第28話 VS中年ヤバ男 2

 海山が大剣を父親に振り下ろす前に、黄色い光が中年ヤバ男を包んだ。

 

 何が起きたのかはわからない。わからないけど海山がビリビリと痺れていた。

 光の発生源を見ると、そこには白石さんが立っていた。

 

 オッさんを守るために白石さんがダンジョンを降りて来てくれたみたいだった。


 助かった、とは思えない。

 白石さんの寿命はマイナス50なのだ。

 それに海山は強い。

 もしダンジョンで死ぬことがあれば、寿命が尽きるかもしれないのだ。


 サンダーの出力が止まった。

 電気を溜めるためのアイドリングタイムが生じている。


 海山は白石さんのサンダーで倒れなかった。

 服が焦げて体から黒い煙を出ているのに、海山はサンダーに耐え切ったのだ。

 どんだけ強いねんコイツ。


 そして海山の標的が、彼女に変更された。


 守らなくちゃいけない女性が狙われているのに俺は足がブルって動けない。

 白石さん逃げてくれ。

 彼女は誰よりも殺されてはいけなかった。

 それに、この戦いに白石さんは関係がない。


 さっきまでノソノソと楽しそうに歩いていた海山が、白石さんに向かって猛ダッシュ。

 スキルで重力を操っているのか人間が出せるスピードを超えていた。


 白石さんのサンダーが溜まるまでのアイドリングタイムが映画8本ぐらいに感じられた。


 俺は何も出来なかった。

 息を止めて、白石さんが死なないように願うしか出来なかった。

 なんて俺は不甲斐ないんだ。

 俺は弱い。

 大切な人を誰も守られへんやん。


 海山のスキルの許容範囲に白石さんが入ったらしく、彼女は四つん這いになって倒れた。


「邪魔してんちゃうぞ」と海山が叫んで大剣を振り上げた。


 白石さんが殺される。

 俺は下唇を噛み締めた。


 俺の足元で、コツンと何かが当たる感触がした。下を向くと父親が召喚した赤ちゃんトレントがボールを持っていた。


 そこからは思考はストップ。

 ただ白石さんを助けるために体が動いた。

 赤ちゃんトレントが持って来たボールを掴んで、全力で投げた。

 銃弾のように早いボールが海山の頭に当たった。

 さすがにボールを後頭部に当てられて、海山は大剣を落として、膝から崩れ落ちた。

 そこに白石さんがサンダーで攻撃する。


 俺は海山の元へ走った。

 

 辿り着くと中年ヤバ男に俺は馬乗りにして、何度も何度も顔面を殴った。

 コイツは殺さなアカン、コイツは殺さなアカン、それだけはわかっていた。鼻が抉れ、目が潰れても殴り続けた。


 そして海山は死んだ。

 彼は透明になって消えた。


 はぁ、はぁ、と俺の息が上がっていた。

 殺すことが出来た。

 だけど自分の弱さに舌打ちした。

 たまたま殺すことが出来ただけで、白石さんにも危険な思いをさせてしまった。


「お父さん」と白石さんが言って、父親の元へ駆け出した。

 今更だけど、彼女はお父さんと呼んでいる。どいつもコイツも距離の縮め方がバグってる。


 俺も倒れていた父親の元へ向かった。


「アカン。もう死にそうやわ」

 と白石さんが言う。


 父親は何度も刺され、血まみれで虫の息だった。


「私、ポーション残してるから、それを使おう」と白石さんが言った。


「どこにあるん?」


「部屋」と彼女が言った。


「海山が入り口で裸でおるで。何をされるかわからん。一緒に取りに行こう」と俺は言った。


 ダンジョンで殺された人間は、アイテムを全て奪われて、入り口で蘇る。


 俺の頭は冷静だった。

 外で何かされたら法律違反である。

 だから証拠を取っておかなくてはいけなかった。


「アイフォン持って来てる?」と俺は尋ねた。


「持って来てへんよ」と彼女が言った。


 俺は父親のポケットを探った。

 やっぱりあった。

 海山にダンジョンに引きずられて、父親はアイフォンを置く時間も無かったのだ。


「コレで動画撮影しといて」

 と俺は言って、動画を撮影するアプリを開いて彼女に渡す。


「なんで?」


「何かあった時の証拠」と俺は言った。



 死んで身ぐるみを剥がされた海山がナニカをする、と思っていた。

 だけどヤバい男は俺の予想を上回ることをしていた。


 ダンジョンから出ると、そこには全裸の中年男性が、たまたま帰って来てしまった小学生の妹の首を絞めていた。


「山田家、全員殺したる」

 と海山はトチ狂った目をして呟いていた。


 

 


 

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