第38話 VS姉

 ご飯を食べてから、すぐに山田家のクソダンジョンに降りて来るように姉に命令されて、仕方なくダンジョンに降りた。


「ちゃんとオトン、動画撮るんやで」

 と姉が言った。


「わかったであります、親分」とオッさんが言った。

 お姉ちゃんが帰って来て、父親はだいぶ浮かれている。


「これってアレですか? ユーチューブにあげる動画ですか?」と白石さん。


 ダンジョンには4人で降りた。

 ヒマリは危ないからお留守番である。危ないことするのか?


「そうそう。ユーチューブにあげる動画やで」とお姉ちゃんが言った。


「それじゃあ私も動画を撮っといいですか?」

 と白石さんが言った。


「編集できるの?」と姉。


「一応」

 と白石さん。


「助かる。2カメ回して」

 と姉が言った。


 2人がアイフォンのカメラを俺達に向けた。


「恥ずいわ。モザイクとかかけてくれへんの?」

 と俺は尋ねた。


「お前はAV男優か」

 と父親が言う。


「息子に対して、嫌なツッコミするな」と俺が言う。


「大丈夫。モザイクはかけられへんよ」

 と白石さんが言った。


「大丈夫ちゃうやん」

 と俺が言う。


「ええやん。モザイクみたいな顔をしてるねんから」と姉が言った。


「誰がモザイクみたいな顔やねん」と俺が言う。


「ほんじゃあ、やろうか?」

 と姉が言う。


「えっ、何やるん? 説明して」

 と俺が言う。


「訓練」と姉が言った。


「訓練?」と俺が首を傾げた。


「東京に行った時、こういうクソダンジョンがあって、冒険者の訓練所として貸し出されてたのをパーティーで使ってん。それが結構な人気でな、予約も激ムズやったわ。パーティーメンバーが予約してくれて」


「ちょっと待って話が長ない?」と俺は言う。


「クソダンジョンにも利用価値があるってこてや。訓練の最中に死んでも、たかが1年ぐらいしか寿命が奪われへんねんやろう。訓練所としては最高やん」と姉が言った。


「最高やん」とオーディエンスである父親が言う。


「っで、俺は何をするん?」


「私と戦うねん。ちょっとお姉ちゃんが忍を強くしたろう」


「ちょっと待って。俺強いで。絶対にお姉ちゃん死ぬわ」


「忍ってランクなんぼよ?」


「C」


「CとBには、すごい壁があるんやで」


 たしかにダンジョンもCランクは大量にあるのにBランクになると一気に少なくなる。


「ちょっと待って。準備だけさせて」と俺は言った。


「準備?」と姉が首を傾げた。


 俺は1人部屋のスキルを発動させる。

 そして部屋からグラビデと書かれたキャップを取った。


 ポールハンガーには2つのキャップが増えていた。3人のイジメっ子ヤンキーを殺した時に手に入れたキャップだろう。1人は無能者だったらしい。ちなみにキャップの色は2つとも黄色だった。グラビデは黒色なのに。もしかしたら色にも意味があるのかな? でも時間がないので新しく手に入ったキャップの文字までは見ることは出来なかった。


 グラビデのキャップを被り、外に出る。


「なんなん、そのダサ帽子?」と姉が尋ねた。


「内緒」と俺が言う。

 手の内は見せない。


「それじゃあ、ヨーイスタート」と姉が言った。


 俺は息を止めた。グラビデの発動条件は息を止めることである。


 本気を出したら殺してしまうので、手加減をするつもりだった。グラビデで足止めしてグーパンで勝利。この予定だった。


 お姉ちゃんは、消えた。

 グラビデでペシャンコになって消えた訳じゃなく、普通に俺の目の前から消えた。


 姉のスキルは知っている。

 筋肉強化である。

 ただ、それだけのスキル。

 瞬間移動とか、そんな激レアスキルじゃない。


 気づいた時には、姉は俺の目の前にいて、脇腹の辺りをグーパンチ。

 

 何一つ反応できなかった。


 肋骨が折れて肺に突き刺さった。


 痛いとか、苦しいとか感じる前に、次の攻撃が来る。

 早すぎて何をされているのか見えない。

 お姉ちゃんの足が上がっている。

 たぶん蹴られたんだと思う。


 俺の大切な内臓が爆破され、吹っ飛んで行く。


 ドスン、と飛ばされて天井にぶつかった。

 その一瞬だけ時間が止まったような感覚だった。

 

 息ができない。

 見下ろすと父親と白石さんがアイフォンのカメラを俺に向けていた。


 姉がコチラに飛んで来ている。

 ただのジャンプのはずなのにロケットのような勢いだった。


 姉の頭が、俺のお腹を抉って行く。


 気づいた時には、俺は裸でダンジョンの外にいた。

 

 俺、お姉ちゃんに殺されてるやん。

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