第33話 謎の男

 ダンジョンを上がると裸の3人が人魚のように地面に座っていた。

 冬真っ最中なので肌にはサブイボ。電動歯ブラシのようにブルブルと3人が震えていた。


「なんやねん。お前なにしてん?」

 と金髪デブ男の太井が言った。


「殺した」と俺が言う。


「嘘つけ」と太井が言った。


「命令する。鬼頭、お前がコイツをダンジョンに連れてって殺して来い」

 と太井が言った。


「はぁ? なんで俺がしなアカンねん。お前がしろや」

 と銀髪の鬼頭が言った。

 

「なんでお前、俺の命令が聞かれへんねん?」

 と太井。


「はぁ? なんでお前みたいなデブの命令を聞かなアカンねん」

 と鬼頭が言う。


「お前、コイツの目玉を取り出したいとか言ってたやんけ」と金髪デブ。


「あんなんノリで言っただけやろう。黙れデブ」

 と鬼頭が言って、太井の唇を触った。


「なにしとんねん」

 と太井が言う。


「なんで黙らんねん」

 と鬼頭が言う。


「寒い」

 ブルブルと前川が震えていた。


「もうええ。もうええ。俺がコイツを殺す。なんか刺すもんとかないんか?」

 と太井が言った。


「あっ」と前川が言った。

「最悪や。アイフォンとか財布とか全部ポケットに入れて来てもうたぁ」


「俺もや」と鬼頭。


「チェ」と太井。


「コイツ名前なんやっけ? 山田? ごめん山田。アイフォンと財布は返してくれへん?」

 イケメンの前川が言った。


「無理。ダンジョンで奪われた物は俺達のモンやから」

 と俺が言う。


「最悪」と前川。


「売ることやったらできるで」と俺は言った。


「なんぼ?」


「アイフォン15万。財布は現金を抜いて1万。ただし保管期間は1ヶ月。1ヶ月過ぎるとメルカリで売ってしまう」

 と俺が言う。


「高っ」

 と前川が言った。


「命令する。俺のアイフォンと財布を返せ」

 と太井が言った。


「一瞬で俺に殺されたくせに、なんでお前が俺に命令できんねん?」

 と俺は言って、冷めた目で太井を見た。


「なんでお前も俺の命令が聞かれへんねん」と太井が言う。


「寒っ」と鬼頭が言った。「なんか服ないん?」


「服ありますよ」

 と家の中から白石さんの声が聞こえた。

「今なら服一着だけ限定で売っております。10万円で売っております。一着限定でございます。本日は服とバスタオルのみの販売になっております」


 いらっしゃい、いらっしゃい。

 と白石さんが商売を始める。


 10万円で売られている服というのも女性物のワンピースだった。

 それに裸の3人に、どうやってお金の回収をするんだろう? ふざけているだけなのか?


「ふざけんなよ。俺がお前に殺される訳ないやん」

 と太井が叫んでいた。


「ダンジョンに降りてこいや。俺が殴り殺したるわ」

 と太井が言って股間を手で隠して、ダラシない体を揺らしながらダンジョンに降りて行く。


 気が滅入る。

 また殺すのか?

 なんでアイツは醜い裸を晒してイキがることができるんだろうか?


 仕方が無いので、俺もダンジョンに降りて行った。


「どんな仕掛けを使ったかわからんけどな、お前みたいな雑魚……」

 太井が喋っている途中で、俺は本気のグーパンチで彼の顎を殴った。


 顎が千切れて吹っ飛び、首が勢いでねじ曲がって彼が倒れた。


 キモっ。


 やっぱり吐きそう。

 俺に殺させんといてくれ。


 血の匂いが臭い。死んだ見た目も胸糞だし、殺す感覚もキモち悪い。


 よかった。俺は人を殺すと気持ち悪いと感じる。


 しかもゴミグズを殺しても、ちゃんと罪悪感はある。

 殺してごめん。誠にすみまめーん、って気持ちが太井を殺したのだ。


 金髪デブの肉体が消えたのを見届けてから、俺はまたダンジョンを出た。


 太井はさっきと同じように人魚のような体勢で地面に座っていた。

 俺を見て、すぐに視線を反らしてコイキングのように金髪デブが跳ねた。


「一瞬で殺されてるやん」と前川が呟いた。

 彼は女性用のワンピースを着ていた。


「もう一回行って来いよ」と鬼頭が言う。

 彼はバスタオルを風呂上がりの女性のように巻いていた。


「もうええわ」と太井が言った。「帰らせてもらうわ」

 金髪デブが股間を隠して立ち上がった。


「お前、それで帰るんか?」

 と鬼頭が尋ねた。


「ええねん。これでええねん。帰る。ダッシュ。ダッシュ」

 と太井が全裸で山田家の敷地から出て行く。まるで化け物から逃げるような素早さだった。

 

 キャー、と女性の悲鳴が家の前から聞こえた。そして原付のエンジン音。

 残りの2人も震えながら去って行った。



「いい商売をしていますね」と聞きなれない男性の声が聞こえた。


 俺は辺りを見渡す。誰もいない。


「ココですよ」

 と声の主が言った。


 俺のすぐ近くに、スーツを着た男が現れた。

 瞬間移動? 

 透明人間?

 いや、違う。

 ずっと俺が気づかなかっただけで、彼はそこにいたのだ。


「新しいダンジョンが出来たと伺ったので見に来てみたら白石花さんじゃないですか? お久しぶりですね」と男が笑った。


 気味の悪い男だった。

 痩せ型の30代。黒いスーツを着ている。

 目にはクマがあった。

 死神をイメージさせる雰囲気を持った男である。


 白石さんを見ると鬼の形相で、謎の男を睨んでいた。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る