第39話 バケモノ
初めて死んだ。
死。
もっと痛くて、もっと苦しくて、もっと拒絶反応があるモノだと思っていた。
だけど、そうじゃなかった。
死は見た目以上に、なんていうか、無味だった。
死んでしまえば痛くもなければ痒くもない。
味なんて何一つしない。味って言い方はおかしいかもしれない。
無感覚では無い。むしろ死ぬ前は色んなことが頭をよぎって、五感が研ぎ澄まされたような感じだった。
だから適当にいい言葉が見つからないので、無味。
死は味がしない。
生きて姉と戦っていた方が痛いし苦しかっただろう。
死への恐怖が、1度死んだことで消えてしまったように思えた。
それが大切なモノなのか、くだらないガラクタなのか俺にはわからない。
「エグっ」
と俺はダンジョンの前で、全裸で呟いてみた。
「寒っ」
それに寒い。
でも動きたくなかった。
バケモノに近づいてしまったような気がした。
バケモノというのは海山のことである。ヤンキー3人組のことである。簡単に人を殺したり、殺すことを楽しんでしまったりする奴等のことである。
海山の場合はダンジョンで人を殺すだけでは飽き足らず、現実の世界でも人を殺して庭に埋めていた。
この世界にはバケモノが大勢いるのかもしれない。
もしかしてお姉ちゃんだってバケモノなのかもしれない。
実の弟をダンジョンで躊躇なく殺したのだ。
俺はお姉ちゃんが好きである。
父親はお姉ちゃん応援団の一員みたいになっているけど、本来の俺もお姉ちゃん応援団の一員なのだ。
そんな応援団の一員を姉は簡単に殺したのだ。
正直に言うとお姉ちゃんのスキルを下に見ていた。
筋肉強化。それだけのスキル。荷物持つのが楽になるだけ、ぐらいのスキルだと思っていた。
そんなハズレスキルでダンジョンで生きていくのはしんどいだろう、と思っていた。憂いていた。
だけどお姉ちゃんは予想に反してバリバリ強かった。
それが俺には嬉しい。悔しいという感情よりも嬉しいのだ。
だけど簡単に俺を殺すことができたことが悲しかった。
俺が知らないだけで姉はダンジョンの中で何度も死んで来たんだろう。
俺が知らないだけで姉は何人もの魔王を倒して来たんだろう。
それだけじゃない。もしかしてプレイヤーキラーと出会って返り討ちにもしてきたのかもしれない。
もしかしたらプレイヤー同士で喧嘩になって殺したこともあったのかもしれない。
姉が歩んできた人生が辛いモノであることが、俺を簡単に殺せることでわかった。
「寒くない?」
とヒマリが服を持って、やって来てくれた。
俺はチンポコだけを両手で隠した。
「チン毛ボーボー」
とヒマリが言う。
「お前は絶対にダンジョンに入るなよ」
と俺は言った。
「そんなことより、服持って来たから着いや」
と妹が俺の服を投げた。
「誓ってくれ。ダンジョンに入れへんって」
と俺が言う。
「いやー」
とヒマリが言った。
俺は立ち上がり、ヒマリの両肩を掴んだ。
下半身が露わになる。
「お前は勉強して、ええ大学に行って、夢を目指すなり、就職するなりしろ」
と俺が言う。
「チンポコ見えてるよ? しかもお兄ちゃん、その手チンポコ触った手やん」
とヒマリが言う。
「そんなんどうでもええわ」
と俺は言った。
「お兄ちゃん、なんで泣いてるん?」
「悲しいからに決まってるからやんけ」
と俺が言う。
俺は悲しいのだ。
お姉ちゃんも俺も普通に生きられなかった。
白石さんも普通に生きられなかった。
大切な人が普通に生きられないことが悲しいのだ。
「お前だけでもダンジョンに入るなよ」
と俺が言う。
「でもウチお金無いやん。大学には行くな、って言われてるし」
とヒマリが言った。
「お兄ちゃんが何とかしたる。お前は自分のことだけを考えて生きろ。お前は自分のことを大切に生きろ」
「お兄ちゃん肩痛いって」
とヒマリが言う。
「変態」
とダンジョンの方から声が聞こえた。
後ろを振り返ると髪の毛を真っ赤にしたお姉ちゃんが、ダンジョンから上がって来ていた。
白石さんも父親もいる。
「裸で妹襲うとか無いわ」
と姉が言う。
俺は腕で涙を拭った。
「早よ、服着いや」
と姉が言った。
俺は落ちていた服を拾った。
「体引き締まってるやん。俺の血のおかげやな」
と父が言う。
「チンポコも大きいし」と姉が言う。
「うるさい。俺の裸の感想を言ってんちゃうぞ」
と俺が言った。
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