第32話 VSイジメっ子ヤンキー
気分が重たいのは、自分の意思で初めて人間を殺そうと思っているからかもしれない。
海山の時は仕方がなかった。
魔王を倒す時は、生身の人間じゃなくて魔物の延長線上にいるラスボスを倒している感覚で、人間を殺したなんて1ミリも思わない。
だけど、これから来る3人は人間だった。会話もしたことがあるし、ご飯を食べているのを見たことあるし、笑っている姿も見たことがあるのだ。
居留守を使う事だって出来た。
だけど俺が彼等を殺すためにダンジョンに招いている。
彼等が奪ったはずの父親の寿命を取り戻そうとしていた。俺と福ちゃんをイジメていた復讐をしようとしていた。
俺にとってはイジメっ子ヤンキーは過去の敵だった。
だけど今では俺に彼等は敵わないだろう。頭の中で、どんなシュミレーションをしても俺は彼等を殺すことが出来た。
彼等がどんなスキルを持っていたとしても、3人が俺のことを弱いままだと思っている限り、簡単に殺す事ができるだろう。
吐きそう。
ダンジョンを降りて来る足音が聞こえた。3人は楽しそうにお喋りしながら降りて来ている。自分達が殺されるとも知らないで。
俺は立ち上がった。
そして息を止めて移動した。
スキルを使うには発動条件だったり、制約があったりする。
水を出すために蛇口を捻る。←これが発動条件。
蛇口の水は2リットルまでしか出ない。←これが制約。
俺のスキルである1人部屋は制約しかない。1週間使ったら1日使えなくなる。
でも海山から奪ったグラビデには息を止める、という発動条件があった。
息を止めると体が軽くなる。まるで俺自身が雲になったみたい。
グラビデといえば紫色の球体をイメージする。FFのイメージなのかな? でも実際のグラビデは重力を操るスキルだった。
目に見えないし、重たくすることも軽くすることも出来る。
グラビデを使った素早い移動には、多少のコツが必要だった。足首までは重たさを残す。重みがないと進まないのだ。
動体視力が悪い人間には俺は見えないだろう。そんな速度で移動した。
たぶん海山より俺の方がグラビデを使いこなしていた。もしかしたらレベルという概念がある俺の方が強力なスキルを出せるのかもしれない。
3人がダンジョンに降りて来た。
彼等は俺を見て、バカにしたように笑った。
「なんでお前がココにおんねん」
と金髪デブが言った。
「俺、ココの幹部になってん」
と俺は言った。
3人が爆笑している。
なんで、そんなに面白いんだろうか?
「死にたがりやん」「早よ殺そう」「コイツ殺したら、あの太ったオッさんが出て来るってこと」「どんな殺し方したい?」「はーい。俺、目玉取り出したい」
俺は息を止めた。
目に見えない大きな鉄板に潰されてように、彼等は臓器をグチョグチョにさせてペシャンコになった。
血の匂いが立ち込めた。
初めてダンジョンに入った時のことを思い出した。白石さんの元パーティーメンバーの立花と岡崎だっけ? アイツ等が内臓を飛び出して死んで行く姿が脳裏に蘇った。
海山をダンジョンの中で殴り殺したことを思い出した。人を殴り殺した感触。
ゲロゲロゲロ。
俺は吐いた。お昼に食べたオムライスを吐き出した。血の匂いとゲロの匂いが立ち込めた。
俺は自分のゲロを見ながらホッとしていた。
人を殺して楽しんでいた海山と俺は違う。
人を傷つけて楽しんでいた3人とも俺は違う。
ちゃんと俺は人間だった。
人の死に対して恐怖も胸糞も感じる。それに蘇るからといって人間を殺したいとも思わない。
ダンジョン運営をするということは、人を殺し続けることなのかもしれない。
俺は父親に働いてほしいと思う。一家の大黒柱に返り咲いてほしいと思う。
だけど人を殺してほしいとは思わなかった。
それが、もしダンジョンの外で蘇るとしても。
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