第23話 ダーリン

「重っ」

 と白石さんが言った。


 彼女は修学旅行3回分の荷物を持っていた。


「あっ、持つわ」

 と俺は言って、彼女の荷物を持って玄関に置く。

「あっ、持つわ、ちゃうねん」と俺は自分が言ったことに対してツッコむ。

「なんで白石さんがおるんよ?」

 と俺は尋ねた。


「なんでって、今日からココに住むから」

 と彼女は靴を脱ぎながら言った。


「なんで住むことになったん?」

 と俺は尋ねた。

 当然の質問である。


「電車で別れたやろう? あの後、山田君の家を知りたくて付いて行ってん」

 

「話の途中やけど、おじゃまします」と彼女が言って、家に入る。

「荷物運んでや」

 と彼女が言う。


「おぉ」と俺は言って、彼女の荷物を持つ。

 そして階段を上がって、元俺の部屋に行き、彼女の荷物を降ろす。

 俺も自然に彼女を受け入れてる。


「話の続きは?」

 と俺が尋ねた。


「ほんで。ダーリンを追いかけて」

 と白石さんが言う。


「ちょっと待って」と俺は話をストップさせる。

「ダーリンってなに?」


「山田君のこと。心の中でそう呼んでる」

 と白石さんが言った。


「それじゃあ口に出さんといて」

 と俺が言う。


「なんで?」

 と白石さんが尋ねた。


「めっちゃ恥ずかしいやん。いや違う。俺達付き合ってへんやん」

 と俺が言う。


「私、明日死ぬかもしれへんから好きな人のことをダーリンって呼びたいねん」


「わかった、呼べ」


「やったー」

 と白石さんがピョンと飛び跳ねる。

「ダーリン。ダーリン」

 彼女が言って、俺の腕をギュッと掴む。

 胸が腕に当たっている。


「好きになるから、それ以上近づくな」

 と俺は言った。


「好きになってええよ」

 と白石さんが言った。


「アカン」と俺が言う。「白石さんは俺を利用したいだけやねん。白石さんの好意は嘘や。俺は騙されへん」


「まだ、そんな事を言ってんの?」

 と彼女が言う。


「俺が強いから好きになったんやろう? 強い人が必要やったんやろう? 親の仇を討つために」


「……たしかに」

 と彼女が言う。

「でもダーリンの体も好きやし、レベルが上がるところも好きやし、始めは思わんかったけど顔も引き締まってカッコ良くなったし、優しいし、ちょっと変態やし、ホンマに好きやねんで」


「目的を果たした時に、その言葉が言えるんかな」

 と俺は言った。


「どういうこと?」


「1人で親の仇なんて討たれへんやろう? ランクを上げて、その親の仇のダンジョンに一緒に入ったるわ。目的を果たした時に白石さんが、それでも俺の事を好きって言えるんやったら、白石さんの好意を信じたるわ」

 と俺が言った。


 どうせ俺もランクを上げて、もっともっとお金を稼がなくてはいけないのだ。

 ついでである。

 

「ダーリン。好き」

 と彼女が言って抱きしめてくる。


「その言葉は俺を利用するためだけの言葉や」

 と俺は言う。

 自分に言い聞かせている。

 抱きしめられると女性特有の甘い匂いがした。

 ちょっと下半身が硬くなってしまう。


「ホンマやもん」

 と彼女が頬を膨らませた。


「話が脱線したけど、さっきの話の続きは?」


「えーっと、どこまで話したっけ?」

 と白石さんが尋ねた。


「俺を追いかけて家まで来たところ」


「そうそう。電車から出るフリをして、隣の車両に移ってダーリンを追いかけて家まで付いて行ってん」

 と白石さんが言う。


「何をしとんねん」

 と俺が呟く。


「キモい?」

 と白石さんが尋ねた。


「キモい」と俺が答える。


「でも家に迎えに行く、って言ったやん。私ダーリンの家知らんから」


「キモい」と俺が繰り返して言う。


「ガーン」

 と彼女がショックの時に漫画の背景に出る擬音を口に出す。


「人の家まで隠れて付いて来たらアカンやん」

 と俺は普通な事を言う。


「ガーン」と彼女が言葉を繰り返す。

「他の女のことは嫌いになっても、私の事は嫌いにならないでください」


「AKBを卒業した時の前田敦子の逆バージョンみたいな事を言うなよ」


「付いて行ってごめん」

 と白石さんが言う。


 全然いいし、怒ってない。

 白石さんなら許す。

 でも、そんな事は彼女に言わない。


「許してほしいんやったら、また俺の唾液を飲んでや」

 と俺は言った。


「飲む」

 と彼女は即答だった。

「ダーリンは唾液を飲ませるのん好きなん?」


「わからん。でも受け入れられてるって感じがする」


「もっと受け入れてあげるよ」

 と彼女が俺の耳元で囁いた。

 

 白石さんが耳元で囁いたもんだから、彼女の息で鼓膜が揺れてクスぐったい。

 エロい。

 エロすぎてビンビンである。


「ダーリン、たってるやん」

 と白石さんが言う。


 俺はベッドに座った。

「たってへんし」

 と俺が言う。


 彼女も隣に座る。

「唾液いっぱいちょうだいな」

 と彼女が俺の耳元で、また囁いた。


「その囁くのアカン」

 と俺が言う。


「なんで?」

 と白石さん。


「クスグッたいわ」

 と俺が言う。


 フーーー、と白石さんは吐息だけを耳にかけてきた。


「だからクスグッたいって」


「面白い」と彼女が笑う。


「ほんで話の続き聞かせて」と俺が言う。


「家まで付いて行って、ダーリンとお父さんがすぐに車でどっかに行って、私も帰ろうとしてたところでお母さんに見つかって、ダーリンの彼女として挨拶しなアカンと思って」


「ちょっと待って。だから俺達は、まだ付き合ってへんって」

 と俺が言う。


「あんなに唾液を飲ませたのに?」


「白石さんは俺を利用したいだけやねんって」


「ずっと、それ言うやん。もうダーリンの唾液、飲んであげへんからな」


「それじゃあ家まで付いて来たこと許さん」


「唾液飲む。いっぱい飲んであげる」と彼女が言う。


「ほんで、どんな挨拶したんよ?」


「山田君とお付き合いさせてもらってます白石花といいます、って普通に挨拶したよ。お母さんはキョトンとしてたけど家に入れてくれたわ」


「なんでオバハンもキョトンとしながら家に入れるねん」

 と俺は呟いた。


「ほんでお母さんと話し込んでたら部屋が余ってるから部屋を貸したいって話になって、その場でお金を払って部屋を借りてん」

 と白石さんが言う。


「部屋なんて余ってへんねん」

 と俺が言う。

「ココも俺の部屋やねん」


「ってことはダーリンと私が一緒に住むってこと?」


「住むか!」と俺が言う。

 そんな事をしたら絶対に俺は白石さんのことを好きになるし、白石さんの手首のマイナス50をどうにかしたくなるし、彼女を手放してくなくなるし、絶対にエッチなことをする。

「俺はリビングで寝る」


「一緒の部屋でええやん」

 と彼女が言った。

「エッチなこといっぱいできるで?」


「付き合ってへん2人が実家の部屋で同居ってヤバいやろう?」

 と俺が言う。


「付き合えばええやん」と白石さんが言った。


「白石さんが本当に俺のことを好きってわかったら付き合うわ」と俺が言う。


「好きってわかったらダーリンは私と付き合ってくれるん?」

 と彼女が尋ねる。


「そうや」

 と俺が言う。


 彼女がベッドに寝転んだ。


「ねぇ、ダーリン」と白石さんが言った。「唾液ちょーだい」


 彼女が口を開けて待っている。

 俺は彼女に唾液をいっぱい飲ませた。

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