第三話

「私も他の人達みたいにたくさん見てもらいたいんですけど、部長だったらどんなのを見たいって思いますか?」

「俺が見たいって思うやつか。今までもそういうのって見た事ないからわからないけど、竹下さんがキレッキレのダンスを踊ってるところとかは見てみたいかも」

「あの、そういうのは出来ないってわかってて言ってませんか?」

「わかってはいるけどさ、そんな感じで出来るんだったら見てみたいなって思ったから」

「部長がお手本を見せてくれるって言うんだったら私も頑張りますけど、部長ってそういうの出来ないですよね?」

「俺も手本があればなんとかなるかもしれないけどさ、実際に見てみないとダメだからキレッキレのダンスとかはやめようか」

「そうですね。私もそういうのは踊れないと思うから諦めます。他には、どんなのだったら見てみたいと思いますか?」

「何だろうね。あんまりそういうのって見た事ないからさ、どんなのがあるのかもわからないかも」

「まあ、私もあんまり詳しくないんで流行りとかわからないんですけどね。クラスの陽キャの子たちが休み時間に撮ってるのを見て楽しそうだなって思っただけですし、取ったやつがどんな感じなのかもわからないですからね。ただ、あんな風にしてみたら楽しいのかなって思っただけなんですよ」

「俺のクラスでも休み時間に撮ってる人達はいるよ。俺も何回か加わったことはあるんだけどさ、動きがダサいからダメだって言われちゃったよ」

「へえ、部長ってそういうの断らないんですね。ちょっと意外です」

「断りたかったけどさ、何となく断れない空気になってたんだよ。でも、なんだかんだ言って消されたから断ったのと変わらないしね。あれから誘われたりしなくなったから結果オーライって感じだけどさ」

 本当は何度か誘われてはいるのだ。クラスの陽キャたちがニヤニヤ笑いながら俺を誘いに来るのだけれど、その顔は明らかに俺が失敗するところを見たいだけだとわかるのだ。実際に俺はダンスも出来ないし運動神経も悪いのであいつらの思っている通りになってしまうのだが、俺が見ている限りではあいつらの動きも俺とそんなに変わってはいないと思うけどな。

「じゃあ、次の部活までに私達でも出来そうな動きを探してきましょうよ。部活と関係ない活動になっちゃいますけど、誰も来ないだろうしたまにはそういうのもいいですよね。でも、自分でも出来そうな無難なやつを選ばれても困りますし、お互いに相手にやってもらいたいのを選びましょうよ。私は部長でも出来そうなやつを選んできますんで、部長も私に出来そうなの選んできてくださいね」

「お互いのを選ぶってのは面白そうだけどさ、どんな感じのが良いのかさっぱりわからないよ。竹下さんはどれくらいのだったら出来そうとかある?」

「うーん、わかんないですけど、水着じゃないかったら大丈夫だと思いますよ。学校内で水着になるのは抵抗ありますし、そもそも水着持ってないですからね」

「はは、そういうのは選ばないよ。普通に竹下さんが出来そうなのを探してみることにするよ。だから、竹下さんもお手柔らかにね」

「わかってますよ。私も部長が出来そうなのしか選ばないようにしますからね」

 竹下さんは俺がどれくらい動けるのかわかっていないようなのだが、俺はちゃんと竹下さんの提示してきたものを出来るようにしようと思う。その為には今夜から来週の部活までの間に一通りは出来るように動画を見ておこうと思った。

「あんまり長いのじゃなくて短めのやつでお願いしますね。あと、それだけだったらここに来る意味もないので、ちゃんと双六もしましょうね。今度こそ私がトップアイドルになる番ですからね」

 あの双六は誰でもトップアイドルになるチャンスはあるのだが、一度でも失敗するとそれが叶わない仕様になっているのだ。竹下さんは他の双六だと普通に強かったりもするのだが、なぜかトップアイドルになるチャンスすら掴むことが出来ないのだ。確かに難しいとは思うのだが、千回もサイコロを振れば六の目が十回連続で出ることだってあるだろうとは思う。

「双六よりも動画でバズった方が早くトップアイドルになれるかもしれないですよね」

「バズればその可能性も出てくるかもしれないけどさ、普通に無理だと思うよ。誰が見てるかわからないってのはあるけどさ、それに期待するよりもサイコロを振ってた方が簡単だと思うな」

「それはそうかもしれないですけど、なぜか私のこの双六だけ苦手なんですよね」

「竹下さんってこれだけ弱いもんね。他のは普通に強いのにね。相性ってあるんだなって思うよ」

「これだけうまく行かないと運命とかそういうのじゃなくて、ただの嫌がらせなんじゃないかなって思いますよね。部長って本当に細工とかしてないですよね?」

「そういうのはしてないって。これを作った酒井さんだってそこまで出来るとは思えないしね。竹下さんて、どうしてこれだけは出来ないんだろうね」

「それは私が聞きたいですよ。私だってトップアイドルになってみたいですもん」

 卒業した酒井さんに聞いてみたいのだが、この双六には特定の条件を満たしている人は絶対にトップアイドルになれない呪いとかかかっているなんてことは無いだろうか。そんな呪いでもなければあれだけやっている竹下さんがトップアイドルになれないのはあまりにも不憫すぎると思うのだ。

 その反動で動画を撮りたいと言い出したのだとしたら、それはそれで迷惑な話だとは思う。でも、前は消されてしまったけれど、一度くらいはそういうのをしてみたいと思っていた俺もいたりするのは、竹下さんにも内緒にしておこう。

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