第25話 一緒に寝たらええのに
俺の部屋、というか彼女の部屋。
俺達はベッドに座っていた。
「ホンマにごめん。ウチの家族が」
と俺は言った。
「ええよ。ええよ」
と白石さんが言った。
「こんなに楽しい食事は久しぶりやったわ。私、家族を失ってるから」
そうか、とも何も言えず、ちょっと気まずい。
ごめん、と謝るのも違うような気がした。
「トレント可愛かったな」
と気まずさを察した白石さんが話を切り替える。
トレント。ご飯を食べ終えてから白石さんは父親にダンジョンに連れて行かれた。俺も仕方がなく付いて行った。父親が言っていたように5センチぐらいの若葉が芽吹いていて、それを父親が抜くと本当に赤ちゃんトレントだったのだ。
せっかく気持ち良く寝てたのにとトレントは怒ってピャーピャーと泣いた。オッさんはすぐに土に戻していた。
「オッさんの召喚能力が絶望的ってことがわかった」
ハハハハ、と白石さんが笑う。
「ダンジョンじゃなくて物置きとかにしたらええんちゃうん?」
と白石さん。
「物置には湿気が多すぎて向かんみたいやわ」
と俺が言う。
「あのダンジョンをホンマに運営してるん? お父さんすぐに殺されるんちゃうん?」
「もう10年分殺されてるわ」
「……アカンやん」
「俺、幹部になってあげんねん」
「ダーリン強いもんね」
「強くないよ。もっとレベル上げなアカンわ」
と俺が言った。
「一緒にダンジョンに潜ろうね」
と彼女が微笑んだ。
ポクリ、と俺は頷いた。
一緒に潜って魔王を倒したら彼女の寿命も少しは回復するかもしれない。
「ダーリン、今日はどこで寝るん?」
と白石さんが尋ねた。
リビングで寝ようか、と考えたけど俺の布団は1つしかない。
この布団を取ってしまえば白石さんが寒い思いをしてしまうだろう。
「スキルの1人部屋で寝ようと思う」
と俺は言った。
「一緒に寝たらええのに」
と彼女が言う。
「付き合ってへんのに一緒に寝られへんやろう」
と俺が言う。
「ダンジョンの時は一緒に寝てたやん」
と彼女が言った。
「その時はベッドが1つしかなかったし、お互いの体を癒さなアカンかったから仕方がなかったやん」
と俺が言う。
「スキルの部屋を普段から使ってたら、本当に必要な時に使われへんようになってまうよ?」
と彼女が言った。
「大丈夫」
と俺は言う。
そして「おやすみ」と俺は言って、彼女の部屋を出た。
寝る前にトイレに行って、スキルの1人部屋に入った。
スキルの部屋は冬だろうが寒くはない。
まだ枕が無いので少し寝にくいけど、疲れていて、すぐに睡魔に襲われた。
大きな掃除機に吸い込まれているような気がして、目を覚ました。
起きると1人部屋の扉が勝手に開き、置いていた荷物が次々と扉の向こうに吸い込まれて行く。
そして最後には俺までも外に出されてしまった。
家の廊下に放り出されたのだ。
バタン、と1人部屋の扉が閉まり、扉が消えた。
それから、どれだけ念じても2度と扉は現れなかった。
はぁ、と俺は溜息を付いた。
1人部屋に物を置いてから1週間が経ってしまったらしい。
これから丸一日は使えない。
とりあえず汚い服は洗濯に突っ込んで、白石さんのプロテクターは手洗いの可能性があるから洗濯機の近くに置いておく。そう言えば、まだ白石さんにお金も返してなかった。明日返そう。
リビングで寝ようと思ってソファーで寝転んだ。寒いよパトラッシュ。寒いよ。寒すぎて天使が迎えに来そうになったので断念。
白石さんの甘い誘惑を思い出す。
そして俺は彼女の部屋をノックした。
コンコン。
「はい」
と彼女の小さい声が聞こえた。
俺は扉を開ける。
「まだ起きてた?」
「眠られへんくて」と白石さんが言った。
「そうか」と俺は頷く。
「白石さんのプロテクター、丸洗いできるかどうかわからんかったから、洗濯物の前に置いたで」と俺は言った。
「ありがとう。明日手洗いするわ」
「お金」と俺が言う。「明日必ず返すから」
「別にええよ」と彼女が言う。
「お金はちゃんと返すから」
と俺は言った。
「ありがとう」
「それと」と俺が言う。
「1人部屋が使われへんようになってしまったから……ベッドに入らしてくれへん?」
「おいで」
と白石さんが言った。
闇の中でわからなかったけど、彼女が微笑んだような気がした。
俺は彼女のベッドの中に入った。
ベッドに入ると彼女が俺を抱きしめた。そして俺の胸に白石さんが顔を当てる。
俺は彼女を腕枕した。
「ダーリンの胸の中は安心する」
と彼女が言って、のび太くんばりに一瞬で眠った。
もしかしてエッチなことをして来るんじゃないかと思ったけど、一瞬で寝むってしまうほど疲れていたらしい。それでも俺が来るまで眠っていなかったのは明日になるのが怖いせいだろうか?
あまりにも俺も眠たすぎて、目を瞑ると一瞬で眠った。
目覚めると昼前だった。
一緒に眠っていたはずの白石さんはいない。
リビングに行くと白石さんがノートパソコンで何かをしていた。
山田家にはノートパソコンなんて無いから、白石さんが持って来たもんなんだろう。
庭にはプロテクターが死体のように干されていた。
「何してんの?」と俺は尋ねた。
彼女はパソコンの画面から顔を上げた。
「ダーリン、起きたん? めっちゃ寝てたね」
と白石さん。
「寝すぎて頭痛いわ」と俺は言いながらパソコンの画面を覗いた。
動画編集の画面だった。
「お父さんから編集頼まれてるねん。オモンない場面を切ってくれって言われてるんやけど、逆に面白いところがない」と白石さん。
「そんなんやらんでええよ。ちゅうか白石さん動画編集なんて出来たん?」
「多少は出来るよ。ダンジョン動画をアップしていたパーティーに入ってたこともあるし」
と彼女が言う。
「へーー」と俺は言った。
ガラガラ、と扉が開いて庭からオッさんが入って来る。
「花ちゃん、もう動画編集出来た?」
とオッさん。
なぜかはわからないが父親に物凄く腹が立った。なにが花ちゃんやねやん。白石さんに動画の編集をさせるな。
「まだです」と白石さんが言った。
「ココも切っていいですか?」
父親が白石さんに、急接近する。
「白石さんに近づくな」と俺が言う。
「嫉妬か?」と父親。
「なんでオッさんに嫉妬しなアカンねん」
「キッチンに菓子パン置いてるで」とオッさんが言う。
キッチンに置かれているサンミーという菓子パンを齧りながら2人の様子を伺った。白石さんは巨漢キモ男にしょーもない指示を出されても何一つ嫌がることなく、動画を編集していた。
「その動画誰が見るねん」と俺は呟いた。
だけど2人には聞こえなかった。
ピンポーン、とインターホンが鳴った。
母はパートでいない。妹は日曜日だから友達のところに行ってるのだろう。そして白石さんとオッさんは動画の編集をしている。
俺が玄関に出るしかなかった。
サンミーを飲み込んで、玄関の扉を開けた。
そこにいたのは俺が世界で一番嫌いな先生だった。海山である。
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