第六話
女子の家に遊びにくるのなんて小学生の時以来だった。妹の部屋に比べると可愛らしい小物が多くて女子っぽいなと感じるところも多いのだけれど、それは女子だからという事ではなく竹下さんがそう言ったものを好んでいるからなのかもしれない。
「飲み物取ってきますので待っててくださいね。あ、箪笥とか勝手に開けちゃダメですからね」
「そういう事はしないから安心していいよ」
「ですよね。部長はそういう事しないって信じてますから」
思っているよりも女の子らしい一面があるのだなと感じながら部屋にたくさん置かれているぬいぐるみを見ていた。俺の妹も小さい時はお気に入りのぬいぐるみを常に持っていたりしたのだけれど、いつからか人前では持ち歩かなくなっていた。でも、ベッドサイドにはさり気なくお気に入りのぬいぐるみだけはおいてある。竹下さんの部屋にあるぬいぐるみはどれも新しいもののように見えるのだが、あまり一つのモノに執着とかはしないって事なのかもしれない。
「お待たせしました。そんなにキョロキョロして何か気になるものでもあったんですか?」
「気になるって言うか、ぬいぐるみがたくさんあるなって思って見てたんだよね。俺の妹はぬいぐるみはお気に入りにやつ以外興味無いみたいだから竹下さんの部屋みたいにたくさんぬいぐるみがあるのってさ、女の子らしいなって思っちゃったんだよ」
「私って別にぬいぐるみ好きってわけじゃないんですよ。可愛いなとは思うんですけど、うちの両親がゲームセンターでとってきてくれるから飾ってるってだけなんです。これ以上増えても置く場所無いって言ってるんですけど、増えた分だけ売るから大丈夫だって言うんですよね」
「そうなんだ。ぬいぐるみとかも売れるんだね」
「意外と高く売れるみたいですよ。利益は出ないみたいですけど、ぬいぐるみを取ることが目的なんで関係ないみたいです。今日だって二人でゲームセンターに行ってると思いますし」
「竹下さんは一緒について行ったりしないの?」
「私は一緒に行ったりしないですね。小さい時は一緒に行ってましたけど、受験が始まると両親も私を誘わなくなって今も誘われないって感じです。でも、別に仲が悪いとか無いですよ」
俺も小さい時にゲームセンターでぬいぐるみを取って欲しいと妹に頼まれたことがあったのだが、その時は小さなぬいぐるみを一つとることしか出来なかった。それ以来俺はぬいぐるみを取ろうと思ったことは無いので、この竹下さんの部屋にあるたくさんのぬいぐるみを取るのにどんな苦労があったのだろうと思ってしまう。
「こんなにたくさん取るのって大変そうだよね。俺は昔小さいのを一つとるだけでも苦労したから凄いなって思うよ」
「本当に凄いですよね。こんなにたくさん取る必要なんて無いですし、取れそうな物だったら何でもいいのかなって思っちゃいますもん。そうだ、今日はどんな感じで撮影しましょうか?」
「竹下さんはどんな感じのが良いと思ったの?」
「そうですね。ちょっといいなって思ったのがあるんでそれにしてみましょうよ」
竹下さんが俺に見せてくれた動画は今までとは少し毛色が違うものであった。
今までは一人だけしか映っていないものばかりだったのだが、竹下さんは二人で映っている物を見せてきた。それにしても、二人の距離が近過ぎるような気もする。
「こんな感じのも一つくらい撮ってみたいなって思うんですけど、部長は嫌ですか?」
「嫌ではないけどさ、ちょっと近過ぎるような気もするんだけど」
「別にこれくらいだったら大丈夫だと思いますよ。くっついてるわけでもないですし。あ、もしかしてまた変なこと考えてました?」
「またってなんだよ。別に変なことなんて考えてないし」
「それならいいじゃないですか。じゃあ、練習で一回撮ってみましょうよ」
スマホに映し出されている竹下さんは良い笑顔をしているのだけれど、俺はどう見ても顔が引きつっている。いつもより近い距離に竹下さんがいるから緊張しているというのもあるのかもしれないが、学校とは違ってグイグイ近づいてくる竹下さんに戸惑っているという事もあるのかもしれない。
「画面で見るとちょっと距離を感じますね。もう少し近付いちゃっていいですよ。それとも、私から部長に近付いちゃいましょうか?」
「別にこの距離でもいいと思うけど」
「でも、さっき見たのはもう少し近かったと思いますよ。遠慮しなくてもいいですからね」
少しでも動いてしまうと触れてしまいそうな距離にいる竹下さんは画面越しに俺を見ているのだが、その表情は俺にいたずらをしようとしている時の妹の顔にそっくりだった。
「まだ開始してないんで失敗してもいいですよ。ほら、もう少しこっちに来てくださいよ」
「これくらいの距離で大丈夫だと思うけど」
「そんな事ないですって、もう少し近い方がいいと思いますって。恥ずかしがらなくても大丈夫ですよ」
竹下さんは俺の腰に手をまわして強引に距離を詰めてきた。突然の出来事すぎて俺は抵抗することも出来ずにいたのだが、抱き寄せられた時に感じた竹下さんの体はとても柔らかくて甘い匂いがしていた。
「ほら、これくらいくっついていた方が可愛いですって。部長もカメラ見てくださいよ」
俺は気恥ずかしい気持ちで一杯だったのだが恐る恐る画面に映しだされている自分の顔を見てしまった。その表情はさっきよりも確実に緊張しているというのがわかるくらい強張っていて、真っ赤になっているのがわかってしまった。
その後も画角を決めあぐねている竹下さんは俺に近付いたり離れたりを繰り返していた。その時に少しだけ胸に触れてしまったような気がしたのだが、竹下さんはそれに関しては全くノーリアクションだったのだ。普通だったら何か反応すると思うのだが、それが無いという事は本当に何も変な事を考えていないという事なのではないだろうか。
「あんまりうまく行かないですね。私ももう少し勉強しておくんで二人で撮るのはもう少し慣れてからにしましょうか。じゃあ、次は私を撮ってくださいね。可愛く撮ってくれなかったら怒りますからね」
「怒られる心配はないと思うよ。いつも通り可愛く撮れると思うからさ」
「もう、部長ってそういう事はさらっと言いますよね。近くにいる時は緊張してる感じで可愛かったのに」
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