回打ってもらっていいですか?」
「外だから決まるかわからないけど、やってみるよ」
俺はボールを低い位置で三回ついてからそのままの勢いでいつものようにシュートを放った。俺のシュートは若葉ちゃんの時よりも高い位置で弧を描くようにゴールに向かっていったのだが、突風に煽られてリングに当たってしまった。しかも、俺は奥を狙うと言ったのに手前に当たってしまったので恥ずかしくなってしまった。
「外だと風の影響もありますよね。でも、萩原先輩のシュートフォームはいつも通り綺麗でしたよ。シュートフォームの参考にしたいんで動画撮ってもいいですか?」
「参考にはならないと思うけどな。撮ってもいいけど役には立たないと思うよ」
「そんな事ないですって、私たちみんな萩原先輩みたいに綺麗なシュートを打ちたいって思ってますもん。綺麗なフォームでシュート決めれたらカッコいいですもん」
「今日は全然決めてないけどね」
「外だから仕方ないですって。じゃあ、いろんな角度から撮るんでお願いしますね」
そんなに色々な角度から撮る必要があるのだろうかと思えるくらいに撮影されたのだが、シュートの成功率は散々なものであった。風の影響があるにしても酷いとは思うのだが、ここまで失敗すると唯一の取り柄であるフリースローにおける自身が無くなってしまいそうだ。
「たくさん撮れたんで次はゲーム形式で勝負しましょう。私に勝てたらお願い聞いてあげますよ」
「お願いを聞いてくれるってのは嬉しいけどさ、勝てたらってのは聞く気ないでしょ」
「そんな事ないですよ。萩原先輩の方がバスケ歴長いんだから勝てるかもしれないじゃないですか」
「勝てるように努力はするけどさ、勝てる気なんて一切ないよね」
「何事もやってみないとわからないですよ」
「努力は報われるって言葉を信じたいものだよ」
俺は自慢じゃないが普通にやっても若葉ちゃんを抜くことは出来ないだろう。だからと言って普通じゃないことが出来るわけではない。そんなことが出来るのであればもっと試合に出ていたと思う。そんな俺に残されている物は、ただ一つ。何故か調子のいいスリーポイントを狙いまくるという事だ。
試合開始と同時に油断している若葉ちゃんの目の前でスリーポイントシュートを放ってみたところ、今まで失敗していたシュートとは違ってコースが決まっていたのではないかと思うくらい綺麗に決まったのだ。
「ちょっと待ってください。今のはちょっと反則じゃないですか?」
「反則ではないでしょ。俺が若葉ちゃんと勝負するならこうするしかないし」
「困ったな。そんな手で来るとは思わなかったです。てか、そんなにスリーポイントが上手いならあの試合に出た時も狙えばよかったじゃないですか」
「いや、恥ずかしい話なんだけど、あの時はロングシュートが届かなかったんだよ。フリースローラインで少し余裕があるくらいにしか飛ばせなかったんだ」
「だからってここで狙わなくてもいいじゃないですか。じゃあ、萩原先輩がそういう手で来るんだったら私は全部萩原先輩を交わして決めますから。覚悟しててくださいね」
「最初っからその覚悟は出来てるんだけどね。俺が若葉ちゃんを止められるくらい実力があるならもっと試合に出てるはずだし」
「そんな事言わないでくださいよ。私だって毎回萩原先輩を抜けるとは思ってないですから。毎回に近いくらいは行けると思ってますけど」
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