第36話 彼女のお尻を舐めたい

 彼女は過去のエグい部分まで俺に語ってくれたのだ。

 今の俺の気持ちというか、白石さんに対しての俺の気持ちをちゃんと伝えたいと思った。

 布団の中で彼女は俺から視線を反らした。


「白石さん」と俺は彼女の名前を呼んだ。

「正しい言葉では言われへんねんけど」

 きっと彼女の過去を聞いた後で、何を言っても正しくないようと思う。

 白石さんの過去を塗り替えられるほどのキラーワードを俺は持っていない。

 だから俺の言葉で彼女への思いを伝えようと思った。


「白石さんのお尻を舐めたい」


 彼女が俺を見る。


「なんなん? 急に」

 と白石さんが俺を見て、笑った。


「う〜ん、なんていうか、どうやって伝えたらええんやろう? 白石さんのお尻の中心にある毒まで、ちゃんと舐めたい。違うねん。違うねん。ちょっと引かんといて。そんなエッチな事を言ってる訳じゃなくて、なんていうか、比喩っていうか、なんていうか、白石さんの過去のエグみすらも、白石さんの毒すらも……わからんかな、この微妙なニュアンス。このニュアンスを伝えるためにお尻を舐めたいって言ったんやけど」


「わからんけど、お尻洗って来た方がいい?」


「いや。今舐めたい訳じゃなくて、そんなんじゃなくて……白石さんの毒すらも……」

 白石さんの毒すらも愛したい、と俺は言いたかった。

 だけどお尻を舐めたい発言よりも恥ずかしくて言えなかった。


「ダーリンは私のお尻を舐めたいぐらいに好きって言ってるん?」


「……うん」

 と俺は頷く。


 白石さんがニコッと笑った。


「もう俺は白石さんにギンギン」

 メロメロじゃなくてギンギン。


「でも俺は知ってんねん。白石さんは俺を利用したいだけって」


「まだ、そんな事を言ってんの?」


「俺となら、そのダンジョンを攻略できると思ったから俺と一緒におるんやろう?」

 なんとなくわかっていた。


「……」

 図星。


「白石さんなら利用されてもええわ、俺めっちゃギンギンやし。そのダンジョンを攻略出来たら白石さんは俺から去って行ってもええよ。白石さんにとって俺は用済みやし。もしそのダンジョンを攻略して、それでも俺と一緒にいたいならお尻を舐めさせて」


「変態さん」

 と彼女が笑う。


 最大の愛してる、を言ったつもりが変態になってしまった。


「その時はちゃんとお尻洗っていい?」

 と白石さんが言った。


「洗ってほしい」と俺は言う。「通販とかで売ってる高圧洗浄機で穴の奥まで綺麗にしてほしい」


 クスクスクス、と彼女が笑う。

「そんなんしたら死ぬわ」


「でも白石さんの両親を殺したダンジョンを攻略しても、そのダンジョンは滅ぶことは無いよ? 両親が帰って来ることはないよ?」

 と俺は言った。


 白石さんの父親のダンジョンが滅ぼされた頃はダンジョンの法の整理が、まだまだ追いついていなかった。だから何度も攻略することができたけど今ではランクによって攻略回数に制限がかかっている。

 それに彼等がやったように冒険者がダンジョンに入ることをストップさせるような権力も俺達は持っていない。

 ただBランクダンジョンを攻略するだけ。

 攻略したところで彼女の両親の仇が討てる訳ではなかった。


「それでもええねん」

 と白石さんが言った。

「それでもええから、あのダンジョンの奴等をブチ殺したい」


 俺達は世界を変えることはできない。

 それを彼女は理解している。

 それでもブチ殺したいのだろう。

 

「了解」と俺が言う。


「ダーリン」と白石さんが言った。

「キスしていい?」


「なんで急に?」


「……私はダーリンの全身を舐めつくしたい」


「なんなんそれ?」

 と俺は言って笑う。


「う〜ん。たぶんダーリンが言うように、初めはダーリンと一緒にいればアイツ等をブチ殺すことができるって計算もあったと思う。でも今ではダーリンにヌレヌレ」


 メロメロじゃなくてヌレヌレ。

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