第35話 白石さんの過去

 白石さんは幸福な家の幸福な一人娘だった。箱に入れられて南京錠までかけられるほどの箱入り娘だったのだ。


 家は裕福でほしい物は何でも買ってもらえたし、色んなところに旅行も行けた。

 その頃の彼女は世界は自分のためだけにあるように思っていたらしい。

 全ての物や人が自分に微笑んでいるように思っていた。


 父親は魔王だった。父親が運営するダンジョンはCランクで、Bランクまで、もう少しだったらしい。


 元冒険者の母親は専業主婦だった。

 スキル持ちの2人から産まれた彼女も同じようにスキルを持って産まれた。

 攻撃系のスキルは母親似だったらしい。

 

 平和で幸福な日常は彼女が小学6年生で終わってしまう。

 父親が運営するダンジョンに冒険者がパッタリと来なくなってしまったのだ。


 その代わりに来てほしくない冒険者がやって来た。それが大阪No.1ダンジョンの幹部達である。


 もしかしたらBランクダンジョンに上がることを警戒されたのかもしれない。もしかしたら、その当時からダンジョン協会というものがあって白石さんの父親は所属を拒んでいたのかもしれない。

 冒険者が来なくなったのも彼等の仕業なのだろう。


 彼等はあっという間に父親のダンジョンを攻略して、何度も何度も父親のダンジョンに潜った。

 その頃は、まだ法の整理もされていない時期で、魔王討伐後も彼等は何度も同じダンジョンに入る事が出来た。

 今は同じダンジョンの討伐は、ランクによって制限されている。


 父親の寿命は、すぐに奪われ尽くした。寿命を購入するのも高価である。

 それまで裕福だった家庭が、すぐに借金まみれになってしまうほど寿命は高価だった。


 廃業をすれば良かったのに、父親はダンジョン運営を続けた。彼等は巧妙だった。父親を倒す時にギリギリの勝利を演じていたのだ。

 それに来なくなった冒険者も、ダンジョン運営が崩壊しないように少しだけ戻って来た。


 だから父親は作戦を練れば、計画を立てれば、ダンジョンの運営を続けていけると思ってしまったのだ。


 気づいた時には幹部達は別のダンジョンに引き抜かれ、気づいた時には多額の借金と、誰も来ないダンジョンだけが残ってしまった。


 父親はバカだった。寿命を借金の担保にしていた。そして寿命を借金の担保に出来るということは、その金融会社の母体がダンジョンであることに父親は気づかなかった。

 そのダンジョンこそ、父親のダンジョンを崩壊に招いたダンジョンだったのだ。


 Bランクダンジョン。大阪で1番大きいダンジョンである。


 彼等は初めから父親を潰す気だった。


 父親のわずかの寿命だけでは借金の返済はできなかった。保証人になっていた母親の寿命も奪われた。

 白石さんの両親はBランクダンジョンの中で寿命を奪われるために何度も何度も殺された。


「借金を返した頃には2人の寿命は1週間も残ってへんかったわ」と彼女は笑った。

 無理して笑ったのだ。

「ホンマにアホやで。ダンジョンなんて運営せんかったら良かってん」

 

「最後の1週間は3人で寄り添って過ごしたわ。お母さんが言うねん。花は好きな人を作って幸せに生きなさいって。絶対にダンジョンに入ったらアカンって。でも2人が死んでから私は親戚をたらい回しにされて、14歳でダンジョンで稼いで1人で生きて行くしか道はなかった。チャンチャン」

 と白石さんが話を閉じた。


 そしてジッと俺を見つめた。


「エグっ」と俺は呟いた。


 

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